第12話 海の帝王
ダゴ助を付けたまま爆速で泳いだシーサーペントは、ダンジョンの中に迷路のように張り巡らされた水路を進み、その内の一つの終着点である湖から地上に出た。
そこは奇しくも三上がたどり着いた湖であり、図らずもダゴ助と三上は再会を果たしたのだった。
「な、なんで君がシーサーペントと一緒にいるんだ!? どうやって深層まで来た!」
「あ? なんで眼鏡くんがここにいんだよ。俺様はえー……その……そう、そのモンスターを使って深層までショートカットしたのよ。全部計画どーりだぜ」
「そんな方法が……っ!」
"信じんなw"
"んなわけあるか!"
"俺たちは全部見てたぞw"
"三上くんピュアやなあ"
"適当なこと言いやがるw"
"でもまああそこから追いついたのは凄いよ"
三上とダゴ助が話していると、シーサーペントが『ギィ……』と苛立たしげな声を出しながら接近してくる。
どうやら逃げるのをやめ、ここで仕留めることにしたようだ。
獲物認定された二人は振り返ると、シーサーペントを見据える。
「やれやれ……どうやらやるしかないようですね。トドメを刺した方があれの肉を総取りでいいですね?」
「話が早くて助かるぜ。あれをやっつけた方が勝ちってことだな」
三上が剣を抜き、ダゴ助は腕のヒレを展開する。
それを合図にシーサーペントは鋭利な牙を剥き、二人に襲いかかって来る。
"来た!"
"え、これいける?"
"足引っ張りあいそう"
"たしかに"
シーサーペントが噛み付いてくると、三上とダゴ助はそれぞれ逆方向に跳び、それを回避する。
そして、
「付与・火炎!」
三上は魔法を使い、自身の剣に炎をまとわせる。
そして魔法の力を得た剣でシーサーペントの体を斬りつける。
「はあっ! エリートファイアスラッシュ!」
その剣はシーサーペントの硬い鱗をものともせず、その下の体ごと斬り裂く。
両断するまでには至らないが、シーサーペントの体からは赤い血が噴き出し確かなダメージを与える。
"おお!"
"すご"
"やるやん"
"名前がダサいこと以外はかっこいい"
"三上くんちゃんと強くて凄い"
『ギィ……!』
怒りに満ちた目を三上に向けるシーサーペント。
するとその隙を突き、ダゴ助が接近する。
「俺を無視すんじゃねえ……ぜ!」
握りしめた拳を何度も打ち込むダゴ助。
最後にトドメとばかりにヒレで斬りつけ、シーサーペントの体に大きな傷を残す。
『ガ……アァ……ッッ!!』
痛みにもがくシーサーペント。
しかしそれでも闘志は消えず、再び両者に襲いかかる。
「ハッ、そうこなくっちゃな!」
「来るといい。僕の勝率はすでに100を超えている」
ダゴ助と三上はシーサーペントの攻撃を回避しながら、交互に攻撃を打ち込んでいく。
お互い示し合わせたわけでもないのにその動きは非常に噛み合っており、シーサーペントはそのチームプレイを前に一撃も与えることができないまま傷ついていく。
"なんか息あってね?"
"俺も思ってた"
"田中の舎弟同士似てるものがあるのかも"
"どっちもアホだしなw"
"いやマジで連携取れてるよ。プロの探索者でもこうはいかないぞ"
"ただの配信事故だと思ってたけど、いいもの見れたわ"
『ガアアアアアアアッッ!!』
最後の力を振り絞り、シーサーペントが襲いかかって来る。
しかし二人は慌てず、それを正面から迎え撃つ。
「スーパーエリートスラッシュ!」
「だらァ! 鋭ヒレ・スラッシュ」
二人の渾身の一撃がシーサーペントの体に直撃する。
シーサーペントはそれでも噛みつこうと体を動かすが、すぐに体に力が入らなくなりその場に倒れる。
骸となったそれを見て、ダゴ助と三上は「「ふう」」と一息つく。
"倒した!"
"名勝負だった"
"88888"
"いいコンビやね"
"すごいすごい!"
"配信事故とは思えない満足度だ"
"こんないい戦いしたら二人ももう喧嘩しないだろ"
"確かにそうだ……ん?"
「最後俺が倒しただろ! なに言ってんだ!」
「いーや僕だね。君のは攻撃は致命傷にはなっていなかった」
「んだと!?」
「なんだ!?」
息の合った共闘をしたにもかかわらず、二人はまだ口喧嘩していた。
最後のトドメを刺した方がこの勝負の勝者となる。しかしほぼ同時に攻撃しシーサーペントを倒してしまったため、どっちが勝者か分からなくなってしまった。
「しょうがねえ。こうなったら殴り合いで決めるしかねえか」
「まったく、それじゃあここまで競い合った意味がないじゃないか。少しはその小さな脳を使ったらどうだい?」
「んだとこのヤロウ!」
みにくい言い合いを続ける二人。
すると突然、倒れていたシーサーペントがズルズルズル! と引きずられ湖の中に消えていってしまう。
「な、なんだいったい!?」
「おいおいモンスターか!?」
驚き戸惑う三上とダゴ助。
湖の中からはバキ、ゴキ、グシャ、とシーサーペントを咀嚼しているかのような音が聞こえてくる。
湖の中になにかがいる。それもシーサーペントを食べてしまうほど巨大ななにかが。
勝負のことなど忘れ、緊張した面持ちをする彼らの前に、ゆっくりとそれは現れる。
『ルル……』
それはとても美しく、そして恐ろしい見た目の海竜であった。
シーサーペントの数倍の巨躯を誇る、海の帝王。その名は『リヴァイアサン』。
そのランクはEXⅠ。
三上はもちろん、怠惰な生活でSランク相当にまで弱くなっているダゴ助が敵う相手ではなかった。
"ええええええ!?!?!?"
"なにこいつ!?"
"シーサーペントとは格が違うぞ"
"マジかよこいつリヴァイアサンじゃん"
"は? なんでそんな化物がここにいんだよ"
"怖すぎて漏らした"
「な、なんでこんな化け物がいんだよ」
「平和過ぎるダンジョンだと思っていたけど……こいつが原因だったのか」
三上がそう呟くと、ダゴ助は「どういうことだ」と尋ねる。
「強いモンスターは全部こいつが食べてしまっていたんだ。データによるとリヴァイアサンは縄張り意識が非常に高いモンスター。強いモンスターが近くにいると襲わずにはいられない」
「なるほど、俺たちがこのダンジョンに来た頃には強えモンスターをあらかた食い終わった後だったってことか」
ダゴ助の言葉に三上は頷く。
通常ダンジョンの中でモンスター同士が殺し合うことは少ない。
しかし何事にも例外はある。特に強力な力を持ったモンスターはそのような制約を破り、イレギュラーな行動に出ることが多い。
このリヴァイアサンもそうであり、ダンジョンの生態系を変えてしまうほどの力を持っていた。
「このダンジョンは調査が終わってたんじゃねえのか? こんな危険な奴がなんでいんだよ」
「おそらく獲物を食い尽くしたから、湖の底で眠っていたんだろう。そして今、再び腹を空かせたから目を覚ました……そんなところだろう」
三上の推理は当たっていた。
獲物を食い尽くしてしまったリヴァイアサンは休眠状態に入り、エネルギーを保存していた。その時にダンジョンの調査があったため、リヴァイアサンの存在に気づかなかったのだ。
しかし今、ダンジョンに大量の命が溢れたことでリヴァイアサンは目を覚ましてしまった。再びダンジョン内の生物を食い尽くすまで、その活動が止めることはない。
突然現れた最凶最悪の敵。
三上はあらゆるパターンを頭の中で考え、そして最適と思える策をダゴ助に伝える。
「……こいつは僕が足止めする。君はリヴァイアサンの存在を田中さんに伝えるんだ。あの人ならなんとかしてくれる」
「おい待てよ。お前はどうなるんだ、あれを一人で倒すなんて無理だろうが」
「あれを放置すれば、コラボカフェにまで被害が及ぶかもしれない。そうなれば一般の人にも被害者が出てしまう。そうなれば田中さんは深く傷つくだろう」
それだけは避けなければならない。三上は心の中でそう強く思った。
「僕はあの人に救われた。あの人の為になるなら、喜んで命を懸けられる。だから行け! 行くんだ!」
三上はダゴ助にそう言い放つ。しかしダゴ助は踵を返すどころか前進し、三上の横に並び立つ。
「へっ、眼鏡くんが格好つけやがって。言わせてもらうが兄貴のために命を懸けられるのはお前だけじゃねえ」
「なにを言って……」
「一人じゃ足止めが関の山かもしれねえが、二人なら倒せるかもしれねえだろ? 手を貸すぜ三上」
「ダゴ助……ふん、礼は言わないぞ」
三上はそう言い捨てるが、その表情はどこか嬉しそうであった。
「さあ来やがれリヴァイアサンよォ! 蒲焼きにしてコラボカフェのメニューにしてやるよ!」
「ああ、美味しくいただいてやるとしようじゃないか……!」
走り出すダゴ助と三上。
こうして二人の決死の戦いが幕を開けたのだった。




