忘却
「すごく面白いネタを思い付いた気がするんです」
<ふーん、どんなの? っていうか、そんな大見得きって面白くなかったらどうするんだ>
「いえ、思い付いたはずなんですけど、忘れちゃいました。とっても面白くなりそうだったことだけは覚えてます」
<意味ないなぁ。っていうか忘れるなよ。慢性的ネタ不足なんだから>
「何かとっかかりがあれば思い出せるかもしれません。私もせっかくのネタをみすみす逃したくないので、適当にヒントになりそうなことを言ってみてくれませんか?」
<わかった。まず可能性が高いものとして……下ネタ?>
「いえ、違います。馬鹿にしないでください。年がら年中エッチなことばっかり考えてるわけじゃありません」
<どの口が言うんだ。あと君のはエッチじゃなくてただの下品>
「どっちにしろそういう方向じゃなかった気がします」
<じゃあ、行事ネタ?>
「行事……? ううーん、なんか少しキテる気がします。でもあんまり大した行事でもなかったような……」
<行事に近いのか。なんだろ。6月の行事と言えば……父の日?>
「それじゃないですね。父の日は特に意識してもいなかったので」
<日頃からお父さんにはお世話になってるんだから、何かしてやれよ>
「ん? 何かしてやる……その言葉、引っ掛かりますね。そう、何かしなきゃいけなかった気がします」
<面白いネタじゃなかったのか>
「いえ、ネタだったはずです。ネタ自体は面白くないんですけど、そのネタを生かして面白い話ができる、みたいな」
<でももう思い出してもやらないほうが良さそうだな。あまりにも面白い面白い言い過ぎてハードルの高さが半端ないことになってる>
「それを飛び越えられるくらい面白いネタでした」
<マジか。そういうの忘れるなよ>
「なんとしても思い出さねば。他に何かヒントありませんか?」
<他にねぇ……。いくつかあるネタのパターンから挙げてくとすれば、下ネタ以外にメタネタ、料理ネタ、言葉ネタ、君の会社ネタ、僕を貶すネタ、記念日ネタ――>
「んっ? なんか今きましたよ? あなたを貶すってところで」
<よりによってそこかよ! 他人貶めて面白がってんじゃねぇよ!>
「記念日っていうのも……あっ! 思い出しました!」
<もう言わなくていいよ。ろくでもないこと請け合いだから>
「あなたの誕生日、昨日ですよね!? それです!」
<おい、面白いネタって>
「ハッピーバースデーツーユー! 梅雨だけに! ブププーっ!」
<……いろいろ文句言いたいんだけどいいかな?>




