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社畜剣聖、配信者になる 〜ブラックギルド会社員、うっかり会社用回線でS級モンスターを相手に無双するところを全国配信してしまう〜  作者: 熊乃げん骨
第十九章 天月、休暇を取るってよ

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第8話 老害

「……あの五十住を歯牙にも掛けないとはな。どうやらその実力は本物のようだ」


 継川という爺さんは苛つきながらも俺の実力を認める。

 それくらいの冷静さはあるみたいだ。


「田中と言ったな。貴様は堂島の犬にしておくには惜しい男のようだ。どうだ、儂のもとで働かないか? あのような掘っ立て小屋よりいい住居を用意してやろう。ダンジョン探索などという汚れ仕事ももうやらずに済むぞ」


 いちいち癇に障る言い方をする爺さんだ。

 俺は十分幸せな日々を送っているというのに。こいつについていく方が息が詰まるだろう。


「誰があんたなんかについて行くか。俺は今の生活に満足しているんだ。それに俺の家族を誘拐するような奴の下につくなんて御免だ」


 俺はそう行って爺さんのもとに近づく。

 すると五十住の同僚たちがズラッと俺の前に立ちふさがる。


 こいつらの手には鎖鎌やら短刀やらが握られている。そういえばこいつらはNINJAだったんだっけか。久しぶりなので忘れていた。


「継川さんと言ったな。こいつらで本当に止められると思っているのか」

「……思っておらん。だが、貴様は儂に手を出すことはできん。なぜなら儂は……貴様よりもずっと偉いからだ」


 爺さんは勝ち誇った顔でそう言い放った。

 ……は? どういうことだ?

 俺がきょとんとしていると爺さんは嬉々としてそれの真意を説明してくる。


「人は社会から完全に切り離して生きることはできない。ならば社会でもっとも偉い者が、もっとも強者ということだ」

「……つまりなにが言いたいんだ?」

「儂に手を出せば、貴様や貴様の仲間は社会的に死ぬ(・・)ということだ。貴様も、貴様を慕う娘たちも、同僚も、一度仕事をしただけの関係者も、全員社会的に死に、不幸になる! 虚言だと思うか? 妄言だと疑うか? しかし残念ながら儂にはそれを成す『力』がある!」


 爺さんはそう言い放ち、高笑いする。

 なるほど、つまり俺が手を出せば俺の知り合いは全員社会的に死ぬ。つまり職を失ったり、根も葉もない噂を流されたり、無実の罪で捕まったりするわけだ。


 はあ……なんて碌でもない脅迫をしてくるんだこの爺さんは。

 まさかこんなダルい脅しをかけられるとは思ってもいなかった。保険・・をかけておいて正解だったな。


「もう一度言う。田中、儂の軍門に下れ。それしか選択肢はない」

「……継川さん。あんたはそれしか道がないと言うが、もしあんたの悪行が世にバレたらどうなる? 俺たちを社会的に殺すなんて無理になるんじゃないか?」

「なにを言うかと思えば……くだらん。貴様らがいくら儂の悪行を吹聴したところで、行政もマスコミも儂の味方。貴様の声は徹底的に封殺され、逆に不利な情報が出回ることになるだろう。情報戦で儂に勝てると思うたか」

「なるほど、それくらいのことは想定しているというわけだ。だが……これならどうだ?」


 俺がスマホを操作すると、なにもない空間からブゥン、とドローンが現れる。俺は今までドローンを迷彩ステルスモードで起動していた。

 継川が暴言を吐くところも、リリシアが人質に取られていたところも、バッチリ撮影できていたというわけだ。


 それは継川が悪行を働いていた、確かな証拠になるはず。

 しかしドローンを見ても継川はまったく焦っていなかった。それどころか「ひひ……はーっはっは!」と高笑いしている。


「儂が配信対策を怠っていると思ったか。以前なにが起きたかもう忘れたか? この船からは特殊な通信を妨害する電波が発せられている。通話も配信も不可能なんじゃよォ!」


 継川は大きな声でそう言う。

 前に五十住たちが現れた時もそうだった。突然俺の配信が止まってしまい、奴らを撮影することはできなかった。

 その時と同じ電波を今も発しているのだろう。


「さあ、分かれば諦めてこっちに来い」


 継川は勝利を確信した表情で手招きする。

 しかし……真に勝利を確信していたのは、俺だった。


「配信が不可能? だったらこのコメントはなんなんだろうな」


 俺はスマホを操作して大きな画面スクリーンを空中に投影する。

 そこにはドローンで撮っているここの映像と、大量のコメント(・・・・)が流れていた。


"いえーい総帥、見てるー!?"

"お、俺たちが映った"

"草"

"こっちは盛り上がってますよ"

"継川さんもSNS見たら? 祭ですよ!"

"妨害電波出してるから見れないんでしょw"

"確かにww"

"いやー、分かりやすい悪役だなこの人"

"姫様を人質にしたのマジで許せん、死刑"

"社会の癌だよてめえは"

"老害はとっとと社会から消えてくれ"


「な、な、な……っ!?」


 流れる大量のコメントをみた継川は、分かりやすく狼狽する。

 どうやらこの展開は想像できなかったみたいだな、いい気味だ。


「馬鹿な……ありえんっ! 間違いなく妨害電波は出ているはず! 配信などできるはずがない!」

「あんたみたいな人でも成功体験ってのは忘れられないみたいだな。一度成功すると次も上手くいくと思い込んでしまう」

「なに……?」

「一度あんたたちにはいいようにされてしまったからな、対策を考えていたんだ。俺のドローンには妨害電波を無効化する(・・・・・)機能が追加されている。ラグなしカクつきなし高画質高音質の映像が全世界に配信されている」


 俺はドヤ顔でそう告げる。

 ま、妨害電波を無効化する機能は牧さんがつけてくれたもので俺は頼んだだけなんだけどな。

 わざわざそれを言うこともない。ドヤ顔しておこう。


"ドヤ顔してて草"

"確かに高画質だ"

"配信されてないと思ってる総帥の顔はケッサクだったな……w"

"これ黒須博士に頼んだだけだろ"

"シャチケンは機械に疎いからな"

"シー!"

"そういや一回配信途切れたことあったけどこれだったのか"

"継川グループの株大暴落してて草"

"総帥良かったですね! トレンド一位ですよ!"


「今の視聴者数は9000万人……この分だと1億は余裕で超えるな。どうする継川さん。いくらあんたでも1億人の視聴者全員の口は封じられないだろう。あんたの権力ちからでどうにかできるなら、やってみるといい」

「こ、の、若造が……ッ!!」


"クッソキレてるw"

"バチギレで草なんだ"

"お爺ちゃん、もう諦めよう"

"血管浮き出てるw"

"血管千切れちゃうww"


「もう時代が違うんだよ。確かに昔の時代ならあんたは全ての情報をコントロールできたんだろう。だが人も世界も日々進み変わっている。あんたはそれに対応できなかった、弱者はいつまでも弱者のままだと侮っていたんだろうが……弱者おれたちはいつまでも搾取されるだけの存在じゃない」


 無数の目が、継川に降り注ぐ。

 彼らの声はネットで拡散され、瞬く間に世界中に広がっていく。


 それらは火となり炎となり業火となる。

 もう継川宗真が元の地位に居続けることは不可能だ。


 信頼を積み上げるには時間がかかるが、崩れるのは一瞬。悪いことなんかするもんじゃないな。


「終わりだ、継川宗真。お前はもう詰んでいるんだよ」

「ガキ、が……っ。儂を……儂を誰だと思っている! この国の最高権力者、継川宗真だぞ! 誰が、誰がこの国を今まで守っていたと思っている! 儂だ、儂がいなければこの国はとうに潰れていた! 儂が手を汚していたからこそ貴様ら庶民カスは生きながらえてこれたというのに! は、羽虫が……羽虫風情が儂に詰んでいるだとォ!? 許しがたい、実に許しがたい……貴様も配信を見ている貴様らも全員、儂が粛清してやるぞォ!」


"草"

"壊れちゃった"

"あーあ"

"老害の極みすぎる"

"よく考えたらこれ社畜VS老害なのか"

"社畜VS老害VSダー◯ライ"

"またしても巻き込まれるダー◯ライさんに涙を禁じ得ない"

"勝手にやってろ!"

"なに言ってるか最後までよう分からんかったw"

"最後まで妄言たっぷり"


「あいつを……田中を殺せ護庭衆ガーディアン! 絶対に生かして帰すなァ!」


 継川の命に従い、スーツ忍者たちが俺に襲いかかってくる。

 最悪な上司しゅじん雇用つかえてしまっているとこにはシンパシーを感じて同情する。しかし俺もここで殺されるわけにはいかない。


「どけっ!」


 右腕を思い切り横に振る。

 すると突風が発生し、向かってきた忍者集団を一瞬で海の彼方に吹き飛ばしてしまう。

 斬業モード中なので思ったより威力が出てしまった。

 まあ吹き飛んだだけだし、あいつらも覚醒者っぽいから大きな怪我はしていないだろう……たぶん。


「な、あ……!?」


"あーあ、めちゃくちゃだ"

"神風かな?"

"お爺ちゃん呆然で草"

"この社畜、ちょっと強すぎる"

"クソゲーすぎるw"

"シャチケン風魔法使えたんだ"

"風魔法(物理)"

"摩擦を起こせば炎魔法も使えるな"

"全ての物理属性魔法使えそう"

"物理属性魔法ってなんだよ"


「もうお終いだ。大人しく投降してくれ」

「ふざけるな……儂が投降だと? 誰がそんなものするか! ここさえ乗り越えれば、いくらでも儂はやり直せる……投降などしてたまるか……!」


 驚いた。全世界に悪事を晒されてまだやり直す気でいたのか。

 さすがにここまで悪評が轟いてしまったらやり直すなんて不可能だと思うのだが、それでも海外に逃げられたらまた捕まえるのは大変そうだ。

 ここで捕まえる必要があるだろう。


 まあ老人一人では戦うことはおろか、逃げるのも不可能だろう。そう思っていたが、


「まさかこれに頼るとは思わなかったが……仕方ない」


 継川は懐から四角い「なにか」を取り出すと、それを口の中に入れて飲み込む。

 一体なにをしてるんだ、そう思っていると突然継川の肉体がボコボコと音を立てて変形し始める。


「はは……はははは!! 素晴らしい、生まれ変わったかのようだ! 誰にも負ける気がせん!」


 ものの数秒でヨボヨボだった爺さんは、筋骨隆々の大男に変貌してしまう。

 背は二メートルを超え、肌は赤く染まっている。その見た目はまるでモンスターの「オーガ」。俺はこれに似た現象を一度見たことがあった。


「須田の時と同じだ……。あんた、あの組織と繋がりがあったのか」

「儂は利用できるものならなんでも利用する。奴らには稼がせてもらったよ」


 継川はそう言うと、拳を構える。

 どうやらやるつもりらしい。


 海の上は冷える、とっとと終わらせて帰るとしよう。


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― 新着の感想 ―
どこぞのA国とかR国とかC国とか、老人が権力を持つと絶対暴走するよね? 例えば高齢者のドライバーほど自分は運転が上手いって過信する統計があるらしいですよ?
力だけ手に入れても体の動かし方を知らないパンピーが本物に勝てるわけないんだがそれを理解できるなら薬には手を出さないんだよなぁ...
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