バイト巫女と新学校生活①
古雅神社を出て、私達は啓太の家に向かった。
ついた先は、築年数がそれなりに経っている市営住宅だった。
「俺の家、ここの三階。漫画とってくるから、ここで待ってて」
「うん」
駐輪場に自転車を置くと、啓太は建物の中に入っていった。私もいきなり男の子の家に入るのは気が引けるので、その気遣いがありがたい。
『漫画借りれてよかったな』
「うん。一緒に読もうね」
にこにこと古雅が笑うので、私も嬉しくなる。
『ちゃんと読み終わったら、次の巻も借りるんだぞ』
「分かってるって。でも、なんか借りっぱなしも悪いよね……」
あまり人と貸し借りをしないから、何をすればいいか分からない。自分も好きな漫画があればそれを貸せたけれど、あいにくと持っていなかった。
ちょっとしたお菓子を渡すとか? でも学校にお菓子を持ってくのは禁止されているし。
そもそも学校に漫画本を持ってくることはできないよね……。
「……待って。漫画を借りると言うことは、定期的に啓太君に声をかけて家まで行かないといけないということ?」
『そうなるな』
クラスメイトだからと深く考えていなかったけれど、漫画本の貸し借りは休みの日とか学校後にあえて会わなければできない。
『ちゃんと、次の巻も借りるんだぞ』
「そ、そんな。定期的に学校以外でクラスメイトと会うとかハードルが高いというか……」
その落とし穴は考えてもいなかった。
それならば、多少出費でも自分で買った方が気が楽だ。でも、とりに行ってもらっているのに、やっぱりいいとか言いにくいというか、言えない。
『人見知りを克服するチャンスだと思え。それにクラスメイトじゃなくて、友達だろ?』
「ふぁ⁈ と、友達? えっ。そんな一方的に」
『いや、「友達になってください」とか「今日から友達だよとか」わざわざ口に出す方が少ないから。一緒に遊んだり話したりすれば、友達だと思ってよし』
「いや、ヨシじゃないよ」
勝手に友達扱いしたら、気持ち悪いとか思われないだろうか?
『そもそも、啓太は嫌なことは嫌だと言えるタイプだぞ。嫌じゃないから漫画も貸すんだし』
「それは、そうなんだけど……」
不良の先輩相手でも堂々と意見していたのだから、貸したくなかったらそもそも貸すなんて言わないと思う。
そして五冊づつと言い出したのも啓太の方なのだから、定期的に私が取りに行くことも負担だとは思っていないのだろう。……でも人の心の中なんて分からないし。
「おまたせ」
「ひょあっ」
本当に迷惑じゃないのかとか色々考えていた所為で、啓太が近づいてきたことに気が付かず、私は飛び跳ねた。
「えっ。そんなに驚いた? 悪い」
「ご、ごめんなさい。考え事をしていたからで、啓太君が悪いわけじゃなくて。いや、その……本当に借りてもいいの? 実は迷惑とかそういうことない?」
「全然。ただ、これ、いとこが読んでいたの貰ったたやつだから、あんまりきれいじゃないんだよな。破れとか汚れはないけど、日に焼けてるんだ」
「それは全然大丈夫」
紙袋に入れて持ってきてくれた本はチラッと見た限り確かに古いが、そんなに気になるほどではない。
「その、返す時って……」
「ああ。スマホ持ってる? 持ってるならラインで読み終わったの教えてくれたら、次のを用意しておくから」
「うん。あるよ」
仕事でも使うので小学生のころから持っていたけれど、どうやら啓太も持っていたようだ。ラインでやり取りするなら、直接声をかけるよりもハードルが低くて、少しほっとする。
お互いスマホを取り出し連絡し合えるように登録したところで、このやり取りは本当に友達っぽいと思った。
今までスマホは仕事関係か、親としかやり取りしていなかったのに、初めてその他ができたのだ。その表示に、何ともむずむずした感じがする。
「よかったら感想とかも送ってよ。この本古いから話せる相手、いとこぐらいしかいなくてさ」
「うん。もちろん」
そっか。
感想を言い合うなら、やっぱり友達でいいんだよね?
こういうのは読み友というのかな? 分からないけれど、なんだか普通の人になれたような気がして、帰りの自転車はペダルが軽くなった気がした。
◇◆◇◆◇◆
啓太と一緒に古雅の神社に参拝しよう計画が無事に終わった月曜日。
いつも通り、学校に行く前に駅でお祓いをしてから登校をするが、その足取りは重い。……学校で啓太と会う約束をしたことで、何か噂になっていないだろうか……。
不安に思いつつ、昇降口へ向かうと、人が立っていた。
この時間はホームルームの時間なので、昇降口に誰かいるなんて普通はない。しかもその顔には見覚えがあった。金曜日に絡んできた、不良の三年生だ。
びっくりしすぎて立ち止まる。
えっ。もしかして、これ、お礼参りとか言うやつ?
『華那子にまた手を出そうなんて、いい度胸じゃないか』
古雅がパンと拳を手のひらにぶつける音を聞いて私は震えあがった。古雅は私の家族みたいなものもあり、時折過保護なモンスターペアレンツ状態になることがある。
そもそもモンスターどころか人外最恐の神様だ。
古雅に立ち向かうということは、人が生身でダンクカーに体当たりしに行くようなもの。無謀すぎる。
三年生に何か仕返しをされるのも嫌だけど、ここで古雅が暴れて死傷事件なんて起きたらもっと困る。
そんなことが起これば、古雅は邪神扱いされて、仕事が受けられないどころか、神社自体潰されかねない。古雅は邪神ではなく、ちょい悪なヤンキー神様なだけなのに。
「「「おはようございます、姉さん!」」」
「へ?」
一触即発。どうしようと頭を抱えたところで、突然三年生達が私に向かって一斉に九十度のお辞儀をした。
あ、姉さん?
キョロキョロと周りを見るが、私以外の人間はいない。
となると、私が姉さん? いやいやいや。
「あ、あの。人違いをされているかと……」
「違います。一年二組、立花華那子さん。俺たちはあなたに助けられました」
「だから姉さんです!」
「いや、年下なんですけど……」
【あねさん】って【姉さん】だよね?
当てはまる字がこれしか思いつかないけれど、どう考えても三年生に呼びかけられる名としてはおかしい。
「俺達の世界では、自分より立場が上の女性は姉さんって言うんです」
「「うっす」」
うっすじゃない。
そして上の立場に立った覚えもない。
『なんだ。自分の立場、よく分かってるじゃないか』
そして古雅。にこやかに歓迎しないで。私はあまりのことに白目を向きそうだ。意味が分からなすぎる。
何が起こったら、一年のボッチ女子が不良の三年から姉さんとあいさつを受けることになるのか。あり得ない。これは夢? というか、異世界にでも来てしまった?
頭が痛すぎる状況に現実逃避したくなる。
「いや。あの。そういうのやめていただきたいのですけど……」
「なんでですか? 俺達舎弟にして下さい!」
「机を投げ飛ばすようなお化けに勝てる姉さんカッコイイです」
「惚れました!」
いや、机投げたの古雅だし。
悪鬼は確かに払ったけれど、実際に力を振ったのも古雅。つまり古雅の自給自足。全くもって、私を姉さんと呼ぶ必要はない。
「しゃ、舎弟とかは結構です」
「なんですか」
「舎弟、お得ですよ? 必要なものとかあれば買いに走るし」
「必要なものがあれば自分で買うので……バイトもしてますし」
そもそも、何処に買いに行く気なのか。この学校の中には購買も自販機もない。つまり外部……不良だ。いや、知っていたけど。
「セーンパイ。一年女子にわけわからん事言って、強要するのよくないと思いまーす」
変なことを言い出した先輩達をどうかわして、教室に向かえばいいのか。
頭を悩ませていると、昇降口の中から啓太が現れた。




