第7話 皇居直下ダンジョン入口防衛戦・前
「……間に合ってよかった。まさか本当に皇居直下ダンジョンが再活性してるなんて」
オーガを斬り伏せた俺は、周囲の状況を確認しながら呟く。
ダンジョンを塞いでいた扉は内側からこじ開けられていて、外には数十体のモンスターが出てしまっている。
幸か不幸か、出現したモンスターは大型のものが多いので、門に引っかかって思うように外に出られないでいた。しかしそれでも数分でこれだけの数が外に出てしまったんだ、このままだと甚大な被害が出る。早急に対処する必要がある。
『ゴアアアア!!』
地面を揺らすほどの咆哮と共に、巨体が俺のもとに迫る。
あのドラゴン、タイラントドラゴンか。こんな大物が外に出ているなんてな。
俺は鞘にしまった剣を握ると、跳躍しその頭部に迫る。
「ここはお前が来るところじゃない。帰れ」
俺を一呑みにしようと向かってくるタイラントドラゴンに向けて、高速の居合を放つ。
その一撃はタイラントドラゴンの体を縦に両断し、その命を奪い取る。
"うおおおおお!!"
"シャチケン最強!"
"マジで来てくれてありがとう!"
"ヒーローは遅れてやって来る"
"でもまだモンスター多いよ!"
"なんとかしてくれ!"
政府の配信ドローンがレンズをこちらに向けてくる。
こんな緊急事態を配信に乗せてしまって大丈夫かと心配になるが、今はそれを気にしている暇はない。俺は目の前の敵を倒すことに集中する。
「我流剣術、滑り無尽斬」
地面を高速で滑りながら、モンスターたちを次々に斬っていく。
今はとにかく数を処理する必要がある。無理やり正面から斬っていき、数を減らしていく。
"おおおお"
"はやっ"
"斬るの速すぎて見えねえw"
"なんで平面を高速で滑れるんだこいつは"
"スケートリンクかな?"
"会社の俺もこれくらい滑ってるはw"
"涙拭けよ"
"全俺が泣いた"
周囲の敵を倒した俺が一旦止まると、背後から『ルルオオ!!』と気持ちの悪い声がする。
振り向くとそこには巨大なカメレオンのようなモンスター、バジリスクがいた。バジリスクは灰色の煙のようなものを俺に吹き付けてくる。あれはバジリスクの得意技、石化ブレスだ。
その名の通り触れた相手を石にしてしまう厄介な攻撃。魔法や薬で治すことはできるが、全身が石化してしまったら自分で治すことは不可能だ。直撃したら味方がいない場合、もう助からない。
皮膚にグッと力を入れれば石化せずに耐えることもできるけど、それも面倒だ。俺はすうぅ……と息を吸って肺を大きくし、ふっ!! と勢いよく息を吐き出し石化ブレスを跳ね返す。
『ルア!?』
押し返された石化ブレスがバジリスクの全身を包み込む。
バジリスクは驚いたような姿勢と表情のまま石になり、動けなくなる。俺は石像と化したバジリスクを蹴って破壊し、次のモンスターに斬りかかる。
"ブレスって跳ね返せるんだ"
"今なにしたの?"
"なにって……少し強く息を吐いただけだが?"
"そうはならんやろ"
"なっとるやろがい!"
"田中ブレスつよ"
「数が多いな……キリがないぞ」
戦っている間にも、モンスターは湧いて出てくる。
門のとこに行けばこれ以上増えるのを阻止できるけど、そうしたら既に地上に出ているモンスターを抑えることができない。
どうするか……と思っていると、大きな刀を持ったミノタウロスが襲いかかってくる。
剣に手をかけ斬ろうとした瞬間、俺のスーツのポケットからピョン! となにかが飛び出してくる。
「リリも、やる!」
ポケットから飛び出したのは、ショゴスのリリだった。
リリはいつものスライム形態から人間形態に変身すると、腕を巨大化させてミノタウロスをぶん殴り、ぺちゃんこにして倒してしまう。
"りりたそ!"
"うおー! リリちゃんまで、熱い!"
"こっち見て!"
"きゃわわ"
"ふんぐるいふんぐるい"
"世界一頼もしいようじょ"
"邪神様も見とる"
「いっくよー」
リリは髪をハンマーのような形状に変形させると、それを振り回しモンスターたちを倒す。リリは幼ショゴスにもかかわらず、凄い戦闘力を持っている。Sランクモンスターでも一人で倒せるレベルだ。
「リリ、戦えるのか?」
「うんー。きょうはちょうしいいので」
リリはドヤ顔でブイサインをしてくる。
いつも人状態になれるわけじゃないので、今日は調子のいい日だったみたいだ。
危ないのでリリに戦ってほしくはないが、今は猫の手も借りたい状況だ。甘えさせてもらおう。
「リリ。モンスターを減らしつつ、職員……えっと、傷ついた人たちを安全な場所に運んでくれるか?」
「わかった! リリにおまかせ!」
リリは勢いよく手を上げると、俺のお願いどおりに行動し始める。
助かる。これでだいぶ楽になるだろう。
「よし、じゃあ俺は門に行くとしよう」
俺は皇居直下ダンジョンの入口に目を向ける。
どうやって開いた入口を塞ぐかはまだ思いついてないが、ひとまずあそこに行く必要がある。
俺は行く手を塞ぐモンスターたちを斬り伏せながら前進する。
"見張りの人たちが苦戦してたモンスターが簡単に……"
"っぱシャチケンってすげえわ"
"シャチケン最強!"
"でもちょっとモンスター多すぎかも"
"りりたそは心強いけど、もうちょい戦力ほしい"
"堂島さんと天月さんは来れないのかな?"
"政府の人は民間人の避難誘導してて中々来れないかも"
"じゃあここに助っ人に来れる人いないじゃん"
"こんな地獄、Sランクの探索者でも厳しいからな"
向かってくる飛竜を斬り倒し、その死体をつかんでオーガの群れの中に叩き込む。
すると数十体のエリートゴブリンが得物を持って襲いかかってくるので、その内の一体をつかんでボウリングのように他のゴブリンたちに当てる。そうすると骸骨の騎士、デスナイトが襲いかかってくるのでそいつは殴って粉々に砕く。
「いったい何体出てくるんだ……」
無限に出てくる敵に、俺は辟易する。
この程度のモンスターなら負けることはないし、三日三晩戦うこともできる。だけど今は時間がない。悠長に付き合っている暇はないのだ。
無理やりにでも門の方に行こうとすると、大量のミノタウロスが集まり俺の行く手を塞ぐ。
どうやら門を守る本能があるみたいだ。俺はそいつらを斬り伏せようとするが……次の瞬間、空から無数の火球が降り注ぐ。
『ブオオオオオッ!!??!?』
物凄い断末魔を上げながら、焼かれるミノタウロス。
一体なにが起きたんだ? と思っていると、頭上から一人の人物がゆっくり降りてくる。
「ハロー、Dチューブ! イセケン参上……なんてな。手伝うぜ、まこっちゃん」
「イセケンさん!」
現れたのはさっきまで話していたイセケンさんだった。
どうやら俺の後を追ってきてくれたみたいだ。




