第21話:共闘
カーヒルの市場――
その日、喧騒は一瞬で恐怖へと塗り替えられた。
「逃げろォッ!!」
悲鳴が飛び交う。
露店が倒れ、人の波が崩れる中――
「着きました! あれです……!」
ケビンが指差す先。
そこにいたのは――
鎧に覆われた巨大な人型の魔物だった。
無造作に腕を振るうたび、屋台が弾け飛ぶ。
「……あれね」
息を整える。
大丈夫。
この“装い”と戦術、どんな魔物だって怖くない。
「いくわよ、テオ!」
奪われる人を、これ以上増やさせない。
「はいっ! 【脱兎】!」
テオが駆け出した。
壁を蹴り、屋根を踏み、一直線に魔物へ迫る。
「【拳影突き】!」
滑り込むような一撃――
だが。
ベキッ。
「くっ……!」
わずかに鎧が凹む。
しかし弾かれた。
「ダメだ……!」
「いいえ――【検視】!」
ケビンが虫眼鏡型の魔導具を構える。
光が走り、数値が浮かび上がる。
「今の威力で35パーセント――次こそ届かせてください!」
「なら――あたしがやる!」
羽根を掴む。
瞬時に錬成――羽根を触媒に。
「【天空飛翔】!」
錬金グローブが輝き――背に白翼が展開する。
一気に宙へ。
「ケビン! 急所は!?」
「腹部です! そこが最も脆い!」
「了解――!」
空中で体勢を整える。
中指を折る。
嵌めた鉄の指輪が、触媒として溶けた。
「【硬化拳】!」
拳が鋼に変わる。
この技をすぐ撃つため、たどり着いた結論――。
実戦では最大2発。この一撃で活路を切り開く。
「はあああぁぁっ!!」
一直線に叩き込む――!
メキィッ!!
腹部の鎧が砕けた。
そのまま――貫通。
魔物は吹き飛び、壁へ叩きつけられる。
「……どうよ!」
翼が消え、着地する。
――その時だった。
「……え?」
砕けた鎧の隙間――そこから覗いたのは、
紛れもなく人間の腹部だった。
「……うそでしょ」
「グオオォッ!!」
魔物が咆哮し、再び立ち上がる。
――人間?
あれが……?
――違う。
そんなはず、あるわけない。
「【試薬投与】!」
足のベルトに取り付けた試験管を抜き取った。
グローブで叩き割り、薬液を浸透させる。
「【白霧】!」
拳から白煙が噴き出し、視界を覆った。
「どうする……!?」
一旦距離を取る。
「……間違いありません。人間です」
ケビンが魔術による分析で導き出した。
あれは確かに人間だと――
彼の声は震えていた。
「内側から変質しています……これは――」
「……元に戻せる?」
「……いえ」
短い沈黙。
「助かりません」
聞きたくなかった一言。
「もう、消滅させるしかありません」
胸が、締め付けられる。
――人間を。
でも。
「……時間がありません!」
煙が晴れる。
砕いたはずの鎧が――再生していく。
「ッ――!」
次の瞬間。
魔物の口が開く。
閃光。
轟音。
露店が、焼け落ちた。
「……やるしかない」
拳を握る。
助けられない命だと、
認めるしかなかった。
「【執刀・開腹】!」
鋭い声が割り込む。
光の刃が走り、鎧を裂いた。
「モニカさん!?」
「迷ってる暇はないよ! 今のうちに!」
「――っ!」
完全に塞いだら、また初めからだ。
駆ける。
あと数メートル。
「グオオォッ!」
再び光線――!
避けきれない。
その瞬間。
「【隙間風】!」
テオの声。
「姐さんに――届けっ!!」
次の瞬間。
あたしの手に、羽根が握られていた。
「……ありがと!」
受け渡しに、一瞬感心する。
即座に触媒とし、吸収。
「もう一度――【天空飛翔】!」
翼が展開。
光線をかすめて、空へ。
「【試薬投与】!」
残るもう一本の試験管を砕く。
拳に――雷が宿る。
「【事跡】! そこです!」
ケビンが目印をつけ、急所へと誘導する。
これ以上、奪わせない。
「これで――終わり!!」
人差し指の指輪も溶ける。
すべてを乗せた一撃。
「せめて、魂だけはっ!」
急降下し、接近。
拳を振り抜く――!
「【硬化拳】……!」
鎧を砕き。
腹を貫く。
雷が走る。
衝撃が全身を巡る。
――砕けろ。
その一念で。
鎧がひび割れ――
崩壊した。
轟音とともに、
魔物は粉砕された。
「……はぁ、はぁ……」
戦いの余韻――
肩で息をする。
「……終わった」
張り詰めていた糸が切れたみたいに、膝から力が抜けそうになる。
やがて――
「助かったぞぉぉ!!」
歓声が上がる。
人々が戻ってくる。
壊れた市場。
でも――命は守れた。
「……行きましょう」
踵を返す。
モニカ・ハウスへ。
*
「みんな、ありがとう」
戻った後、共闘してくれた3人へ頭を下げた。
「何言ってんだい。一番頑張ったのはアンタだろ」
モニカさんが肩を叩く。
「でも……あたし」
言葉が詰まる。
「人間を……」
「違います」
ケビンが遮った。
「あれは“変えられた存在”です」
真剣な眼差し。
「問題は――誰がやったか、です」
全員が黙る。
重い沈黙。
「……許せない」
テオが呟いた。
拳を握る。
「……父ちゃんと母ちゃんも……」
「……大丈夫」
あたしは彼の前に立つ。
「必ず見つける」
目を合わせる。
「一緒に」
「……はい!」
強く頷いた。
「僕も調査を続けます」
ケビンの表情が一瞬曇る。
「心当たりは?」
「あります。一瞬感じた魔力――」
一息つき、ケビンはその名を出した。
「【ダイアモンズ】」
「そいつらが元凶なの?」
「いえ……一瞬でしたし、何より証拠がありません」
ケビンは断定を避ける。
「分かった。お願い、ケビン」
ケビンは頷き了承する。
空気が少しだけ軽くなる。
「さてと、飯でも作るかね」
モニカさんが笑った。
日常が戻る。
でも――
あたしは拳を握る。
まだ足りない。
もっと強くなる。
守るために。
取り戻すために。
――すべてを。




