第15話 田中、打ち上げするってよ
「えーそれではみなさん一週間お疲れ様でした! かんぱい!」
「「「「かんぱーい!!!!」」」」
足立が乾杯の音頭を取ると、みんなもそれに合わせて杯をぶつけ合う。
テーブルの上には料理や飲み物が多数用意されており、各々がそれを好きに取り口にする。並んでいるものの中にはコラボカフェ提供されたものもある。
「コラボカフェももう終了か……なんだかあっという間だったな」
リヴァイアサン騒ぎから一週間の時が経ち、コラボカフェは無事終了を迎えた。
コラボカフェの結果は大成功。最終日まで満員御礼グッズも完売。開催期間中は俺も常に忙しい時間を過ごすこととなった。
今日はコラボカフェ終了記念の打ち上げパーティだ。コラボカフェを丸ごと使い、みんなで飲めや食えやの大騒ぎ。みんな楽しそうで俺も嬉しい。
「にしても無事に終わって良かったな……」
カフェの開催中にEXランクのモンスターが現れるという事件が起きた時はどうなるかと思ったが、ダゴ助たちの配信を見ている人がそれを騒ぎにしなかったおかげでこの件は大事にはならずなんとかなった。
食材不足もリヴァイアサンの肉が来たおかげでなんとかなったしな。
ダゴ助と三上も喧嘩こそしていたが連携が取れるようになったおかげでたくさん働いてくれた。
最後の方なんかは凸凹コンビとして認知され、二人を目当てに来る人もいたくらいだ。
……などと考えていると、三上がこちらにやって来るのが目に入る。
「田中さん。この一週間ありがとうございました。おかげ大変勉強になりました」
「こっちこそ手伝ってくれてありがとう。おかげで助かったよ」
鋼鉄の牡鹿ギルドのメンバーは、とてもよく働いてくれた。
足立も彼らのことを褒めており、何人か引き抜けないかと邪悪な笑みを浮かべていた。関係が悪化したらどうすんだと怒ったら「冗談だよははは」と笑っていたが、どこまで本当か分かったもんじゃない。
「北海道の一件以降僕はたくさん努力し、強くなりました。しかし田中さんを見てまだまだなのだと再確認できました。これからもっと精進し、いつかあなたの隣……いえ、前に行けるよう、頑張ります」
三上はまっすぐ俺を見ながら、そう宣言する。
正直三上の実力はまだまだだ。技術も肉体も成熟していない。
しかしそれは裏を返せばまだまだ成長の余地があるということ。こいつは努力家だし、腐らず努力し続ければ、本当に俺を超えてくれるかもしれない。
星乃と凛もメキメキ成長しているし、探索者の将来は明るいな。
「ああ、楽しみにしてるよ」
「はい!」
三上は俺に勢いよく頭を下げると、去っていく。
するとそれと入れ替わるように足立がやって来る。
「よう、飲んでるか?」
「ぼちぼちな。お前は飲み過ぎだ」
足立の顔は赤くなっていて、足下はおぼつかない。
どうやら結構飲んでいるみたいだ。
「ま、こういう時くらいは飲ませてくれよ。俺だって結構不安だったんだからよ」
コラボカフェの発起人である足立だが、本人も色々不安なところがあったみたいだ。
まあダンジョンで店を開くなんて世界でも初めての試みだ。いくら要領のいい足立でも、本当に実現できるか分からなかったんだろう。
「足立もよく頑張ったな。ほら、飲めよ」
「お。田中が注いでくれるのか? こりゃファンに妬まれるな」
「うるせえ早く飲め」
俺は足立に無理やり酒を注ぎ、飲ませる。
ちなみに足立が飲んでいるのはダンジョンで採れた素材で作られた酒だ。これなら覚醒者である足立でも酒に酔うことができる。俺たち覚醒者はアルコールにも耐性があるので酔うのも一苦労なのだ。
「でも……いい光景だな。前の職場ではこんな経験できなかったんじゃないか?」
食事を楽しみながら談笑するスタッフたちを見ながら、足立は呟く。
いい職場だ。みんな仕事を楽しんでいて、やりがいを感じている。こんな風に楽しく仕事ができるなんて前の俺は知らなかった。
仕事とはただ辛く、苦しいものだと思っていた。
しかし職場が変わるとこんなにも変わるものなんだな。
「ああ、そうだな。感謝してるよ、あそこから退社させてくれて」
「へへ、いいってことよ」
足立は少し照れくさそうに答える。
黒犬ギルドでは「生きるために働く」のではなく「働くために生きる」状態だった。
でも今は違う。俺は人生を楽しむために働いている。きっとここにいるみんなもそうだろう。
「おいタナカ! なーにアダチといちゃついとるろだ! わらわもかーまーえー!」
「な!? おいひっつくな! てか酒くさっ!」
突然リリシアが絡んでくる。
もうかなり飲んでいるみたいで呂律が回らず顔も真っ赤だ。
それだけじゃなくとてもつもなく酒臭い。どんだけ飲んでんだこいつ。
「ははっ、姫様も楽しそうでなによりだ。ほら、二人並んでくっつけ。この様子をSNSにあげよう」
「それはよい考えらアダチ! ちゃんとわらわたちを撮れろ!」
「分かってるって。ほら田中も笑え」
「無茶言うな!」
俺にリリシアが絡みついてくる様子を、楽しげに撮影する足立。
まったく……本当に一緒にいて退屈しない奴らだ。
◇ ◇ ◇
『おいタナカ、逃げるら! わらわのカフェで鍛えたわらわの接客を見せてやるというろり!』
モニターの中でメイド姿のリリシアが走り、田中に追いつく。
それは白狼ギルドの公式アカウントがSNSに投稿した映像であった。
厳かな空気が流れるその薄暗い部屋で、老人はその映像を見ながら苛立たしげな表情を浮かべる。
「……どういうことだ。なぜアレがあんなに楽しそうにしている? 魔対省で厳重に保護しているのではなかったのか?」
「そ、それは……」
老人の側にいたスーツ姿の男は戸惑い、答えにつまる。
すると老人は側に立てかけてあった杖を手に取ると、それで男のスネの部分をパァン!! と強く叩く。
「――――っ!!」
痛みに悶えながらスネを押さえる男。
老人は「ふん」とつまらなそうに言った後、モニターに視線を映す。
リリシアの満面の笑みが映った状態で一時停止されたその画面を老人が眺めていると、先ほど叩かれた男とは別のスーツの男が部屋に入ってきて近づいてくる。
「失礼いたします」
「……五十住か」
老人に五十住と呼ばれた男は、モニターを見ながら老人の疑問に回答する。
「継川様。どうやら対象は一時的にダンジョン内の店舗で労働作業に従事していたようです。その期間店舗は厳重に警備され、ダンジョンの入口も魔対省の者が警備をしていたそうです」
「ふん。だから見逃せというのか? いくら警備したところでこんなに自由にさせていたら意味がない。堂島はこれの価値を理解しているのか?」
継川と呼ばれた老人は口元を歪めながら不満を露わにする。
五十住は口にこそ出さないが、面倒なことになりそうだと小さく嘆息する。
「ではどうされますか庭主。動かれますか?」
「当然だ。堂島のやり方ではヌルい。儂がこの日の本を正さなければならない」
継川はそう宣言すると、すぐに行動を開始するのだった。




