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第6話

 アンの持つ契約の指輪で開いた城門を抜けると、そこに広がっていたのは無数の(いばら)が支配する荒れ果てた庭園であった。

 塔の入り口へと続く一本道の両際に、植木鉢の残骸や花壇のものと思われるくすんだレンガが軒を連ねる西洋式庭園。至るところに茨が巻きついており、この庭園を彩っていたであろう草花は牢でその命を終えた囚人のように朽ち果てた亡骸を晒していた。

 さらに無数の茨は塔の入り口へと繋がる一本道にまで伸び出ており、まるで野山に走る獣道のような惨状となっているのであった。


「……なあ、エインセール。ここって、いつもこんな状態なのか?」

「いえ……以前から茨はありましたが、ルクレティア様が封じられる前は整えられた美しい庭園でした」

「ってことは、これも呪いの影響なのか?」

「たぶん……詳しいことは私にもわかりませんが……」

「いえ、その認識で間違いないわ。この茨は、ルクレティア様を封じている呪いの一部よ」

「えっ!? どうしてわかるんですか!?」

「簡単なことよ。この茨達からは、周囲に漂う魔力と同じものを感じるわ。一つ一つの茨に宿る魔力は微量だけれど、それを密集させることによって巨大かつ複雑な魔力構造を形成している。これは、封印魔法としては最も効果的な方法よ。そして、これが何よりの証明となるわ」


 そう言って、先頭を行くアンがゆっくりと足を止める。

 そこは、この獣道の終着点。木目が鮮やかな両開きの扉と、さび付いた落とし格子(こうし)による二重構造の門。塔へ入るために設置された、アーチ型の入り口であった。

 そして、その門を前にした俺とエインセールは、アンが発した言葉の意味を理解する。

 その門は、門としての役目を果たしていなかった。今までに見た中で一番の太さを誇る茨の束が、その門を地中に引きずり込むかのように絡み付いていたのだった。


「……気味の悪い茨だわ」


 そのおぞましい光景に圧倒される俺を尻目に、アンは茨の束へと近づいていく。

 そして、こびりつくように生えたその根元まで歩み寄ると、背負っていた大鎌を手に取り、唐突にそれを振り下ろした。

 だが、大鎌は鈍い鉄音を響かせたのみで、根付いた茨には傷一つ付けることができなかった。


「……やっぱり。物理的にも魔力的にも完璧な封印。ルクレティア様が封じられているというのも納得ね」

「いや、納得してる場合じゃないだろ。どうすんだよこれ。このままじゃあ、塔の中になんて入れないぞ」

「……何とぼけたことを言ってるのよ。ここはクリムの出番でしょう?」

「ん? 俺の出番?」

「そうよ。その聖剣で茨を切って、ここの封印を解くの。私達はそれを試すためにここへ来たんでしょ?」

「……ああ!」


 一瞬、アンが何のことを言っているのかわからなかったが、すぐにここへ来た目的を思い出す。

 俺の持つ神器だけでも呪いが解けるのか、それを検証するために俺達はここへやって来たのだ。そして、その解くべき呪いが目の前の門にびっしりと張り付いている。となると、俺のすべきことはアンの言う通り、ヴィルヘルムで茨を断ち切ることなのだ。


「……よし」


 俺は腕まくりをしながら、アンの下へと歩み出る。そして、アンの大鎌を弾き飛ばした太い茨を真下に臨み、ヴィルヘルムの柄を両手で握り締めてから狙いを定めた。いつだったかテレビで見た剣道の試合を思い出しながら、その構えと体捌きを真似てみる。

 (つるぎ)は体の中央に来るよう構え、全ての力が伝わるようにしっかりと大地を踏みしめる。呼吸を整え目の前の標的に集中し、そして、ヴィルヘルムを真っ直ぐ振り上げた。


「……片手剣なのに、どうして薪割りみたいな構え方なのよ」

「剣道だよ! 集中してるんだから邪魔しないでくれ!」


 アンのツッコミを雑な言葉で跳ね返し、俺は再び茨に集中する。

 そして、ありったけの気合と共に、ヴィルヘルムを勢いよく振り下ろす!


「ハァッ!!」


 俺の両腕が出せる最高速で振り下ろされたヴィルヘルムが茨と衝突し、手の平にその感触が伝わる。その瞬間、俺は弾き飛ばされたアンの大鎌を思い出し、返ってくるであろう衝撃に備えて身構えた。

 が、想定していた衝撃は一切返ってこず、どころか、ヴィルヘルムはそのまま真下へと突き進んでいく。まるで、よく()いだ包丁で豆腐でも切っているかのような感触だった。

 そうして、ほとんど抵抗のないまま茨は輪切りにされ、獲物を失ったヴィルヘルムは空を切ったのち硬い地面に突き刺さったのであった。


「ははっ……本当に、切れちゃったよ……」

「すごい、やりましたねクリム! この調子で切っていけば、扉についた茨も全部――」

「その必要はないわ。見なさい」


 喜びに沸くエインセールの言葉を遮り、アンが俺達の視線をある場所に向けさせる。それは、俺が切ったばかりの茨であった。そしてその切られた茨は、俺達が視線を向けた途端に驚くべき変化を見せ始めた。

 切り裂いた断面の色が緑から茶色へと急速に変色し始め、カラカラに乾いた土のようにひび割れていく。それはその断面を発端として、瞬く間に全ての茨へと伝わっていった。そして、門に張り付く全ての茨がひび割れた茶色に染まると、最後には砂埃を舞い上げながら崩れ落ちていったのだった。


「なんだ……これ……」

「封印が解けたってことね。さすがは伝説の神器だわ」


 茨の拘束を逃れ、その姿を露にした大きな扉。瞬く間に起きたその魔法のような変化に、俺の思考も一緒に持っていかれたようだった。

 だが、アンは相変わらず冷静な言葉を並べ、茨から開放された扉をくまなくチェックしている。こうなって当然とでも言うかのような口調で、その横顔は既に次の算段を立て始めていた。


「あとはこの落とし格子さえなんとかなれば――」


 と、古びた鉄の塊にアンが触れた瞬間、辺りに地鳴りが響き渡った。ゆらゆらと地面が揺れ始め、そびえ立ついばらの塔をも微かに振動させている。

 唐突に起きた地震に、俺達は身を寄せ合い辺りを警戒する。そして地鳴りが一際大きくなったその時、門を塞ぐ落とし格子が軋みを上げながら動き出した。砂埃と鈍い金切り声を撒き散らしながらゆっくりと上昇し、歪んだ牙を覗かせながら門はその口を開いたのであった。


「どうやら、私達を歓迎してくれているようね」


 そう言って、アンが落とし格子の奥に潜んでいた扉を押し開く。木製の扉が放つ独特の乾いた音を響かせ、その向こうに広がる闇が顔を覗かせた。開かれた扉の隙間からは冷たい空気が流れ出し、俺の体温を奪い取るように輪郭をなぞっていく。

 そしてアンが、風のように言った。


「さあ、行きましょう。ルクレティア様を救いに」



  *  *  *



 塔の内部へと侵入した俺達は、進むごとに強まっていく冷気と怪しげな雰囲気に身を(すく)ませていた。

 らせん状の一本道となっている通路沿いに並ぶのは、おぼろげな光を放つ不思議な(あか)り。それ以外に変わったものは何もなく、隙間を埋めるように生えた細かな茨だけが目に留まる。上階から吹き込んでくる冷気は、俺達を阻むかのように確実にその温度を下げ続けていた。


「この塔、なんかおかしくないか? 外との気温差が激しすぎるだろ。ここだけ冬になってるんじゃないのか?」

「ふ、冬って、こんな限られた場所にも来るんですか?」

「……真面目なんだな、エインセールって」

「え? なんのことですか?」


 例え話を本気にするエインセールは、俺のつっこみにも首をかしげていた。これは天然というよりは、純粋という言葉のほうが相応しい。曇りのない澄んだ瞳で言葉の意味を尋ねてくるエインセールを見て、少しだけ申し訳ない気持ちになった俺だった。


 と、そんなことをしながらゆるやかに昇るらせん通路を進んでいると、しばらくもしない内に次なる門が俺達の前に立ちはだかった。外の入り口とほぼ同じサイズの両開きの扉が、薄暗い空間にぼんやりと浮かび上がる。

 その扉を前にして、先頭を行くアンが急に立ち止まった。そのまま扉を押し開き次へ進むと思っていたのに、アンは扉から距離を取り(いぶか)しげな表情を浮かべている。


「どうしたんだ? 先に進まないのか?」

「……何か、おかしいわ」

「ああ、さっきエインセールともそんな話をしたよ。この寒さ、絶対におかしいよな」

「そうじゃない。そこじゃないわ」

「そこじゃない? じゃあ、何がおかしいって言うんだ?」

「……魔物が、一匹もいない」

「魔物?」

「ええ。神器一つであっさり解かれてしまう呪いなのに、魔物がいない上に罠も仕掛けられていないなんて変よ」

「それは……そこまでの余裕がなかったからじゃないのか? アンの予想だと、犯人はルクレティアを封じるだけで精一杯なんだろ?」

「そうは言ったけど……それでも……」


 そう言って、アンは尚も難しい顔をする。両腕で凍える体を包みながら、しんと静まり返る塔内をしきりに警戒し始めた。

 そうなると、アン以上に何もわからない俺も不安になってくる。急に湧き上がってきた恐怖がじわじわと体を染め上げ、どこかで誰かに見られているような感覚まで覚えるようになっていた。ここには、アンと俺とエインセールしかいないはずだ。誰かに見られているなんて、そんなことがあり得るはず――


『――何者です、あなた達』

「!?」


 突然、塔内に女性の声が響き渡る。

 どこからともなく聞こえてくるその声に、俺達は周囲への警戒をさらに強めた。

 だが、いくら目を凝らしてみても俺達以外の人影は見当たらない。姿のない謎の声に、俺達の混乱は加速していく一方である。


「そっちこそ何者なの!? 隠れてないで姿を見せなさい!!」


 今だ残響として聞こえるそれを振り払うかのように、アンが声を張り上げた。

 すると、アンの呼びかけに応えるかのように、目の前の扉が強い光を放つ。そしてその光りの中から、何者かが歩み出てきた。


「――すぐに立ち去りなさい。ここは、あなた達のような者が踏み込んで良い場所ではありません」


 光の中から現れた、一人の女性。

 鮮やかな青を基調としたドレスを身にまとい、大胆にはだけた胸元からは触れた熱で溶けてしまいそうな白い素肌が覗いている。雪の結晶を(かたど)ったかのような杖を持ち、キラキラと輝く細かな光を漂わせながら、その女性は冷たい視線で俺達のことを見下ろしていた。

 だが、そんな視線にも負けない鋭い切っ先がその女性に向けられる。俺の隣で周囲を警戒していたアンが、いつの間にか大鎌を構えてその女性と対峙していたのだった。


「……ここに現れたということは、ルクレティア様を封じた犯人はあなたってことでいいのかしら?」

「ま、待って下さいアンさん! この方はヴィルジナル様です!」

「なっ!? ヴィルジナルって……ヴォルケンベルグの雪の女王!?」


 エインセールとアンが驚きの声を上げるが、俺には何のことかさっぱりだった。

 女王という単語から、どこかの国の王族なんだろうということはわかるが、それ以上にわからないことが多すぎて全く話についていけない。

 だが、ヴィルジナルと呼ばれたその女性は驚くアン達に見向きもせず、何故か俺のことをじっと見つめている。その視線は冷酷で、見られているだけで凍りつきそうなほどであったが、何かを見定めているような視線でもあった。


「……神器使い、ですか。となれば、ますますここを通すわけにはいきません。ここで消えなさい!」


 ヴィルジナルが俺を見る目に明確な殺意を込め、叫びながら杖を振るった。すると、塔の通路に満ちていた冷気が風となって彼女の杖に吸い寄せられ、氷の塊を形成し始める。その氷塊は内側からつららを吐き出しながらみるみるうちに巨大化していき、遂には扉の全景を隠すほどの大きさになってしまった。


「な、なんかヤバくないかこれ!!」

「やめて下さい、ヴィルジナル様! どうしてこんなことを!」

「無駄よエインセール! こうなったらやるしかないわ!」

「やるしかないって、戦うつもりかよ!?」

「当たり前でしょ! ヴィルジナルがルクレティア様を封じているのなら、何が何でも倒すのよ! あなたも神器使いなら覚悟を決めなさい!」

「んなこと言ったって――」

「出でよ、我が(しもべ)ボルソルン!」


 戸惑う俺の声を掻き消す、ヴィルジナルの雄々しい声。だが、それすらもかき消す大きな音が俺の耳を刺した。

 ヴィルジナルが作り出した巨大な氷塊が、盛大な音を響かせて砕け散ったのだ。


 いや――違う。

 砕けたのではない。

 不要な氷を、そいつが脱ぎ捨てたのだ。


「ヴオオオオォォォォォォ!!」


 それは、まごうことなき巨人の姿。

 氷塊から現れた氷の巨人が、雄たけびを上げて塔全体を震え上がらせていた。




「何を出したところでぇ!!」


 咆哮(ほうこう)する氷の巨人に向かってアンが走り出す。手にした大鎌を振りかざし、やつの足元にその身を滑り込ませた。


「ハァッ!!」


 アンの大鎌が弧を描く。巨木の根を刈るようにして振るわれた刃が、巨人の足首を的確に捉えた。砕けた氷の欠片が宙を舞い、鎌の刃が巨人の足を削り取る。


「――ッ!?」


 しかし、そこでアンの動きが止まる。巨人の足を両断するかと思われた大鎌が、食い込んだまま外れなくなっているのだ。どころか、食い込んだ刃がどんどん氷に包まれていっている。その速度は尋常でなく、あのままでは数秒のうちにアンすらも飲み込んでしまう。


「何やってんだ! 鎌を捨てて逃げろ!」

「バカなこと言わないで! こいつを倒さなきゃルクレティア様を救えない!」

「んなこと言ってる場合かよ! 急がないと鎌と一緒に氷漬けにされるぞ!」

「イヤよ! 私がこいつを――!」

「ボルソルン! その娘を吹き飛ばしなさい!」

「ヴオオオオォォォォォォ!!」


 鎌を引き抜こうともがくアンの上で、巨人が咆哮する。

 そして次の瞬間、鉄球のような拳がアンを襲い、鎌にすがりつく矮躯(わいく)を弾き飛ばした。


「きゃあああああ!!」


 悲痛な叫びが塔内に響き、宙を舞ったアンの体が打ち捨てられる。

 ドサリと音を立てて通路を滑り、力なく横たわったままぴくりとも動かなくなった。


「アン!? しっかりしろ、アン!!」


 すぐに駆け寄り抱き起こすが、アンの意識がない。

 腕に触れる体から、ほとんど温もりが感じられない。

 慌てて、脈と呼吸を確認する。


 大丈夫だ。脈もあるし呼吸もしている。

 だが、いまだ気を失い俺の呼びかけにも反応を見せない。

 体中にできた傷から深紅の筋が流れ、肌を伝って衣服に滲んでいく。


「さあ、仕上げです。ボルソルンの吐息で眠らせてあげましょう」


 ヴィルジナルがそう呟いたかと思うと、巨人が大きく口を開いた。

 その咥内(こうない)に、周囲の冷気が急速に集まっていく。

 見るからに冷たい青白く光る球体が、渦を巻きながら俺達に狙いを定めていた。


「ク、クリム! 早く逃げないと!」

「わかってる! わかってるよ!!」


 ぐったりするアンをどうにか背負い、ヴィルジナルと巨人に背を向ける。

 だが、巨人の口にある冷気の球体は今にも発射されそうだ。

 それが飛び出せば最後、ろくに運動もしてこなかった俺では逃げ切ることができない。

 このままじゃ、俺達は――ッ!!





『――して』

「!?」



 頭に響く、聞き覚えのある声。



『思い――て、――たの力――』



 あの時聞いた、歌うような、優しく美しい声。



『思い出して、あなたの力を――』



 その声が、導くように俺へと語りかけてくる。



「思い出す!? 思い出すってなんのことだ!?」

『思い出して――あなたの、夢見る力を――』

「何だよそれ!? 何のことを言ってるんだ! わかりやすく言ってくれ!」

『夢見る力――あなたの、創造する力――あなたが望めば、それが現実になる――剣が、力を貸して――』

「どういうことだ!? ヴィルヘルムのことを言ってるのか!?」

『急いで――もう時――が――』

「おい! ちょっと待ってくれ! ちゃんと教えてくれ、おい!!」



 俺の願いは届かず、遠ざかっていく女性の声は遂に消えてしまった。

 何を伝えようとしていたのかはっきりとわからないまま、俺の思考が現実へと引き戻される。


「死期を悟って独り言ですか? 安心なさい、ボルソルンの吐息に痛みはありません。思考すらも追いつかぬまま凍りつくのですから!」


 ヴィルジナルが杖を掲げ、巨人に最後の命を下した。

 巨人が通路を踏み鳴らし、腰を落として冷気を吐き出す予備動作を行う。

 振り向きざまに見た渦巻く冷気の球体に、俺達の姿が映りこんでいた。

 俺の背中で気を失うアンと、すがりつくようにして脅えるエインセールが映っている。

 そしてその中心にいる俺は――聖剣ヴィルヘルムを右手に握り締めていた。





 ――やってやる。



「ヴィルヘルム! お前の力を貸してくれ!」



 右手を掲げ、埋め込まれた宝玉に語りかける。

 その宝玉が、ぼんやりと輝き始めた。



「俺はこんなところで死にたくない! アンとエインセールも守りたい!」



 ヴィルヘルムをきつく握り締め、望む力を想像する。

 宝玉から溢れた光が、刀身を包み込んでいく。



「だから、俺は逃げる! 二人を連れて、俺をここから逃がしてくれ!」



 想像する。

 逃げる力を創造する。

 時間も空間も飛び越え、ここではない安全なところまで逃げる力を思い描く。

 ヴィルヘルムが輝きを増し、俺達を包み込んでいく。



「逃がしませんよ! やりなさい、ボルソルン!」



 ヴィルジナルが巨人を急かす。

 巨人が、その口をさらに大きく開いた。



「頼む、ヴィルヘルム! 俺に力をッ!!」



 ――来るっ!!



「ヴオオオオォォォォォォ!!」

「飛べええええぇぇぇぇぇぇぇ!!」








 ――目の前が、白一色で塗り潰された。

 体が、どこかへと引っ張られていく。

 平衡感覚がない。自分がいま、どこにいるのかもわからない。

 世界が回り、視界が歪み、思考が乱れる。

 全てが、光に溶けていく。

 その光が、闇に包まれていく。


 そして、残る一筋の光から、声が聞こえた。



「――ちょっと、アリスちゃんこっち来て!」

「何よリーゼ、そんな慌てて――って、何この行き倒れ」

「わかんないけど、すごい弱ってるの! 早く何とかしてあげないと、このままじゃ死んじゃうよ!」

「ええ~めんどくさい――けど、放っておいたらシンデレラが怒るかぁ。しょうがない、誰か呼んでくるわ」

「うん、お願い! 私、この人達についてるから!」

「ほ~い。んじゃよろしくぅ」

「大丈夫ですか!? すぐに助けが――すから! そ――まで頑張って――」

「――、――!!」



 その声が遠ざかる。

 か細かった光が、そして消えた。

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