まえがき
諸君、突然だが私には彼女がいる。
嘘ではない。
それも絶世の美女でありスタイルは抜群、そのうえ料理、洗濯から掃除まで家事全般を器用にこなし、まるで欠点が見当たらない。
手前みそながら私以外の男には些かもったいないほどの女である。
ここで諸君に断わっておきたいことは、私は彼女の美貌に惚れたわけではないと言うことである。
美しい女性とお付き合いを重ねることなど、私ほどの男になれば日常茶飯事であり、取り立てて珍しい話ではない。
私がこの世に生を受けてあと数カ月で十八年もの月日が流れ、かれこれ地球に居座っている間に私が逢瀬を重ねた美女の人数を数えることなど、もはや不可能であった。
間違っても指で数えようなどとしたが最後である、両手両足を使ったところで何人のエキストラを雇わなければいけないのか、考えただけでもぞっとする。
加えると、私が惚れたのは、彼女の抜群のスタイルを有する身体でも、家事全般を器用にこなす生活力でもない。
私ほどの男が彼女に惚れたのは、彼女が一重に難攻不落であったからである。
先にも述べたように、私はこれまで数多くの女性と逢瀬を共にしてきた、いわば恋愛のスペシャリストであり、運よく私に見初められた女性は、一週間もすれば私の物になっていた。
そんな私が、彼女を攻略するのに二カ月も要したのである。
諸君、冷静になれ。普通の男が二カ月で意中の女性を攻略できれば確かに上出来である。
しかし、彼女を攻略するのに二カ月を要したのは他でもない、この私なのだ。これはちょっとした珍事である。
さて、そろそろ諸君に私の彼女を紹介しようと思う。
彼女の名前は黒鐘乙女と言う。
私が乙女さんと出会ったのは、大阪は浪速区の日本橋であった。
知っている者も多いと思うが、大阪の日本橋とは関西きってのオタク街である。
それは大阪の繁華街である難波から通天閣の御膝元は新世界まで、真っ直ぐに伸びた道路、堺筋の一帯に設けられた街である。
表の堺筋には電気屋や工具屋など様々な専門商店が軒を並べているが、一本入ると堺筋と平行した道があり、この道の両脇には多種多様なホビーショップがひしめき合い、街頭ではメイドさんがビラをまいていた。
通称「オタロード」である。
そんなオタロードの中ほどに、ニ階建の小さな店があった。
その日、私はその店に足を運んだ。
その店は、一階でフィギアを扱っており、多くの美女がショーケースの中に展示されている。
日頃、紳士たる私は囚われの身である彼女たちを解放することに余念がない。
事実、我が軍資金の25%は彼女たちの救出活動費に充てているほどである。
しかし、この日の私は違っていた。
私は別の使命を帯びていたのである。
この日の軍資金は、その作戦を決行するに余談を許さないほどしか持ち合わせていなかったのであった。
こうして、私に助けを求める「唯ちゃん」や「あずにゃん」の前をいたたまれない思いで通り過ぎると、左奥のニ階へと上がる階段に行き着いた。
私は、彼女たちのすがるような視線から逃げるように階段を上った。
階段を上るとそこは理想郷であった。
ずらりと並ぶ棚には、ゲームが所狭しと並ぶ。
ここで、私は彼女と出会ったのである。
乙女さんは「つよきっす」というゲーム会社アメ玉ソフトから発売された恋愛シュミレーションゲームに登場する女性で、主人公の従姉にあたる。
青い髪はショートカットで端正に整っており、大きく美しい眼差しには曇りを感じない。
そして、何より彼女は強かった。彼女は実家が剣術の道場であり、その腕前は超一級で、日頃から地獄なんたらとか言う刀を持っていた。
高校では風紀委員長を務め、その清く正しい心と、たぐいまれなる剣術の腕前を遺憾なく発揮し、男女問わず厚い信頼を集めていた。
時折、常人離れした技を繰り出し、ストーカー犯の車を真っ二つにしてしまったり、鍛錬と称し横浜から軽井沢までランニングに出かけてしまったりと戸惑うこともあったが、そんなものは愛で乗り越えた。
なにはともあれ、今私は乙女さんと幸せな日々を送っている。
これまで多くの美女と幾度も別れて来たのは、彼女と出会うためだったとすら思えてしまうのである。
そうこうしているうちに、夜中の4時になったので、私はそろそろ床に着くことにする。
明日から、私は皆さまに、私が意図もせず巻きこまれた事件についてお話ししようと思うが、今日のところは時間も時間である、乙女さんも早く寝ようと先ほどからベッドで頬を膨らませている。
彼女は私がいないとゆっくり眠れないらしい、実に可愛らしい。
第一彼女の機嫌を損ねるわけにはいかないので、諸君とはまた明日、日を改めてお会いしよう。
それでは、また明日。
※あらすじにも書きましたが、テストを兼ねての投稿です。文体に対してコメントいただけるとありがたいです。




