時を超えた再会
サクヤが壁に右手をかざした途端、恐ろしい轟きとともに、彼の手の平から数本の稲妻が壁に向かって放たれた。
まるで数匹の光の龍が壁に牙をつき立てたよう……。同時に正面の壁が音を立てうがたれ、粉々になった小石や砂があちら側に吹き飛ぶ。
「よし! まだまだオレも現役でいけそう」
「すごい……ありがとう!」
なんてすごい魔法なんだろう。穴なんて開きそうになかった岩壁に、人一人余裕で通れそうな穴がぽっかり開いている。
味方でいてくれたら心強いけど、敵になったら……。ううん、今は考えるのをよそう。私はサクヤにお礼を言って、急いでその穴をくぐり抜けた。
そのまま駆け足で鳥の左半身側のクチバシの部屋に入る。半円型の部屋からうっすらと差し込むオレンジ色のカンテラの光。レト! きっとまだレトとオウルさんがいるに違いない!
「レト! いる? 大丈夫?」
私は部屋に駆け込むなり声をはりあげた。中を見渡す。カンテラの火が灯る部屋の中央。か細く頼りない人影かビクッと震えたのが見えた。そして、その小さな影が恐る恐るこちらを振り返る。
「え? え? え〜〜? あ、アーミーぃ?」
信じられない! とでもいうような裏返った声。でもレトの声だ! 私は地面にペタリと座り込む影に向かって走り寄り、思いきり飛びついた。
「レト! 無事!?」
「アーミーぃ? やっぱりアーミぃーだぁあ!」
私たちはぎゅーっと強く抱き合い、お互いの無事を確認した。ふわふわのブロンドの巻き髪に、垂れた耳。白いローブは汚れちゃってるけれど、こちらをうれしそうに見上げるエメラルド色の目は輝いている。それをみて確信する。レトは無事だ。よかった。本当に良かったぁ!
「レト、ケガなさそうで良かった! オウルさんは?」
レトも私がけがしてないことを目視で確認し、ちっちゃくうなずくと、目の前に倒れたままのオウルさんを見下ろし、
「傷はふさいだたんだけれどぉ、まだ意識が戻らないんだぁ。でもそろそろ気がつくと思う」
少し強張った表情で答える。うんうん、頼もしいお医者さんの顔だ。でもやっぱり私を見て気が緩んだのか、潤んだ瞳で私を見上げた。
「アーミーぃ、心配したんだよぉ。あの後から何度も地震と何かすごい音がしたしぃ。それに……一体どこからきたのぉお?」
レトが私が出てきた部屋と、私の顔を見比べながらたずねる。そ、そうだ! 私サクヤのことまだ何も話してなかったんだった。
「え、えっとね。色々あって、結局オウルさんの旧い友人を起こすことになっちゃって……」
そう説明しがてら、隣の部屋に置き去りにしてきたサクヤを紹介しようとした、まさにその時だ。
「あ、アーミー……。レト? 私は……」
足元からかすれた弱々しい声がする! これって!?
「オウルさん!?」
「良かったぁあ〜、アーミーの声で目が覚めたみたいだぁ!」
オウルさんの青色の瞳がうっすらと開き、小さな声がかすかに漏れる。良かった、意識が戻った! レトもオウルさんも無事だったことにホッとして、胸に手を当てて深いため息をつく。そこに現れたのは……。
「あーあー。せっかくの初登場シーンだからこうドカン、といきたかったのになぁ。地味だ。地味すぎる絵的に。これじゃ、サイトの日ラン乗れな……」
サクヤだ。あちらの部屋から頭をかきつつ大げさな様子でゆっくり歩いてくる。
そして目の前のレトを見て目を見開き……、そのまま下に倒れるオウルさんを見下ろし……今度は目を剥いた。
「あ、あああ!? 旦那!? んじゃアーミーの上司って……ってまあいいや、とりあえずこっちは言いたいことが山ほど」
って突然叫ぶやいなや、やだ! 信じられないー! ケガ人に飛びかかろうとしてる!
「ちょっと! サクヤ! オウルさんは大ケガしてるんだから、飛びかかっちゃだめ!」
急いで立ち上がって彼を止めようとする私よりも早く、オウルさんが上半身を起した。でも傷に障ったか、ふらついたところをすかさずレトが支える。
「しゃ、……クラ?」
レトに支えられながらも、心底驚いたように声を上げるオウルさん。やっぱりサクヤはオウルさんの友人だったんだ。
二人はしばし無言で向き合った。静かな間が流れる。しかしそれもつかの間、タイミングよくお互い何か言い合おうとしたまさに時だ!
ーー地響き!!
私たちは一斉に通路の向こう側に視線をやる。そうだ! こんなところで揉めてる暇はないんだった!
「ラーテルさん!」
通路の向こうで今も戦う彼女が危ない! 私は立ち上がり声をあげた。その私の足にレトがすがりつく。
「そうなんだぁ、アーミー! ラーテルさん、ずっとさっきから一人で戦ってくれていて……でもぉ、そろそろ体力も限界に近いと思うぅ、どうしようぅ」
「……なに!?」
状況を把握したらしい。オウルさんが立ち上がろうとする。……けどあの大ケガの後だ。ストロベリーブロンドも乾いた血でベッタリ汚れている。目まいを起し倒れそうになったところをレトが押さえ、「ダメですぅ! 無理したらまだ薄い皮膚から血がどばぁあっと」とドクターストップをかけた。
オウルさんの眷属を止める力が使えないとなると、頼れるのはただ一人しかいない。
「サクヤ! お願い! 大切な友達のラーテルさんが危ないの!」
私は横で、呆然となりゆきを見守る彼の腕をそっとつかんだ。こちらを見下ろす彼と視線が合う。彼は私を食い入るように見つめ、ハッと気づいたように、
「大丈夫……任せておけ!」
そう快く承諾してくれた。
けど……黒い髪をかきあげ、ピアスを揺らし、右手を顔の右半分にあてながらっていうのがなんか微妙……。でも年頃の男の子はそういうもんなのかなあ……。モヤモヤするけど、あえて触れるのはやめて、「ありがとう!」とお礼をいうだけにしといた……。
「ふ。これが惚れた弱みってやつか……」とかなんとかボソボソ言ってたけど、今は気にしている場合じゃない!
「ちょっと待ちなさい、シャクラ」
オウルさんが額を押えつつ、走り出そうとしたサクヤに声をかけた。しかし彼の方は聞く気なさそうに手を振り、
「あ、ごめん旦那。俺再セットアップで管理者変ったの。名前もサクヤになったから。って訳で、他にいい人探して幸せになって……」
なんて返す。……い、いい人って。
「え? あ、はあ? ちょ、ちょっと待ちなさい」
オウルさん、ごめんなさい! とりあえず今はラーテルさんの命最優先だ!
オウルさんに心の中で謝りつつ、私はサクヤの腕を引っ張って、通路のその先、眷属のいる部屋に向かって全速力で走り出した。




