表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/24

バイト巫女と巫女系動画配信者①

 佐藤さんの依頼では突飛な動きをしてしまって周りを困惑させてしまったし、佐藤さんからは古雅のことで注意を受けるし、母からは無理にバイトを続けなくてもいいという逆に困る気遣いをされてしまうしでさんざん目にあった翌日。

 正直、家でゴロゴロとしていたいけれど、義務教育をさぼったら、本当に巫女のバイトを辞めさせられかねない。それに朝のバイトのお仕事もいつも通りあるのだ。

 私は重い体を起こした。


「華那子、体調悪い?」

「ううん。大丈夫だよ」

 朝ごはんを食べていると、目ざとい母に疲れを見抜かれたが、できるだけ素知らぬ顔で首を振る。

 風邪で体調が悪いならいざ知らず、たぶんこの疲れは精神的なものだと思う。看護師である母に風邪だと偽るのは難しいし、かといって精神的に落ち込んでなんて言ったら、昨日の話が蒸し返されてしまう。

 母は納得してはいないようだが、私が急いで朝ごはんを食べれば、とくに何も言わなかった。


「じゃあ今から駅まで送るから、車に先に乗ってて」

「はぁい」

 母から車の鍵を借りて外へ出る。

 駅までは自転車でも移動可能だが、母は余裕がある時は送ってくれた。

 本当に大事にされていると思う。

 母が『離婚した上に子供を働かせるなんて……』なんて、事情を知らない人に白い目で見られることがあるのを知っている。虐待なんて強い言葉を使ってくる人もいる。

 国は私に働いて欲しいため、学業に支障が出ないようになど雇用条件にかなり気を使ってくれるが、こういった無理解な人から母を守ってくれることはない。

 本当ならば、せめて高校生ぐらいまでは働かない方が母の負担は少ないのではないかと思うこともある。でも古雅の命が、バイトをしない間に消えてしまうかもしれない。

 そう思うと、やはりやめるという選択は私にはない。


「じゃあ今日も頑張ってね」

「お母さんも仕事頑張って」

 駅まで送ってくれた母は、言いたいことがあったかもしれないが、何も言わず笑顔で私を送り出した。

「……古雅」

「何だ?」

「私、疲れたって顔に出てる?」

「いや。母親だから分かるんだろ。華那子は気を使いすぎなんだって」

 私の頭上で飛んでいる古雅は、そう言って肩をすくめた。

 心配をかけたくないのになぁと思うけれどうまくいかないものだ。


 色々もやもやしてしまうけれど、それと仕事は別だ。私は一度いろんな問題を心の中で別の場所に置くイメージをして切り替える。

 私がイライラしたりすれば、悪鬼をちゃんと払えない。

「……やっぱり通勤時間は酷いね」

 顔見知りの駅員さんに挨拶をし、駅校内に入ると、まるでスモークを焚いているかのように全体的に薄暗く見える。

 祓っても祓ってもこうなるのだから、これって意味があるのかなと思うが、一応国のデーターでは、駅構内での犯罪やトラブルは以前に比べて減少しているらしい。だとすると、まあ、やらないよりはやった方がいいということだろう。


 私はいつも通り、端に寄せてある三角コーンを持ってきてしめ縄をはる。

 時計を見れば、母が車で送ってくれたおかげで、電車到着時刻には少し早かった。十分駅構内の空気も悪いけれど、満員電車内はさらに酷い。なので、到着と同時ぐらいに払いをして一度に終わらせるようにしているのだ。

 私はイヤホンをつけてスマホをいじる。

 こうしていると、奇異な目も気にならないし、落ち着くのだ。見る動画は、いつも通り、巫女系動画配信の『キノチャンネル』だ。

 キノちゃんは私と違っていつも元気にお祓いしている。

 動画に集中していると、あっという間に時間が経つ。スマホからアラームが鳴ったので、動画を止めた。そろそろ時間だ。


「古雅、よろしくね」

『まかせとけ』

 私は目を閉じて集中し、柏手を二度打つ。構内はざわついているのに、この拍手だけは遠くまで届いている気がする。

 そして目を開けて悪鬼を視た。

「鬼さんこちら、手のなる方へ」

 パンパンと柏手を打つたびに、悪鬼がこっちへと寄ってくる。今日もしっかりとひきつけられているようだ。

『華那子に触るなんて百年早いんだよ』

 そう言って、古雅が悪鬼の集合体を鉄パイプで殴り飛ばした。

 殴った瞬間、パンと紙吹雪のように吹き飛び、そしてあっさりと消える。やっぱり神様の力は凄いな。薄暗かった駅構内が明るく見える。

 ……見た目はヤンキーで、神聖さがかけらもないけれど。でもご利益はたっぷりだ。


「古雅、お疲れ。さてと、かたずけたら、学校に行こうか」

 昨日の佐藤さんが迎えに来たせいで変な噂が立っていたらどうしようとは思うけれど、行かないわけにもいかない。

「ちょっと、アンタ。待ちなさい!」

 古雅が祓ったのだから空気はいいはずなのに、突然大きな声で呼び止められてドキリとする。何かやってしまっただろうか?

 ドキドキしながら振り返ると、金髪の女子高校生が、一人の男性を睨んでいるのが見えた。どうやら呼び止められたのは私ではないようだ。

 周りには、駅員さんを呼んだ方がいいのではと足を止める人と、邪魔そうに一瞥して足早に立ち去っていく人がいた。

「な、なんだね。私は忙しいんだ」

「今、あの子の写真撮ったでしょ⁈ 未成年が巫女の仕事をしているのを、無断で写真を撮ることは法律で禁止されているの知らないの? 未成年でなくても無断で撮って欲しくないんですけど?」

 

 えっ? 私の写真?

 本当にと思い、古雅を見れば、古雅も難しそうな顔をしていた。

「写真なんてとっていない」

「だったらスマホを今すぐ見せてよ」

「何故私が君に見せなければならないんだ!」

 男は大きな声で断る。見せればすぐに終わるのを拒否するところを見ると怪しく思える。でもプライベートのものだから写真フォルダーを見せたくないだけかもしれないし……。


「だったら駅員さんにでもいいわ。一緒に来て」

「私は忙しいんだ。失礼させてもらう」

 男は女子高校生とのやり取りを強引にやめて逃げ出そうとしていた。

「ちょっと待ちなさってば」

「危ないっ!」

 逃げだそうとする男の手を掴んだことで、突き飛ばされてしまったのを見て、私は慌てて駆け寄った。


『天誅!』

「がはっ」

 私が女子高校生のところに駆け寄ったのと同時ぐらいに、古雅により鉄パイプのフルスイングが男の頭にさく裂した。どさりと音を立てて、その場で男が倒れる。

 床が血まみれなんてことにはなっていないので、今回も精神的に作用する程度にとどめてくれたのだろう。

『おまわりさーん。こいつが犯人でーす! 女子高校生にも暴力振るってるから、犯罪コンボだドン!』

 楽しそうに古雅は大声を出しているが、私以外の誰にもその声は聞こえていない。もちろん姿も見えていないので、現在は突然女子高生を突き飛ばした人が昏倒したという事件が起こったように見えるだろう。


「えっ? えっ?」

「あ、えっと。大丈夫です……か?」

 言い争っていた相手が突然倒れたことで、驚いているお姉さんに何と声をかけたらいいものか迷う。この男性は大丈夫ですよと伝えるべきか、まずはお姉さんが怪我をしていないかの確認からか。

「すごい。何? 守護霊?」

「えっと」

「見えているんだよね? 巫女さんだし。貴方の上に眩しいものがあると思ったけれど。アレが不届きものを成敗してくれたんでしょ?」

 お姉さんもどうやら見える人らしい。眩しいと言う表現なので私と同じものが見えているわけではないが、でも古雅が認識されたのは初めてだ。


「中々忙しくて、同じアルバイトでも会う機会がないもんね」

 驚いて目を白黒させている私に、お姉さんは苦笑いした。

「同じアルバイトということは、お姉さんも巫女なのですか?」

 金髪の彼女は昔ながらの巫女とイメージとは大きく異なる。

 いや、待って。金髪の巫女な女子高校生? ……あれ? この顔見覚えが……。

「うん。巫女しながら動画配信もしていて——」

「もしかして、キノちゃん⁈」

 私がよく見る動画の名前を口に出してよくよく見れば、彼女にしかもう見えない。そっくりすぎる。


「えっ? 知っててくれたの? 嬉しい! 改めまして、動画配信者のキノちゃんこと、木下好きのしたこのみです。よろしくね」

「ええええええええっ⁈ あっ、はい、よろしくお願いします」

 目の前でファンサービスで動画の配信っぽくポーズを決めたキノちゃんを前に私は悲鳴を上げた後、慌ててお辞儀をした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ