第13話 リヴァイアサン討伐戦
『ルアアアアアッ!!』
リヴァイアサンの絶叫がダンジョンを大きく揺らす。
その体から放たれる魔素の量は、尋常ではない。近くにいるだけで常人であれば魔素中毒を起こしてしまうだろう。
三上もその影響を受け、強い乗り物酔いを起こしたかのような気持ち悪さを感じていた。
しかしその程度で倒れるわけにはいかない。ここでリヴァイアサンを行かせてしまったら、多くの犠牲者が出てしまうかもしれない。それだけは防がなければいけない。
『ルアッ!』
リヴァイアサンは大きな口を開き、突っ込んでくる。
その迫力と破壊力は、シーサーペントとは比べ物にならない。ただの噛みつきが必殺の威力を誇っている。
もしまともに食らったら、絶命は免れないだろう。
「俺が止める! 三上はその隙に攻撃しろ!」
「あ、おい!」
ダゴ助は走ってリヴァイアサンの前に行くと、両手を前に突き出す。
そして両腕に力を込めると、向かってくるリヴァイアサンの牙をつかみ、その勢いを止めにかかる。
「ふん……ぎ……っ!!」
"ダゴ助頑張れ!"
"すご、ちゃんと止めれてるじゃん"
"さすがダゴ助"
"いやでも押されてるぞ!?"
"長くは持たなそう"
"三上今の内にやっちゃえ!"
三上は急いで駆け出すと、跳躍し剣を抜く。
狙いは眉間。リヴァイアサンの弱点は詳しくないが、シーサーペントの弱点が眉間であることを三上は知っていた。
似た形のモンスターは、弱点も同じことが多い。
三上は一縷の望みをかけ、リヴァイアサンの眉間に刃を突き立てる。
「はあああ!!」
リヴァイアサンの眉間に刃を滑り込ませ、そして先端から魔法の火炎を流し込む。
するとリヴァイアサンは苦しそうに『ウオオッ!!』と叫ぶ。どうやら眉間が弱所であることは間違いないようだ。
このまま何度も斬りつけて致命傷を与えてやる。そう意気込む三上だったが、
『ルオオオオオオオオオッッ!!!!!』
リヴァイアサンが一際大きな声で叫ぶと、彼の鼓膜が破れ、耳からぷしゅっと血が吹き出す。
「な、あ……?」
聴覚が一瞬にして消失し、平衡感覚が失われる。
そんな状態になった三上は、リヴァイアサンが頭を軽く振っただけで吹き飛び地面を転がる。受け身を取ることすらできなかった彼は、全身を打撲し苦しそうに表情を歪める。
"耳痛っ!!"
"なんだあの声……"
"スピーカーぶっ壊れたぞ"
"Dチューブは音量調整機能あるのにそれ貫通して耳が痛え"
"こんなの直に聞いたら耳壊れるな"
"三上くん大丈夫か!?"
"さすがに強すぎる"
"シャチケン来てくれ!"
"マジで逃げてくれ!"
三上は意識を朦朧とさせながらも地面に手を突き、なんとか起きあがろうとする。
リヴァイアサンはそんな彼を食べようと近づくが、ダゴ助がその大きな顎を殴り飛ばしそれを阻止する。
「おめえの相手は俺だ! かかって来やがれ!」
『ルル……ッ』
リヴァイアサンは苛立たしげに唸ると、ダゴ助に突進する。
その巨体から放たれる突進は、必殺の威力を誇る。それを正面から食らったダゴ助は何度も地面をバウンドし、壁に激突する。全身の骨がきしみ、肉が悲鳴を上げる。
まだ戦闘を開始して時間が経っていないが、三上もダゴ助もすでに満身創痍だった。しかし、
「まだ、まだ……」
「終わりじゃねえぞ……!」
二人とも立ち上がり、リヴァイアサンに立ち向かう。
もう体力は残されていない。次が最後の攻防であることを二人は理解していた。
「三上、合わせろよ」
「ふん、合わせるのは君だ。足を引っ張らないでくれよ」
三上はまだくらくらとする頭を叩きながら答える。まだ聴覚は完全には戻っていない。しかし声がなんとか聞こえる程度には回復していた。
万全ではないが、最後の一撃をかますだけであれば問題はない。
二人は一回だけ視線を交わすと、同時に走り出す。
『ルオッ!!』
リヴァイアサンは口から水の塊を発射し撃退しようとするが、二人はそれを回避し、リヴァイアサンに飛びかかる。
「放出・火炎!」
まずは三上の火炎がリヴァイアサンの顔面を焼く。
その魔法では威力が足りず、満足なダメージを与えることはできない。しかし視界を一瞬奪うことはでき、その間にダゴ助が接近に成功する。
狙うは先ほども攻撃した眉間。
ダゴ助は鋭い腕ヒレを剣のように前に展開し、それをリヴァイアサンの眉間に突き刺す。
「おらァ! 深ヒレ刺しぃ!」
鋭いヒレがリヴァイアサンの弱所に突き刺さり、リヴァイアサンは『ルアアアアアッ!』と叫ぶ。確かな手応えを感じたダゴ助は眉間を何度も突き刺し、ダメージを重ねていく。
「よし、この調子なら……!」
何度も何度もヒレで突き刺すダゴ助。
しかしリヴァイアサンは頭部を地面に叩きつけることで、ダゴ助を地面に叩きつけ頭部から剥がしてしまう。
「まだ、まだ……アァ!!」
ダゴ助は立ち上がるが、もう体の感覚は無くなっていた。
とうに体力は底をつき、足はガクガクと痙攣している。
"もうやめて!"
"死ぬぞマジで!"
"あとちょっと耐えてくれ……"
"逃げてくれよ頼むから!"
そんなダゴ助のもとに、悠然とリヴァイアサンは近づいてくる。
大きな口を開けると、そこには鋭利な牙がずらりと並んでいる。そのどれもが一級品の刀剣と同等の切れ味を誇っている。ダゴ助の頑丈な体であっても、たやすく切り裂いてしまうだろう。
『ルル……』
その恐ろしい口でダゴ助に噛みつこうとしたその瞬間、三上が動く。
「ここだ!」
彼はリヴァイアサンのある場所めがけて突っ込む。
そこは顎の下にある、逆さまに生えた鱗がある場所であった。逆鱗と呼ばれるその箇所は竜種の急所であり、他の場所よりも攻撃が通りやすい。
しかしこの場所を刺激すると、竜は怒り凶暴化する。もし仕留めることができなければ状況は悪化するだろう。三上はそれを織り込み済みで、この場所を攻めることにした。
「これで決める! 付与・火炎!」
三上の剣が炎に包まれ、その威力を大幅に向上させる。
炎魔法は使用者の体温を上げ、身体能力を向上させる効果がある。その力を最大限に活用し、三上は自身が放てる最強の技を放つ。
「食らえ、エリート無尽斬!」
一瞬の間に幾重もの剣閃が放たれ、リヴァイアサンの逆鱗を切り刻む。
名前の通り、その技は田中の使う技「無尽斬」を参考にしている。三上は田中の使う技を全て研究し尽くし、自分でも使えるように特訓した。
しかし三上の腕力は田中の半分にも達していない。
パワー系の技はどう足掻いても再現不可能であったため、三上はスピード系の技に焦点を絞り、猛特訓した。
そして手の皮がずり剥けた回数が40回を超えた時、田中の得意技「無尽斬」を再現することができたのだ。
威力こそ本家のものに及ばないが、その再現度は田中の強火オタクである三上も満足するほどのものであった。
(足りない威力は魔法と愛でカバーする! 僕のエリート魂を見せてやる……!)
残っているわずかな体力をかき集め、三上はリヴァイアサンを斬り続ける。
そしてついに逆鱗が砕け、その奥の弱点に刃が突き刺さる。
「ぐ、う……っ」
しかしその瞬間、三上の腕が止まる。
理由は単純明快。体力の枯渇であった。
すでに彼は限界を超えて動き続けている。剣を握るのが精一杯でそれ以上の力が出せなくなっていた。
このままではやられる。三上の目に焦りの色が浮かぶ。すると、
「しっかりしやがれ! 兄貴の技をパクっておいて倒れるなんて許さねえぞ!」
ダゴ助が三上の腕を体を支え、剣の柄を共に握る。
二人とも体力は限界であるが、残り少ない力を合わせれば一撃放てるくらいは残っていた。
「ダゴ助、お前……」
「あと少しだ。てめえと力を合わせんのは癪だがやるぞ」
「ああ、やろう」
二人は剣を強く握り、魔素を込める。
体力を、命を燃やし、剣を深くリヴァイアサンの体に突き出す。
「おらああああああっ!!!!!」
「エリートォォォォッ!!!!!」
"いけええええ!!"
"いけるぞダゴ助!"
"いけいけいけいけ"
"叫び声エリートなんだw"
"いいエリートだ"
"いいエリートとは"
"とにかくやったれ!"
全ての力を出し切り剣を突き出す二人。
そしてついにその刃は根元まで突き刺さり、リヴァイアサンの弱点を貫く。
『ル、ア……っ』
リヴァイアサンは力なくそう呟くと、その場にズン、と倒れる。
その体はもうピクリとも動かない。どうやら完全に倒すことができたようだ。
「はは、やった、ぜ……」
ダゴ助はそう呟くとその場に倒れる。
続いて三上もその場に膝をつき、ぐったりする。
「はあ、はあ……意外と……やれるもんだな」
「ああ。そうだな。僕たちの勝利だ」
三上はそう言うとそっぽを向きながらもダゴ助に拳を出す。
それを見たダゴ助はやれやれといった顔をしながらも、自らも拳を作ってそれをぶつける。
"よかったよかった"
"雨降ってなんとやらだな"
"友情芽生えてて草なんだ"
"まあいい感じに収まったな"
"はよ帰ってこい!"
"リヴァイアサン食いたい"
"腹ペコニキもおる"
"ん? なんか湖揺れてね?"
「さて、これ以上カフェを空けたら田中さんにバレる。リヴァイアサンの身を回収して帰るとしよう。ダゴ助も切るのを手伝い……どうした?」
「いや、なんか湖が揺れてるように見えてよ」
「ん? まだモンスターがいたのか?」
三上とダゴ助は揺れる水面を注視する。
すると湖の中からザパァ! と大きな音を立てて巨大なモンスターが姿を現す。
二人はそのモンスターのことをよく知っていた。なぜならそれは彼らが先ほどまで戦っていたモンスターと同じ種類だったからだ。
「リヴァイアサン……!? 嘘だろ!?」
三上の表情が絶望に染まる。
現れたリヴァイアサンは、先ほどまで戦っていたのと同じくらいのサイズであった。戦闘力もさほど変わらないだろう。
"うそ!?"
"やばいやばいやばいやばい"
"なんでもう一体いんだよ!"
"リヴァイアサンは「2匹」いたッ!"
"どうすんだこれ!?"
「まさか仲間がいたなんて……仲間がやられて報復に来たのか……!?」
三上の推察通り、二頭のリヴァイアサンは仲間だった。
仲間が死んだことでそのリヴァイアサンの怒りは頂点に達している。とてもではないが見逃してくれそうにはない。
「三上、お前戦えるか……?」
「冗談言うな。だがまあ……やるしかないだろう」
もう三上にもダゴ助にも体力は残っていない。
立つだけで精一杯であり、戦うのはもちろん逃走する体力もない。
しかしただ黙って食われるほど、諦めがいいわけではない。
二人はそれぞれ剣と拳を構え、リヴァイアサンと対峙する。
『ルルル……アアッ!!』
"逃げてー!"
"あと少し"
"マジで死ぬの!?"
"誰か助けてくれッ!"
"どうすんだよマジで!"
ふらふらの二人に突っ込んでくるリヴァイアサン。
もはやこれまで、誰もがそう思った次の瞬間、一つの黒い影が爆速で近づいてくる。
「我流剣術、無尽斬」
幾百、いや幾千の剣閃が放たれ、リヴァイアサンの体に命中する。
それらは一瞬にしてリヴァイアサンの体を斬り刻んでしまう。
『ル……ア……?』
なにが起きたか分からず硬直するリヴァイアサン。
達人の剣技は、斬られたことすら気づかない。リヴァイアサンは混乱したまま絶命し、その場に倒れる。
そしてリヴァイアサンを倒した男、田中誠は執事服のまま二人に振り返る。
「大丈夫か? よく耐えたな」
「兄貴……っ!!」
「田中さん! なんでここに!?」




