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魔界冒険譚  作者: ASOBIVA
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25話 決断と覚悟

出会いと別れ、そして決断と覚悟。


必要な条件さえ揃えば運命なんてきっと、

あっという間に変わる。


一生のうちに何度か訪れる大きな分岐点。


後から振り返れば、その日はまさしく僕の運命を変えた

一日だったのだろう。


先生との勝負、王様との問答、

明かされた秘密と与えられた願い。


多くの選択が僕には用意されていた。


それこそ、王様を憎んで自害するよう求めることもできた。


執事になることを受け入れずに、屋敷から出ていくこともできた。


王様の息子を導き魔界を救うだなんて無理だ、

と彼の願いを拒むこともできた。


その都度、僕は自分の心に従って決断した。


それを後悔はしない。


ただ、思う。


もし何かを違っていたのなら、きっと。


その先に待つ縁も結果も全て、

全く異なる未来を迎えたのだろう、と。


王様と先生との話も終わり

深夜、僕はベッドでひとり

転がっていた。


色んなことがありすぎて、疲れているのに頭は冴えている。


手慰みに手に握ったナイフをくるりと回す。


ナイフの向こう側に、いつもの天井が見えた。


「魔王フィクスター、か」


僕たちが倒すべき相手、魔界で最強の座に位置する男。


現魔王のことについて僕は大して知らない。


ただ、今の僕どころか

王様や先生も敵わない相手というのだから、相当だ。


それでも僕は、僕らはそんな相手に刃を向ける。


(目的のために、情を切り捨てる覚悟…)


先生が僕に向けた忠告を、

いつか思い知る日が来るのかもしれない。


それでも、王様が話していたように

心を一番大切に生きたいとも思う。


高揚した気分は、夜になれば落ち着く。


先の見えなさに不安だって少なからず襲ってくる。


(これからどうなっていくのだろう)


少しだけ考えて、やめることにした。


どんなに立ち止まっても、明日はやってくる。


どんなに怖くても一歩ずつ歩き続けるしかない。


未来に怯えて立ちすくむより、今は前を見ていよう。


ナイフの刃が、星のようにきらめく。


冷たい輝きが今の僕は少し心強く思えた。


(あれ、そういえばこのナイフ…先生から借りたままだったな)


毎朝の勝負にもいったんケリが付いたわけだし、返しに行くべきだろう。


夜も更けた頃合いだが、

彼女はだいたい遅くまで趣味の本を読んでいる。


忘れないうちにさっさと返しに行こう。


もし万が一気配がなければ、出直せばいい。


そう思って、部屋を出た。


目的地は先生の部屋だ。


勝手知ったる廊下を歩いていく。


ゴール直前で、部屋から光が漏れていることに気がついた。


どうやら先生はまだ眠っていなかったようだ。


ドアをノックしようとした瞬間、僕はびくりと体を震わせた。


「なんでッッ!!!」


部屋から聞こえてきたのは、激情のままに発せられた大声。


(この声、先生だ。でもなんで…)


本当なら、そのまま何も聞かなかったふりをして

立ち去るべきだったのかも知れない。


でも、普段の先生からは想像もつかない声音に、

僕は思わずドアの隙間から室内を覗き見てしまった。


部屋の中には、先生と王様の姿があった。


腰掛けている彼に向けて、彼女は喉を枯らす勢いで叫んでいる。


「いくらなんでも急ぎすぎだ!!そんな急に…」


「ごめんな」


対して、王様はひどく平坦な声で応えていた。


感情を押し殺したかのように、彼は淡々と言葉を紡いでいく。


「それでもずっと前から決めていたことで」


「私は納得してない!!賛成した覚えはない!!!」


主の言葉を怒鳴って遮るなんて、普段の彼女ならありえないだろう。


普段の冷静さをかなぐりすてて、ただ目の前の相手の言葉を拒絶する。


彼女の声にあるのは、やりきれない怒りと悲しみだ。


「私のマギアでどうにか…」


「ゲーテ。聞いてくれ」


激昂する彼女に対して、王様は穏やかに声をかける。


その穏やかさが逆に、盗み見ている僕にすら

いい知れない不安を抱かせた。


「ごめんな、それでももう決めたんだよ」


彼の声には笑みすら感じられた。


相対する二人の温度差に、僕は冷や汗をかく。


(主従を越えて、対等に気安くて信頼があって)


(僕が憧れていた二人がどうしてこんなことになっているんだろう)


問いたくても割って入れる空気じゃない。


僕は、ただドアの向こう側から

状況を見守るしかできなかった。


「貴方は昔からそうだ。なんでも独りよがりに決めてしまう。

下らないことは私に任せるくせに、大事なことは何一つ頼ってくれやしない…」


彼女の声が段々と小さくかすれていく。


嗚咽が今にも聞こえてきそうだ。


「わかってる。お前とは長い付き合いだからな」


それでも、王様は彼女に声をかけた。


残酷なくらいいつも通りに、気安く告げる。


「色々言いたいだろうけど、

もう行くよ。あとは、頼んだ」


僕にも分かった。


「ちょっとお使いに行ってくる」

くらいの気軽さだったあれは、別れの挨拶だ。


おそらく取り返しがつかないほど

重要な選択を、彼はとうに下していた。


そして、彼女はその決断を覆すことができなかった。


目の前で起こったことに、僕は硬直していた。


が、はたと気づく。


(このままだと、部屋から出てきたところで鉢合わせする…っ)


足音をできるだけ殺して、僕はあわてて場所を移動した。


ドアの近くの物陰に体を潜め、息を殺す。


そこから気配を探っていると、まずドアが開く音が聞こえた。


そして、続いて歩き去っていく靴音を僕の耳が拾う。


靴の音からすると、王様が部屋を出ていったのだろう。


(先生は、ひとり部屋に残されたのか)


残される者の痛みを僕は知っている。


だから、どうしても彼女の様子が気になってしまった。


ドアの隙間から、そうっと中の様子を伺う。


ぎりっという歯ぎしりの音が響く。


部屋の真ん中でひとり、彼女は佇んでいた。


「クソッ……」


彼女の口から出たのは、一言だけ。


その頬には、一筋の涙が伝っていた。


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