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第四十七話 訪問者

チグサ 16歳 この世界に転移して来た普通の女子高生。「白衣の天使」。

    転移特典で得た「反射」の呪文を使う。ヤルケノ病院長。

マイラ 16歳 ダルーガ教と対立する、フーラ教徒が住むヤルケノ村の少女。

ボルク 23歳 マイラの兄 ヤルケノ村・防備隊長。


ルリア 21歳 タウリンの元講談師。ガルビエスに記憶を吸い取られ

       ヤルケノ病院で入院中。

ベティカ 19歳 タウリンの女盗賊。ガルビエスに記憶を吸い取られ

       ヤルケノ病院に入院中。


ゴルビス 57歳 タウリンの顔役。ベティカの父の義兄弟。

 その男の名はゴルビスと言った。


 タウリンの町で、警備兵が手を出せない、小さなもめ事を解決するのが仕事なのだと言った。要するに顔役だ。


 防備隊長のボルクは、この男が病院に入るのを警戒して、


「ベティカに見舞いを求めている人間がいるんだが、タウリン・裏社会の大物だ。おまえにも面会を求めているが、どうする?」


 と、私に会うかどうかの確認をして来た。


 私はこのところ、ベランダで観光客に手を振る『白衣の天使』の仕事が終わると、ヤルケノ病院の7号棟に行き『ガルビエス禍』の記憶喪失患者と面談をするのが日課になっていた。


 最近、女講談師のルリアがだいぶ良くなって、少しずつ昔のことを思い出しているのがうれしいニュースだが、その他の人たちは、まだそれほど良くなっていなかった。


 ことにベティカというタウリンの盗賊の女性はガルビエスから生気と記憶を徹底的に吸い取られていた為に、幼児退行のような精神状態になっており、かなりの重傷だった。


 そのベティカを見舞いに来たのがゴルビスなのだった。


「会います。その人を連れて来てちょうだい」


 と、ボルクに言うと「言い方が生意気!」と言って私の頭をコツンと叩いた。


 ボルクだけが『白衣の天使』である私を全然丁寧に扱わない!


(それにしても、なんで当たるのよ? 敵意がないから?)




 ゴルビスという男は病院の前に部下を置いて、自分だけボルクに連れられて私の元にやって来た。その男は小柄だが肩幅が異様に広い。


 生きてきた歴史を物語るかのように、ものすごい威圧感のある顔をした人で、私はガルビエスに対面した時のようにビビってしまった。


 ただ、物腰は丁寧で「このたびはウチのベティカを救出頂き、本当にありがとうございました」と膝に手を付いて深々とお辞儀をした。そして……、


「大体の話は伺っておりますが、ベティカは本当のところ、どんな状態なんでしょうか?」


 と真摯に尋ねた。


「そうですね。彼女に実際に会って頂きます。知っている方が会われた方が彼女にとって良い刺激になるかと思います」


 そう言って病棟に案内した。


 ベティカは窓際のベッドに身を起こして座り、窓の外の木々で戯れる小鳥を見ていた。


「おお、ベティカ~、心配しとったんやぞ。俺が分るか?」


 ゴルビスは駆け寄っておずおずと、彼女の手を握った。


 だが、彼女は微笑んだだけで、彼が誰だか分らなかった。


 するとゴルビスはいかつい顔からボロボロと涙をこぼして抱き寄せ、「オジさんが付いてたのにお前を守れんかったことを許してくれ」と言った。


 私はボルクに「彼はベティカの伯父さんだったの?」と聞くと、


「あいつはベティカの亡くなった父親の義兄弟だったそうだ」


 と言った。


 裏社会では義兄弟は血よりも濃いのだとか……。


 ボルクは、ゴルビスを私のいる病院に連れてくる前に検問所で大方の話を聞いていたのだ。


「実の娘以上に可愛がっていたベティカが、タウリンからさらわれたので血眼になって探していたそうだが、フーラの警察の方が早く彼女を保護したんだ」


「それでここに訪問に来たのね……」


 ゴルビスは何もわからないベティカに、タウリンの町が、あの戦争終結以来、ダルーガの宗教警察がいなくなって、しばらくは大混乱だったが、自分の活躍で新しい警察を組織して、息子のビサスを警察署長に任命したというような話をした。


「そうそう、お前をさらったピエストルの町長な、あれの首を取ってカラスの餌にしたったで」


 などと物騒な話もしている。


「あいつな、ガルビエスに命令されたからやむなくとか言うてたんやで。そんならお前の命か娘を代わりに貰うでと言うたら、『自分は町長の大事な仕事があって、町の者を守らなければならんので娘を連れていけ』なんて言うたんや。そんで、このアホンダラが! 言うて殺したったんや。あいつが娘を守って自分の命を持って行けていうたら、金貨200枚くらいで許したろと思とったのにな。ほんまにクズ野郎やったで」


 そう言って泣きながらベティカに抱きついた。


 だが、それでもベティカはゴルビスをなでなでしているだけだった。


 しかしここで、ゴルビスが取りだした物で少し反応があった。


「お前の大事なピッキングの道具を持ってきたで。これ見て昔のことを少しずつ思い出すんやで」


 そう言ってベティカに握らせたところ、その握り方がプロっぽかったのを私は見逃さなかった。


(もしかしたら、これが突破口になるかもしれない)


 私はそう確信した。


 ゴルビスはそれには気付かず「ここでゆっくり養生して、はよ良うなってや」と言って、私たちの方に戻ってくると「あの子をよろしくお願いします」と頭を下げた。


「この病院で、できることは一生懸命にしますので、また面会に来てあげてください」


 そう言ってゴルビスを病院から送り出す時、ちょうど村のステージから講談を終えて戻ってきたルリアと出会った。


「そうそう、彼女はだいぶ良くなって来た患者で名前を……」


 私が紹介しようとすると、ゴルビスが先にその名を言った。


「ルリア……」


 そう言えばルリアもタウリンの出身だった。


 でも同じタウリン出身というだけで、なぜゴルビスは彼女を知っているのだろう?


 そう思っていたら……、


「ルリアはタウリンの町で師匠に不許可で講談を演じてたんで、その師匠の要請で講談を中止させたんが私なんですよ。その結果、彼女はモブリンに流れてゴルビエスに捕まった。せやからルリアがこんな目にあったのも私の責任と言えます。先生、どうかこの子もよろしくお願いします」


 ゴルビスが誰なのかも分からず、ポカンとしているルリアを尻目にタウリンの顔役はまたもや私とボルクに頭を下げた。




 これ以降、ヤルケノ病院にはタウリンから美味しい食べ物や高価そうな物資も匿名で届くようになった。



 ベティカは相変わらず記憶を取り戻せないでいるが、先日病院を抜け出して村の家畜小屋でギガド・バルゴン(授乳用の家畜で巨大なタヌキ)とあそんでいるところを発見された。


 どうやら夜、ピッキングで鍵を開け、外に出たようだった。


 これは良い兆候ではあるが、もし彼女が事故にあったとしたら、あの怖い顔役が黙っていないだろう。


 なので、私は病院の管理者にくれぐれも注意して欲しいと言っておいた。



        外伝はまだまだ続く予定です。


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