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第十一話


 夕食も終わった時刻、俺は儀式用の礼服に着替えた。

 普段は白をベースにしたドレスなんだけど、礼服はゆったりとしたローブのようなものを上からすっぽりと羽織るタイプだ。ちなみに白銀をベースに金色で刺繍されていて、背中には羽の生えた虎の紋章だ。

 ハッピだったら大阪でメガホン片手に野球の応援をしている気分である。

 ちなみにローブの下は何も着てない。すっぽんぽんである。魔力の通りを良くするために、なるべく衣類は着ないんだって。

 このローブも魔道具の一種で、素材が魔力の通りの良いミスリルという材料を糸状にして作られているそうだ。


 もし服がコートだったら、夜中に女性の前でばっとはだける変態だよなこれ。


 また、マーテリッテが目の色を隠す魔道具を用意してくれた。

 守りの魔道具がある部屋にはパパとマーテリッテしかいないけど、出入り口には騎士団長など護衛の騎士がいるので彼らから隠すためだって。

 アイマスクのようなものだけど目の部分を覆うようにすると、外からは昼間と同じ目の色のように見え、中からは普通に外が透けて見えるものだ。

 すごいとは思う。

 思うんだけど……。


「マーテリッテ、この魔道具ですがなぜ目が描かれているのでしょうか?」


 そう、ドン○ホーテで売っているようなパーティグッズ、アイマスクの上に少女漫画のような目が描かれているアレだ。

 これ装着して外出歩けってか?

 なんだよこれ、なんの拷問だよ。

 しかも左右の大きさが違うし、若干歪んでいるぞ。


「わたくしが丹精込めて描きました」


 だがマーテリッテは自慢げに胸を反らした。うん、クメさんの方がワンランク……いやツーランク大きいかな。

 じゃなくってマーテリッテに絵心はない、これなら俺が描いた方が余程上手である。

 萌え系の目しか描けませんけどね。


「丹精込めて、でなくて何故目を描く必要があるのですか」

「描いた目の部分が本当の目に変化するのです。そしてこの目を通して中に外の風景を送るのですよ。これは魔法陣としての意味合いもありますから描く必要があるのです」


 目を描くと魔法陣になるんだってさ。変なネコを召還するぐるぐる……げふげふん。


「それとなぜ肌着もミスリル製のものが用意できないのでしょうか」


 さすがに下がすっぽんぽんなのは、ちょっと人としてどうかと思う。いやスラムで記憶が戻った時も布一枚を巻き付けたような服装だったけどさ。これ下がすーすーしてて心許ないんだよ、それにもし捲れたらやばいじゃん。


「ミスリルは非常に高価なのですよ。そのローブはこれから身体が成長しても着れるように裾上げしておりますが、肌着は交換する必要がありますから。エーレデル様はこれからどんどんと大きくなりますから一年で着れなくなる可能性もございます」

「高価ってどの程度なのでしょうか」

「エーレデル様のサイズの肌着ですと概ね金貨二枚くらいですね」


 パンツ一枚二百万円ですか、それは高すぎだろ。その値段だと確かに来年穿けなくなったら勿体ないな。

 しかしパンツが二百万ならこのローブだと一体いくらするんだろう? 数千万くらいしても不思議じゃないよな。


「では目の色を誤魔化す魔道具も付けてみてください」

「はい」


 パーティグッズにしか見えないアイマスクを顔に付けてみた。

 ゴムや紐は付いていないけど、そのまま顔に付けたら張り付くように外れなくなった。しかもちゃんと視界は変わらずである。

 なんか不思議な気分だな。


「……あっ」

「……ぷっ」


 ドヤッって感じでマーテリッテとクメさんへ顔を向けたら、一瞬彼女たちが笑いを堪えるように口を押さえてそっと視線を逸らされる。

 何?! どういうこと?!

 慌てて壁に立てかけられている姿見で自分の顔を確認する。


「おいマーテリッテ! 左右で目の大きさが違うんだけど!? しかも歪んでるぞこれ。描かれている目の大きさがそのまま反映されてるじゃねーか!」

「言葉遣い」

「わたくしが目を描き直しますからさっさと描く用意をしてくださいこのお馬鹿マーテリッテ!」

「申し訳ありませんが魔法の知識がないと描くことは出来ないと思われます」

「いくらなんでもこれじゃ人前に出られません!」


 で、結局歪んでいる方の目を隠すように眼帯を付けた。

 アイマスクの上に更に眼帯かよ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 準備が出来て部屋から出たところでちょうとパパご一行と遭遇してしまった。

 向こうはパパと偉そうな騎士一名と執事のリッテンスバルの三名だ。

 この偉そうな騎士がロックレイズの父で騎士団長のアファイル伯爵か。威厳だけならパパより格上に見えるな。

 リッテンスバルは四十前後の壮年で、残念ながら髭は生やしていない。ちなみにこの世界、騎士などの武官は髭を生やす人が多いけど、執事や文官だとあまり生やしている人はいないらしい。

 騎士団長も顎髭を伸ばしているけど、リッテンスバルやパパはきちんと剃っている。


「エーレデル、左目はどうかしたのか?」

「少々ものもらいで腫れてしまいました」

「そうか。急激な環境の変化で腫れる事もあるから、明日から数日ゆっくりすると良い」

「ありがとうございます」


 マーテリッテのおかげで、パパに心配されてしまったよ。

 でも明日からはロックレイズ君に剣を教えて貰う予定だから休めないけどね。


「ではいくぞ」


 パパの号令と共に騎士団長が先導していく。

 その後ろにパパと俺、マーテリッテとリッテンスバル、最後尾がクメさんだ。

 そのまま館を出ると十人くらいの騎士たちが勢揃いしていた。そのうち、二十代後半の若武者っぽい騎士が騎士団長の前で敬礼を行う。


「ホリイズ第一分隊以下十名、準備出来ております!」

「よし、開始しろ」

「はっ!」


 騎士団長の号令の元にその十人が俺らを囲うように整列する。

 ほー、これが騎士団の第一部隊か。さすがプロだな、動きが見事だ。

 第一は要人の警護が主な任務で、攻よりも防に優れているらしい。かといって弱い訳では無く、対人なら対魔物が多い第二部隊よりも強いらしい。ってことはソーレイとタイマン張って勝てる奴がこの中にいるのかもしれないんだね、怖い怖い。

 しかも第一分隊と言っているから領主一員の専属護衛なのかもしれないな。

 だけど、このホリイズって言ってた分隊長っぽい人、やけに騎士団長に雰囲気が似ている。もしかすると子供なのかも。

 騎士団第一部隊の第一分隊長だと、きっと出世コースで将来の騎士団長ってところか。


 そして騎士団長を先導して移動開始した。全員徒歩である。

 領主なんていう偉い人なんだから馬車を使うのかな、などと思ってたんだけど歩きとは思わなかったよ。

 ただ、片眼だと非常に歩きにくい。全くマーテリッテのせいで、しなくても良い苦労をしている。

 しかし幸いなことに距離はそこまで離れていなかった。というか歩いて数分だった。


 貴族街はかなり整地されていて区画分けがしっかり出来ている。

 京都の碁盤の目のような形で石畳の道が縦横に伸びていて、更に道には立て看板があってちゃんと名前が付けられているのだ。名前は南北大通り、東西大通りと呼ばれる貴族街の中心の道が二本、更に隣へ行くと南北一番、南北二番と徐々に番号が変わっていく。

 また領主の館は大通りが交差する場所にある。つまり貴族街の中心ってことだ。ちなみに領を運営する領城は領主の館の目の前にある。

 肝心の守りの魔道具が納められている建物だが、東西大通りと南北一番が交差する場所にあった。見た目は教会のような建物で、その周りにはうっすら紫色の障壁が張り巡らされているのが見える。きっとこの紫色の障壁が国境線にも張り巡らされているのだろう。

 また建物の出入り口には三名の騎士が立っていた。

 すでにこちらが来るのが事前に分かっていたのであろうか、既に敬礼をしている。


「警備ご苦労。領主様と魔力奉納要員殿が到着なされた、各々準備せよ」

「はっ!」


 先頭を歩いていた騎士団長が立っていた三人に声をかけると、その三人が一斉に交番みたいな建物へ入っていく。きっと警護の休憩場所なのだろう。

 それをぼーっと眺めているとパパにいくぞ、と声をかけられた。

 出入り口の近くへパパと一緒に行くととても頑丈そうな扉が一つあり、更に扉全体にもあの紫色の障壁が張られている。


「エーレデル、手を出してこれに少し魔力を入れろ」


 パパが懐からネックレスのようなものを取り出してきた。

 鎖の中心には不思議な色をしている石がはめ込まれていて、その石からうっすら紫色の糸が扉へと繋がっている。

 ああ、この扉の鍵か。

 俺は指先で軽く石の部分に触れ、少しだけ魔力を注いだ。その途端、カッと石が紫色の光りを発して扉へと繋がっている糸が太くなる。


「馬鹿者! 注ぎすぎだ!」

「ええ!? ご、ごめんなさい!」


 パパが慌ててネックレスを引っ込めて、壊れていないか確認するように見た。そして少し安心したのかほっと息を吐いている。

 良かった、壊れてなかったっぽい。

 でも俺、ちょっぴりしか魔力を注がないようにしたよ? それ、品質悪いんじゃね?


「全く君は……どういう魔力量をしているのだ」

「どういうと言われても、わたくしも分かりません」

「まあいい、取りあえず登録完了した。これで君もこの中へ入ることができる、ついてこい。ああ、マーテリッテも一緒だ」

「あっはい」

「承りました、クーメレイテアはここで待機していてください。さ、参りましょうエーレデル様」


 パパが先頭で入っていく。

 俺は扉を開けるものかと思ってたけど、驚いたことに薄い水のカーテンをくぐり抜けるようにそのまま通り抜けていった。しかもパパが通り抜けた後に波紋が広がっていっている。

 さっきパパが取り出したペンダントの鍵に登録しないと、ここはくぐり抜けられないのか。


「エーレデル様、早くお入りください」


 マーテリッテに急かされる。

 でも万が一登録に失敗してたら、きっとこれにぶつかるんだろう?

 ぶつかったら痛いよな、やだなぁ。

 おそるおそる指先で扉に触れてみる。

 でも指先が触れた感触は想像してた堅い材質ではなく、なんとなくゼリーのようなものだった。

 うひぃ、くぐり抜け失敗するとスライム責めとかあり得そう。一体誰得だよ。

 根性が出せずにちょんちょんと指先だけ触れていると、背中をドンっと押された。


「早くいけ」

「うひゃあ?!」


 あっさりと俺は扉をくぐり抜けた。

 クメさんの声が聞こえた気がしたけど、中へ入ったら外の音が一切聞こえなくなった。

 ってか押すなよ! 心の準備が出来ていなかったんだから。


 文句を心の中で呟きつつ、視線を室内へ向けると……。


「ふわぁ……」


 その光景に目を奪われた。


 まず室内は暗く百人くらい人数がいても余裕で収納できそうな広さを誇っていた。天井は高く数十メートルはありそうだ。

 一言で表すなら礼拝堂だ、ステンドグラスも十字架も無いけど。更に窓もない。

 しかし一番奥の壁際には十字架の代わりに巨大な分厚い本が浮いている。

 その本から紫色の蛍のようなものが飛び出して部屋中を飛び交っている。クメさんが証を出した時に飛び交ってた燐光に近い感じだ。ただずっと光りながら飛び交っているのではなく、十秒しないうちに消えていっている。

 また、本からは太い糸が出ていてそれが天井を突き抜けていた。多分あの糸が国境に張り巡らされている魔法フィールドへと繋がっているのだろう。


 いっつふぁんたすてぃっく! 

 ファンタジーな世界だよ、素晴らしい。カメラがあれば連写モードで撮っておきたい気分だ。

 あ、でもフラッシュ禁止だな。


「エーレデル様、エグワイド様が待っておられますよ」


 俺が室内の光景に目を奪われていると、いつの間にかマーテリッテが側に立っていた。

 そしてエスコートするように手を差し出してくる。


「ここは暗いですから転ぶ可能性もありますし、先導させて頂きます」


 でも俺って何故か夜目が利くんだよな。スラムの時は基本夜に活動していたけど、この目のおかげで暗がりでも問題なく行動できた。

 しかし高校生くらいの女の子と手を繋げる機会なんてそうそう無いだろうし、ここはお言葉に甘えよう。


「お願いしますマーテリッテ」


 ぎゅっとマーテリッテの手を握ると、彼女は俺が暗がりを怖がっているのと勘違いしたのか軽く握り返してきた。

 ふひひ、役得。


 そして既にあの巨大な本の前にいるパパの元へマーテリッテと歩いて行った。



魔力奉納まで終わるかと思ったけど、予想以上に文字数が多くなったので次回に分けます

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