かゆみ
<7月20日(日)15時 アパート>
「かゆいです」
「そのセリフ昨日の夕方から千回くらい聞いてる気がする。海に行ってクラゲに刺されるなんてベタだよね、君も」
「かゆいですかゆいですーかゆいですかゆいですかゆいですかゆいですか?」
「知らんわ。そんな強い毒性のあるやつじゃないだけ良かったじゃん」
「でもよりによって背中を刺すことないでしょうに! こんなところ自分で掻くの大変じゃないですか! ほぁぁぁ! ほぁぁぁ!」
「なんの儀式だ。その赤ん坊よろしく仰向けになって床ズリズリする動作、絶妙に気色悪いからやめてくんない?」
「孫の手でもあればそれで掻くんですが。何か代用できる物ありませんか? 新聞紙丸めたら良い感じに届きますかね?」
「親父か。キンカン塗ったらあとは安静にしとけって。アレルギー性の腫れは掻くから余計痒くなるんだよ」
「そんなこと言ってもかゆいものはかゆいんです。あなたちょっと掻いてくれません? やっぱり患部が見えないとイマイチちゃんと掻けてるかわからなくて」
「仕方ないなぁ。これでどう?」
「あーいいです。できればもっと爪を立ててギギギってやってくれません?」
「聞いただけでも痛々しい。あんまり強く擦ると血が出るぞ」
「そのくらいがちょうどいいんですって。さぁ、私のカラダにあなたという存在の証を刻みつけてください」
「いかがわしい言い方すんな」
「なんでしたら毒液をチュウチュウ吸い出しつつ八重歯で甘咬みしてくださってもかまいません」
「さっきから要求がマニアック過ぎるんだよ! 保冷剤でもつけとけ」
「冷たっ! ああ、でもこれもなかなか気持ちい……」
「感覚が麻痺するからね。凍傷にならないようにハンカチかタオル巻いときなよ」
「だいぶ具合よくなりました。それにしても、どうしてこの世に『かゆみ』なんて不快な感覚が存在するんでしょう。熱を持つとか触るとピリピリするとか、日常生活に影響のない方向でいいじゃないですか」
「たしかに妙な感覚だよね。集中力削がれるし、掻いたらよくないのに掻いちゃうし」
「触ると気持ちよくなる、とかでしたら喜んで刺されに行くんですが」
「不快な理由がわかった気がする」




