第8話 皇居直下ダンジョン入口防衛戦・後
"うおおおおおイセケンだ!"
"IsekenTVと田中誠チャンネルのコラボやばすぎる"
"イセケンとシャチケン、名前も似てる"
"帰還者二人とか戦力ガチじゃん"
"最強の二人"
"おっさん二人、ただし最強"
"この二人が皇居直下ダンジョンの側で戦うとか熱すぎんか?"
「イセケンさん、実はダンジョンが開いて……」
「ま、見りゃなにが起きたか分かる。あの門を封鎖すりゃいいんしょ?」
「話が早くて助かります」
「んじゃ俺が道を開くから、まこっちゃんが突っ込んでよ。まこっちゃんが門についたら金星を出すからサ」
「分かりました。それで行きましょう」
イセケンさんの意図を汲んだ俺は、腰を低くし足に力を溜める。
そして地面を思い切り蹴って超加速して門に向かう。
『ガアッ!!』
『ゴオオオッ!!』
俺の行く手を塞ぐようにモンスターたちが立ちはだかる。
しかし今度は剣は抜かない。なぜなら今回は、心強い味方がいるからだ。
「観客は下がってな。冷めんだろ」
無数の火球が放たれ、モンスターたちは一瞬で蒸発する。
一部の覚醒者のみが使える技術、『魔法』。
魔素の消費が激しく、思い通りに発動するのが難しいため、魔法をメインに戦闘をする人は少ない。遠距離攻撃を行う時のみや、戦闘の補助として使う人がほとんどだ。
しかしイセケンさんは、戦闘でほぼ魔法しか使わない。
あらゆる属性の魔法を詠唱無しに発動する彼の魔法の腕は、世界でもトップクラスなのだ。
「まこっちゃん準備はいいか!」
「はい!」
「OK! 出てきな金星!」
イセケンさんが手を上げると、そこに巨大な丸い金属の塊が出現する。
そしてイセケンさんはそれを俺の方に思い切りぶん投げる。
"え、なにやってんの!?"
"仲間割れ!?"
"いや、考えがあるでしょ"
"あ、分かったかも"
"頼む、早くダンジョンを閉じてくれ!"
高速で飛んでくる巨大な金属球。その方向は厳密には俺の方向ではなく、俺の頭上を通過するように飛んでいる。
俺は一度門を見て位置を確認すると、回転しながら跳躍し金属球に接近する。
「――――むんっ!!」
俺は回転しながら金属球に迫ると、その回転の勢いを乗せたまま金属球を蹴る。
金属球はぐにゃ、と変形しながら超加速し、まるで隕石のような速度でダンジョンの門に激突する。
"え"
"は?"
"うおおおおお"
"音すごっ!"
"え、音した?"
"こいつ、もう耳が……"
"シャチケントルネードじゃん"
"これが高次元サッカーか"
多数のモンスターを屠りながら激突した金属球は、激突の衝撃で更に形を変え、門にガッチリとはまってしまった。
さすがイセケンさん。サイズがピッタリだ。
「しゃあ! ナイスまこっちゃん! じゃあ後は俺ちゃんが封印かけっから、残りのモンスターよろしくぅ!」
「はい。そっちはお願いします」
俺とイセケンさんは位置を交換して、それぞれの役目を果たす。
「俺ちゃん特製封印魔法!」
「我流剣術、瞬」
こうして俺たちは、なんとか街に被害を出さずにモンスターを食い止め、平和を守ることに成功するのだった。
◇ ◇ ◇
「でりゃあ、レイピアキックゥ!!」
門周辺のモンスターを全て倒し、逃げ隠れている個体を探していると、聞き覚えのある野太い声が聞こえてくる。
そちらに行ってみると、そこにはモンスターを倒し終えた雪さんの姿があった。
どうやら雪さんも戦っていて、モンスターを食い止めてくれていたみたいだ。
「ぜえ、ぜえ……あら、田中ちゃん。こっちはもう終わったわよ」
「ありがとうございます、助かりました」
気配を探ってみると、外にもうモンスターの気配は感じられなかった。
街への被害もなさそうだ。俺たちは防衛に成功したんだ。
「……ところでレイピアを持っていませんが、それでもレイピアキックって撃てるんですか?」
「心のレイピアがあれば撃てるわ。威力は落ちるけどネ」
雪さんはドヤ顔で言う。
昔はレイピアの名手だったけど、雪さんは皇居直下ダンジョンの時に負った怪我で、レイピアが振れなくなってしまった。そのため今はレイピアのしなりを利用した独自の格闘術で戦っている。
その一つが「レイピアキック」なのだが……本当にレイピアの意味があるかは俺にも分からない。本人があったほうがやりやすいならそれでいいけど。
「うぇーい! まこっちゃんに雪ちゃん! そっちも終わった感じ? 街に被害もなさそうだし、やっぱり俺たちは最強のパーティって感じだな!」
無事に門を封印し終わったのか、イセケンさんもやって来る。
帰還者が三人もいて、助かった。もし一人でも欠けていたらモンスターが外に出ていたかもしれない。追悼式の日に事件が起きたのは不幸な出来事だが、そのおかげで対処できる強い人が何人もいたというのは皮肉な話だ。
……さて、今回は上手くいったが、この先どうするかが大事だ。
俺は周囲にドローンがいないことを確認すると、イセケンさんに尋ねる。
「イセケンさん。正直その封印っていつまで持ちますか?」
「そうだな、三日は持つと思うけど、強え奴が地上に出ようとしたらすぐにでも破られるかもしんねえな。活性化しちまった以上、いつまでも蓋はできねえぜ」
「そうですよね……」
七年間封印が保たれていたのは、ダンジョンが非活性状態だったから。
活性化した今、ずっと扉を封鎖するのは不可能だ。つまり、
「……またあのダンジョンに入らなくちゃいけない」
俺の言葉に、雪さんとイセケンさんの表情が引き締まる。
俺たち、いやこの国は、ずっと皇居直下ダンジョンの問題を先送りにしてきた。
臭いものに蓋をするように、それのことをずっと忘れようとしていたんだ。
しかしとうとう、向き合う時が来た。
俺たちはまた、あれと戦わなくちゃいけないんだ。
「師匠、見守っていてください」
政府の人間がこちらに近づいてくる足音を聞きながら、俺はそう呟くのだった。




