表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

第6話:討伐報酬

 ピチャン――ピチャン。


 洞窟に、水音だけが残っていた。


 あたしが放った発勁はっけいの魔力は、確かにサハギンの急所を撃ち抜いていた。


「……やった」


 次の瞬間――魔物の肉体が、音もなく崩れ落ちる。


 残された核だけが、乾いた音を立てて地面へ転がった。


「はぁ……っ」


 あたしは荒い呼吸を整えながら、それを拾い上げる。


「――波の回転に逆らう風をぶつけて、勢いが止まった一瞬を抜けた……か」


 コモエディアが腕を組み、感心したように頷いた。


「驚いたよ。キミ、もう“完成しかけてる”」


「そんなことないわよ……」


 肩で息をしながら、軽く返す。


 まだ全然足りない。あんなの――再現できる気がしない。


「驚きました。鱗に覆われたサハギンを、傷一つ付けず倒すとは……」


 カイルさんが腕を押さえながら、核へと視線を落とす。


「カイルさん! 怪我は大丈夫ですか?」


「ええ……問題ありません。それより――発勁、ですね?」


 問いかけに、あたしは小さく頷く。


「触れた瞬間に魔力を流し込んで……内側から壊す感じ、です」


 うまく言葉にできないけど。


 外じゃなく、中を壊す。


 それだけは――間違いない。


「なるほど……」


 カイルさんは目を細め、それから表情を引き締める。


「とにかく依頼は、無事帰還してこそ達成です。ここは早く出ましょう」


「ですね……もう、ここに長居したくないです」


 あたしは苦笑しながら、核をポケットにしまう。


 勝ったはずなのに――落ち着かない。

 湿った空気と、ぬかるむ地面が、まとわりつく。


 三人で、出口へと歩き出す。


「それにしてもさ」


 隣でコモエディアが、軽く言った。


「キミ、本当にセンスあるよ」


「あの強さで脅威度9なの?」


(……強かった。カイルさんがいなかったら、危なかったかも)


「魔術を使う個体だったからね。同じ9でも“9++”くらいはあったはずさ」


 なるほど……。


 同じ脅威度でも、個体差がある。


(アリアドネより強かったのも納得ね……)


「そういうあんたは、2のいくつなのよ」


「人間達は、2の+++って定義づけたみたいだ」


 さらっと言ってから、ニヤリと笑う。


「だからって、ボクに勝てるなんて思わないことだね」


(思ってないわよ)


 心の中だけで返す。


 ――脅威度2。


 その距離の遠さは、さっきの戦いで嫌というほど思い知らされた。


(……本当に、帰れるのかな)


 一瞬、不安が胸をよぎる。


 けれど――。


 視界の先に、光が差し込んだ。


 クロンド洞窟の出口だ。


 あたし達は、無事に外へと辿り着いた。



「この度は魔物を討伐してくださり、誠に感謝しております」


 洞窟を出たあたし達は、その足で村長の邸宅を訪れていた。


 応接室で、初老の村長が深々と頭を下げる。


「10万ドラ――確かに受け取りました」


 サハギンの核と引き換えに、報奨金を受け取る。


 この世界の通貨ドラは円とほぼ同じ価値で、物価はやや安い。


 ――つまり、結構な大金だ。


「森の大蜘蛛といい、お二方には本当に助けられております」


「いえ、騎士として当然の務めですから」


 カイルさんが穏やかに微笑む。


 その笑顔に、隣の秘書が一瞬で頬を染めたのを、あたしは見逃さなかった。


(……やっぱりモテるのね、この人)


 少し嫉妬する。


 報酬を分配し、アリアドネ討伐の経過をカイルさんへ引き継ぐ。


 すべての手続きを終え、屋敷を後にした。


「終わった?」


 外で待っていたコモエディアが声をかけてくる。


「ええ。カイルさんへのツケも払えたわ」


「村長立ち会いで手続きまで済んだのは、運が良かったですね」


 これで――足は止まらない。


 アリアドネの討伐報告は、カイルさんが引き受けてくれることになった。


 結果――あたしの手元には、約9万ドラ。


 異世界に来て、初めての“まともな所持金”だ。


「私はこのまま帝都へ戻ります。ミストさんは?」


「あたしは……同じく東に行ってみようと思います。あっ、その前に装備整えないと」


 ボロボロのテーピング、足りない食料、装備。


 必要なものはいくらでもある。


「そうですか……では、お別れですね」


 そう言って――


 カイルさんは、ゆっくりとあたしの前に跪いた。


「ミストさん――」


「は、はひっ!?」


 噛んだ。


 完全に噛んだ。


 でも、それどころじゃない。


 見上げてくる瞳が、あまりにも真っ直ぐで――綺麗で。


「可憐で――あれほど勇ましい戦いをする方は、初めて見ました」


 そして。


 彼はあたしの手を取り、そっと顔を近づける。


「どうか、この先に神のご加護を。再び道が交わることを願っています」


 次の瞬間。


 手の甲に、柔らかな感触。


 一瞬、思考が止まる。


「あっ……///」


「では、また」


 カイルさんは微笑み、立ち去っていく。


 その背中は、振り返らなかった。


 まるで――次に会う時を、信じているかのように。


 その背中が見えなくなるまで――あたしは、動けなかった。


「はぁ~……また一緒に冒険したいな……」


「……で、所持金はいくら?」


 明らかに、不機嫌な声だった。


「えっと……3万は残して、6万で装備とか買う予定」


「ふーん」


 そっぽを向く。


「なによ、その態度。拗ねてるの?」


「別に」


 ……ほんと、わかりやすい。


 思わず、苦笑が漏れる。


「悪魔にも人間らしいところあるのね」


「……どうだろうね」


 そのまま、コモエディアとは別れた。



 道具屋で必要なものを揃え、宿へ戻る。


「ふーっ、疲れた……!」


 エヴェリンの宿屋。


 食事と風呂を済ませ、ベッドに腰を下ろす。


「あいつ、もう魔王の城に帰ったのかな……」


 コモエディアは夜になると姿を消す。


 行き先は――魔王の城。


 軽く言ってたけど、よく考えるととんでもない話だ。


「……残り、3万ドラか」


 ゼロからここまで来た。


 でも――まだ足りない。


(魔王軍幹部を倒して、元の世界に帰る)


 その目標は、あまりにも遠い。


 けど。


「――絶対、帰る」


 小さく呟き、拳を握る。


 やがて眠気に包まれ、あたしはベッドへ倒れ込んだ。


 明日も戦いだ。

 それでも――止まれない。


 意識がゆっくりと沈んでいく。


 夢に落ちる、その直前――


 コモエディアが憎む《相手》。


 ――その時のあたしは、まだ知らなかった。


 あいつが“仲間を殺そうとしている理由”も。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ