第7話 パワー型爺さん
家族は返してもらう。
俺は謎の爺さんにそう言い放ったが、内心ドキドキしていた。
(あっっぶな! なんとか間に合った……!)
あと少し到着が遅れてたら、凛は撃たれてたし国外に逃げられていた。
海外まで海の上を走って行くことはできるけど、そうしたら国際問題になりかねない。
軍と戦うなんて俺は嫌だぞ。人殺しにはなりたくない。
「先生、来てくださったんですね……!」
「ああ。星乃が配信にコメントを残してくれたおかげだ」
俺は配信中はスマホを見ないけど、コメントはちゃんと追っている。
温泉に入りながらも俺はコメントをチェックしていた。
大量に流れるコメント、その中にあった「たすけて」の文字を俺は見逃さなかった。
しかもその文字は星乃のアカウントから送られていた。視聴者はコメントが流れるのが早くて気がついていなかったが、コメントを読むことに慣れた俺の目はそれをちゃんと捉えていた。
おかげでダンジョンを脱出し、東京湾に来ることができたってわけだ。
「伊澄さんからのメッセージでだいたいの状況は知っている。あんたがリリシアを攫った爺さんだな?」
鋭い眼光で俺を睨んでいる爺さんに視線を向ける。
確か名前は継川とか言ったか? 伊澄さんは色々情報を送ってくれたけど、急いでここまで来たのであんまり読めていない。
まあとにかくあの爺さんをぶっ飛ばしてリリシアを連れ帰ればいいはず。シンプルだ。
「不敬だぞ、若造が。儂はこの国の守護者、庭主継川宗真ぞ。貴様のような若造が口を利いてよい存在ではない!」
「ああ……そういうタイプか。須田とはまた違ったタイプのパワハラ野郎だな」
須田はネチネチと嫌味を言ってくるタイプだったが、この爺さんは権力を振りかざしていびってくるタイプだ。
須田がテクニック型なら、爺さんはパワー型ってところか。
どっちも上司にはしたくない筆頭だな。
「貴様……状況が分かっているのか? エルフはこちらの手にあるのだぞ。五十住、分らせてやれ」
「はい」
爺さんが言うと、スーツの男が俺にリリシアを見せてくる。
リリシアをつかんでない方の手にはナイフが握られている。なるほど、脅されているわけだ。
「五十住……だったか。どこかで見た顔だな」
「ふふ、他人の空似ではありませんか? それより大人しく帰るか、捕まるかしてもらってもよろしいでしょうか。私もあまり手荒な真似はしたくありません」
五十住は刃先をちらつかせる。
そのナイフはおそらくダンジョン産のもの、リリシアを傷つけることができるだろう。
しかし俺は少しも焦っていなかった。
「やってみるか? お前のナイフが当たるのが先か、それとも俺の拳がお前の鼻を折るのが先か」
「あなたは確かに強い、私なんかよりずっと。しかしそれでもこの距離なら私のナイフが先に当たるはずです」
五十住は額にわずかに汗を浮かべている。
涼しい顔をしているが危ない橋を渡っている自覚はあるんだろう。
だがあいつはすでにその橋が崩れる寸前であることは気づいていないようだ。
「確かに普段の俺ならそうかもしれない。だが今の俺は普段の俺じゃない」
「……どういうことですか」
困惑する五十住。
俺は分かりやすく首元を指差し、ヒントを与える。
「首? いったいそこがどうし……あ」
五十住は俺が伝えたいことに気づき、声を出す。
今の時刻は夜。もう18時をとうに過ぎている。
つまりもう残業の時間。
俺は船につく前にネクタイを外し、斬業モードになっていた。
「こんな時間に働かせた爺さんを恨むんだな」
「しま……っ」
言葉を出し切るより早く、俺は移動する。
音より速く移動し五十住に接近した俺は、ナイフをつかんでいる手首をつかみ、握りつぶす。
ギュチッ、という音と共に五十住の手首が砕ける。五十住は痛みに顔を歪めながらもなんとか逃げようとするが、俺がガッチリと手首をつかんでいるためそれは叶わない。
「前にあった時は殴れなかったな。その分も今果たすとしよう」
「待っ
俺は五十住の顔面に思い切り拳を打ち込む。
めきょ、という音と共に五十住の顔面は陥没し、そのまま後ろに吹き飛び船の壁に激突。そして地面に落下し動かなくなる。
死なない程度に加減はしたが、それでも強めには殴らせてもらった。あれならしばらく動けないだろう。
俺は解放されたリリシアを抱き寄せると、手錠を無理やり破壊し自由の身にする。
「大丈夫か? 待たせたな」
「うぅ……わらわは信じておったぞタナカ!」
リリシアは目に涙を浮かべると、俺の胸に飛び込みわんわん泣く。
よっぽど不安だったんだろうな。スーツが涙と鼻水でべしゃべしゃになるが、今回は見逃しておく。
「凛、一旦リリシアを頼む。俺はあの爺さんをどうにかしてくる」
「はい。任せて下さい先生」
胸に引っ付いたリリシアを剥がし、凛に預ける。
そして俺は、苛立たしげな視線を向けてくる爺さんのもとに向かうのだった。




