バイト巫女と巫女系動画配信者②
「それにしても、盗撮なんて災難だったね」
古雅に殴られ気絶した、盗撮魔の男を駅員さんに引き渡したところで、私はキノちゃんと一緒に駅から出た。
「まあ、よくあることなので……」
「よくある? えっ。ちょっと、華那子ちゃんの担当者誰? たぶんそれ、未成年の巫女がどこで何時にお祓いしてるとか情報出回ってるから、担当場所の変更か、警察官の巡回を入れてもらわないといけない案件なのにサボってるってことじゃん」
階段をのぼりながら、キノちゃんが私へ仕事を振る担当者さんに対して怒る。
「あの。でも、私がこの駅を希望していて……。まだ学校との距離とか家からの距離とか考えると、あまり遠いところとか、遅い時間とかに配置されると困ってしまうので。今までも古雅が……あ、さっき光ってるって言ったのが古雅なんだけど、えっと、古雅が犯人を倒してくれているから実害はあんまりなくて」
初めて盗撮された時に配置換えをしないかと言われたが、提示された場所は遠く、毎回タクシーを使うことになりそうだったので断ったのだ。また大事になって母から仕事をする許可が貰えななくなっても困る。
結果、古雅が犯人を殴り倒せてしまうのだから、現状維持でとなったわけだ。
「いやいや。だったら職員がついて行くとかやらないといけないのよ。特に未成年の中でも義務教育中の人物に対しては格別の配慮をしろってなっているから。つまり、なんの対策も取られていないってことは担当者の怠慢なの。私がびしっと言ってあげるわ。と、言っても、今日はこれから学校よね?」
「はい。そうです。キノちゃんもですよね?」
私の盗撮魔の件につき合わせてしまったが、キノちゃんも制服姿だ。今日は平日なので、間違いなく学校だと思う。
「そうなの。ちょっと頼まれている場所の下見をしたら登校するつもり。なら、放課後に一緒に行きましょ。私も証言できるから」
「えっ。申し訳ないです」
「遠慮しないで。私も下見した後、報告入れなきゃいけないから。待ち合わせ場所は役所でいいよね? あと連絡先交換しない? そうすれば、会いやすいし。あ、スマホって持ってる?」
「あ、あります」
私がスマホを取り出せば、キノちゃんはささっと私の情報を登録してしまった。そして私のスマホの中にもキノちゃんの名前が入っている。
「じゃあ、また後で、ライン送るよ」
「あ、はい。分かりました」
ペコリと頭を下げれば、キノちゃんは手を振って颯爽と歩いて行った。
……かっこいい。
「古雅、どうしよう……。キノちゃんと連絡先交換しちゃった」
『どうしようってなんだよ。仕事の先輩と連絡交換しただけだろ?』
「ただの先輩じゃないよ。キノちゃんは動画配信とか、本当にすごいんだから」
私からすると、キノちゃんは芸能人だ。
実際、キノちゃんの動画のチャンネル登録数は凄く多いし、ファンだっている。
『巫女の能力的には華那子の方が上だぞ?』
「そんなことないよ。私は悪鬼を集めるだけで、祓っているのは古雅でしょ? キノちゃんは一人でそれを全部やってるんだよ。でもね、それだけじゃなくて。あんなに堂々と巫女だって言えるのがかっこいいんだって」
幽霊や妖怪や神様がいると証明されてから何年か経ってはいるけれど、相変わらず巫女とかの仕事には偏見の目がある。SNSとかを見ると、巫女に対して詐欺師扱いしている人もいた。
でもキノちゃんは、巫女らしい巫女ではなく、金髪に髪を染め、何時でも明るく実況しながらお祓いをするのだ。自分を持っているという感じが凄いと思う。私は巫女の仕事を隠しているわけではないけれど、わざわざ伝えることはしない。
私もあんなふうに、誰から何を言われても揺らがない自分になりたいなぁと思いつつ、バスに乗って学校近くまで移動する。
学校に着けば、丁度休み時間のようだ。廊下に人が出ていて、ざわざわと賑わしい。……できれば、授業中のタイミングにこっそり入って席に着きたかった。
変な噂とか立っていたらどうしようと不安になりながら、教室のドアを開けた。
開けた瞬間、ざわめいているけれど、すべての視線が私の方を向いているような居心地の悪さを感じた。
遅刻だから見ているのか、何かよろしくない噂があって見られているのか。分からないけれど、居心地の悪さに、心臓の鼓動が早くなる。
あ、挨拶した方がいいのかな? それとも何も気にしていませんと言う感じで中に入った方がいい?
どうするのが一番無難なのか分からず、不安でぐるぐるする。
「立花、おはよ」
「あっ。うん。啓太君、おはよう」
どうしようと考え込んでしまって固まってしまったが、名前を呼ばれ挨拶をされた瞬間息が吸えた。その瞬間私の中の時間が動き出し、何とか教室の中に足を踏み出せた。
「そう言えば、立花、昨日仕事? 警察官が立花を迎えに来たって聞いたけど」
「うん。そんな感じ」
「だよな。なんか、警察官が学校まで来て、立花を捕まえたとか変なこと言っている奴いたからさ。でも警察官も迎えに来るなんて、立花すげーな」
「いや、すごくはないけど……」
うわ。やっぱり変な噂が流れていた。
流したのは、間違いなく昨日私を呼び出した人たちだろう。
悪い噂はすぐ広まるし、そこに便乗して、全く違う嘘まで言われてそうで嫌だ。
「すごいって。だって、警察官の仕事を手伝っているってことは警察官が味方ってことだろ?」
味方……かな?
まあ、佐藤さんはお母さんのことが好きみたいだし、味方ではある。でも警察官が味方かと言われてるとただお願いされてお手伝いをしている間柄でしかない。
「なら仕事をしているだけなのに、変な噂を流したりしたら、その人捕まっちゃうかもね」
「えっ?」
「おはよう、立花さん。仕事大変だね」
前の席の南波さんに声をかけられ、私はびくっとしつつ、挨拶をして席に座った。
すると私の方に顔を近づけた。
「悪い噂ってすぐ広まるから。変なこと言ったら警察が出てくるってことにしておいた方がいいよ」
な、なるほど。
啓太と南波の気づかいに、私はこくこくと頷いた。嘘も方便とか虎の威を借りる狐と言うやつか。でも私も警察にお世話になっているなんて噂を流されるのは困るので、ありがたく乗っかり、否定するのはやめた。
「そう言えば、立花って、今日の放課後暇?」
「あー……実は約束があって、役所に行かないと行けなくて……」
「約束? 仕事? いや、漫画の続きそろそろどうかなって思ってさ」
漫画の続きは読みたい。
古雅と一緒に借りた分は夜に読んでしまったのだ。漫画というのはどうして続きが気になる形で終わっているのだろう。ついつい次の巻へと手が伸び、あっという間に読み終わってしまった。
「読み終わったし読みたいけど……。ただ今日の約束は、仕事ではないけど……仕事関係というか……」
「もしかして、デート?」
「えっ? デート⁈」
「違うよ。デートじゃないから!」
南波の言葉に、啓太が大げさに驚き、私は慌てて首を振った。
ちゃんと否定しないと、また別の噂ができてしまう。今も私たちの会話に聞き耳を立てている人はいるのだ。
「そうじゃなくて……実は、巫女の仕事中に盗撮されて」
「盗撮⁈ えっ、それ犯罪じゃん。大丈夫なの?」
「うん。それは大丈夫だよ。よくあることだし。でもたまたま通りかかった、同業者の人に、ちゃんと役所の担当者に盗撮されたことを知らせないといけないって言われて、一緒に伝えに行くことになったの。目撃者として同席するって言ってもらえて……」
盗撮という言葉に南波が心配そうにしたので慌てて首を振る。今回の犯人も神様である古雅にぶん殴られたのだから、煩悩も吹っ飛んだと思う。
「その一緒に行く同業者って知り合いなの? 年上?」
「うん。年上だよ。知り合いではないけど、でも動画配信とかやっている人で、一方的に私が知っていた感じの人だよ。たまたま私が盗撮しているところに通りかかって、声をかけてくれたの」
「……啓太、アンタ、放課後暇?」
自分一人だったら今日のこともわざわざ報告に行く気はなかったけれど、キノちゃんと約束してしまったので、行くしかない。そう思っていたら、唐突に南波が啓太の予定を聞いた。
あまりに唐突だったので、私はよく分からず内心首をかしげた。同級生と会話していると、話が飛ぶことがあって、こういう時どうすればいいのか分からなくなる。
「まあ、予定はないけど」
「なら、立花さんについて行ってあげて」
「えっ? 何で?」
何故私に啓太がついていかなければいけないのか分からなくて、私は慌てて聞いた。
「危なっかしすぎるよ。知り合いでもない同業者なんでしょ? 盗撮されてるのに、なんか立花さん全然気にしてないっぽいし」
「いやでも、動画配信で有名な人で」
「動画配信で有名な人だからいい人ってわけじゃないし。とりあえず啓太の見た目なら、相手を威嚇できるでしょ。役所の人に証言した後、ご飯でもどう? とか誘われたら断れなさそうだし」
うっ。
キノちゃんにお茶しよって誘われるのを想像したら、まあ、間違いなく、一緒に行くだろうなと思う。確かに、知らない人にほいほいついて行く未成年の図だ。
「いや、でも。キノちゃんは女性だし……」
「女性だから安全ってわけじゃないと思うよ。だから啓太、ついて行ってあげなさいよ」
「俺はいいぜ」
『うんうん。俺も賛成。俺は見えないから、牽制はできないし』
キノちゃんはそんな危ない人じゃないと思うんだけど……。
とはいえ、確かに第三者として聞くと、不安になっても仕方がないかもしれない。
古雅にも同意されてしまった私に「よろしくお願いします」と言う以外の選択肢はなかった。




