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第四話


「やっふー、宮辺ちゃん」

「やっふー」

 テンション、バカたけえ。

 岬は目をそらした。

 赤い髪に黄色い目。現れた少女の整った目鼻顔立ちは紫とは少し違い、近寄りがたい雰囲気を醸し出す美人、というところだろうか。

「いやあ、お久しぶりー」

「だねー! んー、ルナちゃん?」

 でいいかな、と訪ねた紫に、少女は微笑む。

「おーけーおーけ、ばっちぐーだよ!」

 そのやり取りを見ていた岬がぼそりと忘れんなよと呟き、話していた紫はそれにしても溜息をついた。


「相変らず元気だね、流石の僕もテンションは完敗かな!」

 いい勝負だよ。岬はうめき、隣で眉を顰めていた翠は、首をかしげる。

「双子か?」

「いやいや、顔、全然似てないし」

「二卵性とか」

 そう言うのもわかるけど、と岬は頷いた。そして、その二人を見ていた少女が綺麗に笑った。

「みたいなものだよ」

 先程のテンションが嘘かと思うくらい冷静な声だった。紫はくつりと笑って少女と手をつないだ。

「この子は……そうだなあ、妹だよ!」

「ちがうよ、あたしが姉ー!」

 言い合う二人に、岬はぼやく。

「……中身、似てるのな」

「むこうは一人称が“僕”じゃないんだな」

 そこかい、と岬は空笑い。

「それにしてもさあ」

 ぽつり、といった少女に、三人は目を向ける。予想はできているのか、紫だけは笑って首をかしげていた。





「ミサキさんとスイさんだっけ。どっちが攻めでどっちが受けですか? あ、キス、何回した?」

「……。そういう子かァァアアアア!!!」

―――『腐女子』ということばがの脳裏に浮かんだ。

「まったく世の中は荒んでるよね。この間友達に聞いたら殴られるところだったよ」

「オープンにするのがいけないんじゃないかな?」

 成程成程、と呻く少女に、紫は笑った。

「それにしても。うーん、シンサねえ、シンサ。審査。ふふふ」

 おこらないでーとおちゃらける少女はあまりに無邪気だった。にこにこと。彼女は笑みを絶やさない。

「あたしだってさ、宮辺ちゃんがおかしな人に捕まっちゃったらいやーだもんっ」

 そしてなんちゃって、と舌を出す。


「の、で!」

 くるりと半回転。向き合った岬と翠は、息を飲んだ。


「―――進藤岬。東也翠」

 細められた金の眼差し。殺気立った空気に、二人は身震いする。そして、気に入ったものを取られた子供の様な眼に、心が揺れる。




「あたしは、君たちなんか認めはしないんだから」





 * * *



「はっじめまして! どーも、ルナちゃんですっ!」

 偽名だけどー、と笑う少女に、一同は動きを止めた。


「いや、偽名かよ!?」

「え、なに、紫と双子!?」

「テンション似たり寄ったりじゃん!」

 複数の返答に照れるぜ、と返した少女は口元を上げた。

「今日一日! お世話になりまーす」

 にこり、と微笑んだ。ルナと名乗った彼女は、長く赤い髪を上で一つに結いあげている。

「そういえばルナちゃん、いま何歳?」

 尋ねたのは、意外にも紫だった。覚えとけよという岬のツッコミなど耳にも入れず、少女も紫も笑い合う。

「あたしー? あたしはね、フフフ……現在なんと、17歳です!」

「わお、高2じゃん。あたしの一つ上だねー」

 いえす、と笑った少女に、紫は嬉しそうに笑い返した。二人の、くすぐったそうな、はにかんだような笑みに翠は首をかしげた。何故そんなにも嬉しそうなのだろうと考え、久しぶりにあったのだろうと頷く。抜けている紫が相手の歳を忘れるのだって、日常茶飯事だろう。きっと名前だって満足に覚えていないのだから。


「あのね、宮辺ちゃん」

「うん、なーに?」

 いきなり紫の目の前に立ち、同じ位置にある瞳を見つめ、そして笑んだ。

「あたしはね、あの子によばれたことを後悔なんてしてないみたいなんだ。ありがとうね」

 少しだけ首を傾けて、彼女は紫に抱きつく。そして、ぼそぼそと、彼女にだけ聞こえるように紫は囁く。その返事に嬉しそうに笑った彼女は、すぐに体をはなした。

「宮辺ちゃん!」

「うーん?」

 にこりと笑み返した紫に、少女はへらりと気の抜けるような笑みをした。


「愛してるぜ!」

「……あははっ。僕もだよ」

 そして、握手をする。

「もう、本当、何しに来たのって感じだよね」

「止せよ、照れるぜ!」

 二人だけで進む会話に、全員は困惑した。そして、きっと早くも帰るのだろうと勘付く。


「宮辺ちゃんのことよろしくね、お二人とも」

 くすりとわらい、彼女は頭を下げた。戸惑いながらもうなずいた翠と岬をみると、さらに笑みを深める。

「うんうん、やっぱりこういうのっていいよね。青春って感じ!」

「僕、青春嫌い」

「あは、あたしも」

 じゃあ言うな。顔を歪めた岬に、隣で翠が頷いた。


「名残惜しいんですけど、あたしはこれで退散するよ。またねー」

 全然名残惜しくないというように彼女は軽やかに手を振って、まわりに背を向けた。



「あ、そうだ」

 なにかを思いだしたらしい彼女は振り向かずに言った。

「あたしの立ち位置は譲らないよー!」



 * * *


「結局あの子、紫の知り合いだったのか?」

 遅い朝食を取っている中、岬が呻いた。なんだか今日は早くも疲れた気がする。あとのどが痛い気もする。そんな考えをめぐらせながら、蕎麦を平らげている紫を向いた。

「うん、知り合いっていうか、双子だね。誰よりも近くって、何というか……つながってる、みたいな。簡単にいえば鏡かな」

 かがみ、と翠は無言のまま考えた。鏡―――鏡に映った自分ということだろうか。ちらりと紫をみれば、彼女は相変わらず笑っている。のんきそうな顔。無害そうな顔。しかし彼女はたまに有害で、たまに優しく、たまに恐ろしい。人はみかけによらないものだなんて呟いた翠に、紫はやはり笑った。

「見かけで判断できたら、つまらないよー」

「ま、それもそうだな」

 淡く笑みを浮かべた翠に、紫は言った。




「なんて、色だなんだを気にするあたしが言うことじゃないけどね」



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