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バイト巫女とヤンキー神様②

 休日に会うとなれば私服だ。

「えっ。何を着よう。自転車に乗るんだよね……スカートは避けて……」

 学校ならば制服一択なので悩まなくていいけれど、休日は私服だ。しかもクラスメイトとの外出。初めてのことに頭を悩ませる。

 仕事ならば動きやすさ重視なので、Tシャツにジーンズでもいいのだけど、あまりにダサい格好をして呆れられたり笑われたりするのは、この先の学校生活で困る。それに私一人なら素通りされても、髪を赤く染めた啓太と一緒なら、間違いなく目立つ。啓太が私の恰好に笑わなくても、学校を待ち合わせにしたのだから他の誰かに見られる可能性が高い。

 やはりそれなりの恰好をしなければいけないだろう。

 ……ボッチには高ミッションすぎるけれど、平穏な学校生活のためにも何とかクリアしなければ。


『華那子は何を着ても似合うぞ。俺のおすすめは、穴あきジーンズにもっと攻めた感じのTシャツだな。黒系だとカッコイイよな』

「いや、そういうのは目指していないから」

 攻めた感じって、一体どこへ攻めるというのか。ここは戦国時代ではないのだから、もう少し和を保つ努力をして欲しい。

 選ぶなら、できるだけ無難な服だ。

 無難……無難……気合が入りすぎても引かれるよね。デートではないのだし、勘違い女みたいに思われても痛いし。

 色々悩みに悩んだ末、キュロットに半袖のTシャツ、長袖のカーディガンを合わせることにした。考えすぎて何が正解か分からない。ただ、古雅の意見だけは間違いなのは分かる。


 約束の時間に近づき、私は自転車にまたがって学校へ向かう。

 自転車は久々だったけれど、流石に転倒するようなことはなかった。待ち合わせの校門前へ行けば、すでに啓太が待っていてドキリとする。

 しまった。先に着こうと思ったのに。

「ごめん。待たせて」

「俺も今来たとこだから大丈夫。むしろ休みの日に悪いな。用事とかなかったよな?」

「うん。大丈夫」

 啓太は古雅とは違い、穴の一切空いていないカーゴパンツに、パーカーを着ていた。……えっ。なんか普通だ。

 チラッと古雅を見てしまう。古雅はいつも通り穴あきジーンズに、黒色のTシャツ。そして今日は黒の革ジャンを羽織っている。さらにシルバーアクセサリーもジャラジャラついていて、啓太とは何か違う。……もしかして、古雅は旧不良的な?

 古雅がヤンキーファッションに目覚めたのは、私が古雅と出会う前に古雅の神社に最後に訪れていたのがヤンキー君だったためだと聞いている。いつ頃の話しなのか、確認はしていなかったけれど、そのヤンキー君も私が出会った頃にはすでに不良を卒業し、大人となってどこかで働いていたらしいので、結構前の話しな気がする。


「立花、どうかした?」

「あー、いや。えっと、ごめん。偏見で、穴あきジーンズにどくろマークのTシャツとか着て、シルバーアクセサリーをつけてくるのかなと思ったら、結構普通だったから逆にびっくりしたと言うか……」

「ぷはっ。なんだよそれ。そういうの着るのって、ヴィジュアル系バンドとかじゃね?」

 ……ヴィジュアル系バンドだと?

 言われてみると、古雅の姿はそっち系な気がする。

『いや。ヤンキーファッションだって。ほら鉄パイプ持ってるバンドマンなんておかしいだろう?』

 それはそう。

 その鉄パイプを使って一体どう奏でるのかという話だ。やるなら打楽器っぽいけれど、その場合打ち付ける太鼓は何になるのか。……ヤンキーとか不良以前に、サイコパスになりかねないので、想像するのは途中でやめた。世紀末すぎる。


「とりあえず、遠いなら早めに出発しようぜ。道案内よろしく」

「うん」

 私は促され、自転車を走らせた。

 自転車で移動するのは久々だが、意外に道は覚えているもので、問題なく進んでいく。順調に進んでいったが、ふと私は不安を覚えて啓太に話しかけた。

「あっ。そうだ。えっと、もしかしたら大きな神社を想像しているかもしれないけど、古雅神社はその、何というか、近所にある神社みたいな感じだからね。後、神主とかもいないから、そのさびれているというか……なんというか……」

「へぇ。そうなんだ。賽銭箱はあるんだよな?」

「うん。それは一応あるよ。元々は、その地域に住んでいる人で共同管理されていたみたいなんだよね。でも人が減少して、信仰心も薄くなって管理しきれなくなったみたいで。土地の所有は町の所有みたいなんだけど……」

 

 幽霊も、妖怪も、神様もいると証明されたのが二十年前。

 それより前は信仰心は薄れていた。大きな神社で年明けに参拝したり、七五三をするなどは残っているけれどそれは神様を信じているというよりは、イベントの一種としてだ。

 古雅神社は地域住民の信仰心によるボランティア活動で管理されていたため、信仰心がなくなり、人でも減ったことで放置されてしまうようになった。そして社の老朽化に伴い、立ち入り禁止の立て札が立てられて、そのままになっていたという経緯がある。


「管理されていないって、幽霊スポットみたいな感じ?」

「今はそう見えない程度に体裁は整えられるようになったよ。古雅……神様が、悪鬼を払う対価で役所職員が参拝に行ったり、業者を入れて清掃したりしているから。でも流石に社を立て直すほどのお金はまだないから、それなりとしか言えないんだけど」

「えっ。神様が自分で稼いでいるのか?」

 啓太の驚きの声に私は苦笑いした。

 確かに神様が自分の住む場所を維持するために働くなんて普通じゃないし、聞いたこともない。でも古雅は、それで何とか今の姿を保っていられる。


「うん。本当は神様はそういう存在じゃないんだけどね」

 神様は人に祀られているから神様という立場を得る。

 祀られなければ、悪魔や、化け物、妖怪……まあ、神ではない強い力を持ったナニカだ。

 そして神様は利を与えて祀って欲しいとするのではなく、普通は人の方が祀らせてほしいと動き、その土地の神になってもらうのだ。

 そして祀られた神様は、信仰心で力を得てそれを人に還元するようになる。神となった後は、信仰がある間は不老不死のような状態になるらしい。でも神様が信仰されなくなると、徐々にその力を失う。

 力を失った後は、妖怪や堕ちた祟り神になる場合もあるそうだ。でもほとんどの場合、神は自分というものを信仰で作っているので、そのまま消えてしまう。


「古雅の場合は、私という、しっかりと認知する存在があるから、ちょっと普通じゃなくなったというか……」

 そもそも、消えたくないと人のように働きたくても、その存在を認知できる者がいなければ不可能だ。

 だから視ることができる私がいるから古雅は自力で延命できている。でも多分、古雅は私がいるから延命せざる得なくなったのだと思う。

 私が古雅を消したくない願うから、古雅はそれに答えてくれているだけだ。

「まだ着くまで時間があるし、少し私と古雅の出会った時の話をするね」

 どう説明をすればいいものか。

 色々考えたけれど、古雅がどういう神様なのかを知ってもらうには、私は出会いから話した方が早そうだ。

 話すことなく無言で自転車を走らせるのも居心地が悪いので、私はのんびりと小さなころの話をすることにした。

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