表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/45

第三十三話 外伝・ダルーガ教とフーラ教

チグサ 16歳 この世界に転移して来た普通の女子高生。

       転移特典で得た「反射」の呪文を使う。

マイラ 16歳 ダルーガ教と対立する、フーラ教徒が住むヤルケノ村の少女。

ボルク 23歳 マイラの兄 ヤルケノ村・防備隊長


ズバルト  56歳 聖都ゴンゴザ大教会の特別矯正官。最高指導者。

ガルビエス 37歳 ズバルト直属の矯正官補佐。呪術を使う。

         『冷徹な死刑執行人』の異名を持つ。

バシュラム 41歳 東方辺境部連隊長。ズバルトを恐れる野心家。

         ガルビエスには対抗心を持つ。

「フーラ教とダルーガ教って、元々は同じ宗教だったのね」


 ホットケーキパーティの最中、私が何気なく言うと、マイラはフォークを止めて、眉を吊り上げた。


「そんなことあるわけない。フーラ教は男も女もみんなを幸せにする宗教で、ダルーガ教は傲慢な男たちが自分の欲望を叶えるために作ったエセ宗教じゃないの!」


 珍しくマイラが怒っていた。


 まあ、あれほど女の子を酷く扱う宗教と、比較的自由なフーラ教の“根っこが同じ”と言われても、納得できないのは当然だ。


 でもこれは、ガルビエスの記憶にあった情報だ。


 聖都の地下にある禁書庫で、彼が読んだ古文書の内容。


 ガルビエスが私の生気と記憶を吸い取ろうとして、反射呪術に敗れたとき――、


 逆に彼の記憶が私に流れ込んできたのだ。


 その話をすると、マイラは怒りを引っ込め、興味深そうに身を乗り出した。


「じゃあ聞くわ。どんな歴史があるの?」


「今から二千年ほど前の話なんだけどね」

 私はホットケーキをつつきながら語り始めた。


「海――。当時の言葉では『ダルーガ』って呼ばれていたんだけど、そこに借りた小舟で漁に出た男がいたの。ところが、天気が急変し、濃霧によって方向が分からなくなってしまった」


(うん、今日のホットケーキは美味しく焼けてる)


「風も強くなり、雨も降り出し、波も高くなって……もう大変。男は必死で船にしがみついて天気の回復を祈ったの」


 マイラはホットケーキを食べるのも忘れて話に聞き入っていた。


「どのくらい、そうしていたのか分からない……。気がついたときには海は静かに戻っていたけど、船はボロボロになっていたんだって。なんとか浜に戻ることができたんだけど、船を貸していた網元がカンカンに怒って、『元通りにしろ!』って怒鳴ったの。(でもこの世界には保険なんてない)」


「それでどうなったの?」


「男は開き直ってこう言ったの。『私は神に導かれて、フーラの地に招かれた。そこで神は我々に、生きるための指針を示した。私を訴えるのであれば、それは神の意志を無駄にすることになる』と言ったのよ」


 たぶんこの男のとっさの言い逃れだと思うけど、マイラはこの話を真剣に受け止めた。


「フーラの地?」


「そう。フーラ教の『フーラ』。元々は『清浄なる地平』を意味する言葉だったみたい。今は、その地に誘う風の精霊の名前として使われることが多いけどね」


「それで、もしかしてその男の言った指針が『フーラの十二戒』ってわけ?」


「らしいわ。実は昔からよく言われていた道徳なんだそうだけど……」


約束1 風のように争いを避けよ。争いは風を濁らせる。

約束2 食べ物を粗末にせず分け与えよ。自然の恵みは風が運んだ贈り物なり。

約束3 なんじ盗むなかれ、奪うなかれ。風は悪しきものに吹かず。

約束4 働きすぎず、怠けすぎず。風は強くとも弱くとも命を育まず。

約束5 嘘はつかぬこと。ただし人を守る優しき嘘は風の慈悲。

約束6 贈り物に見返りを求めぬこと。風は流れ去り求める者には返らない。

約束7 旅人は風に運ばれし客。水と食事と休む場所を与えるべし。

約束8 節度を持った子育てをせよ。若木は風強くとも折れ、弱くても育たず。

約束9 男女は互いを尊び、支え合うべし。風は二つの流れが合わさって吹く。

約束10 大地を汚すべからず。風は神の息吹。水は神の血。汚すは神への無礼。

約束11 互いを信頼せよ。それは風のように見えないが、失えば二度と戻らない。

約束12 年長者の言葉には耳を傾けよ。敬意こそが風の流れを整える。


 マイラがスラスラと十二戒を述べたのを聞いて私は感心した。 


 これに対するダルーガ教の二十戒は以下の通り。

(ちなみにスネッペンとは『誓い』の意味だそうな……)


一の誓い その地の慣習より信仰を優先し、異議を唱える者は処罰すべし。

二の誓い 信仰を忘れたる者を罰せよ。離反する者は死罪。

三の誓い 神の民から盗むは大いなる罪。異教徒の財は神の民に与えられる。

四の誓い 神の民は互いに助け合うべし。倒れた神兵の家族は保護すべし。

五の誓い 男児は鍛えよ。孤児は共同体で育て神の兵とせよ。

六の誓い 女児を甘やかすな。下を向いて暮らし、語らぬよう従順に育てよ。

七の誓い 男は神が作りし造形物。女は付随物。

八の誓い 女に学問を禁ず。悪魔が囁く文字を教えず、数を教えず。

九の誓い 絵画・造形、創作を人が行うことを禁ずる。

十の誓い 歌舞音曲は心を惑わす誘惑である。

十一の誓い 富は神に捧げよ。私欲は罪の根。

十二の誓い 聖職者の指導を疑うなかれ。思考するは乱れの源なり。

十三の誓い 神の名の元に死ぬことを恐れるな。生恥を恐れよ。

十四の誓い 成人は八人の妻を迎えよ。異教徒の女を嫁にせよ。

十五の誓い 女は十人の子を産み育てよ。産めぬ者は妻の座を去るべし。

十六の誓い 常に祈れ、常に恐れよ。汝は神の下部なり。

十七の誓い 蝙蝠や蛇を食べることを禁ず。闇の獣は災いを呼ぶ。

十八の誓い ダリンの日は誰も食してはならず、異教徒も同じである。

十九の誓い 異教徒は税を支払うことにより生存を許される。

二十の誓い 誓いを破った者は、鞭打ちもしくは懲戒棒で罰せられる。


 というようなものだ。

(ほんと好戦的!)


「でもさ。フーラの十二戒がどうしてダルーガの変な教義に変わっちゃったわけ?」


 マイラが真剣な目で聞いてきた。


「千五百年ほど前に、逮捕されたフーラの聖職者がいたんだって」

 これもガルビエスが読んだ禁書の中にあった話だ。


「バッカスって人でね。港町タウリンの児童連続誘拐事件というのがあって、その犯人がバッカスだったのよ」


「バッカス! って、あのダルーガ・バッカスと関係ある?」


 マイラが食いついてきた。


「うん。ダルーガ教では殉教者とされるバッカス。本人は子供を誘拐していても、それが神の意志に叶ったことだと信じていたらしいわ。でもそんなことで許されるはずがない」


「つまり殺されたってこと?」


「そう、子供を誘拐されたタウリンの住民によってね。彼は裁判にかけられたんだけど、その中で『私はダルーガ(海)から聞こえてくる神の声を聴いた。神は異教徒の子を信徒に育てよ。女の子は将来信徒の嫁にせよと言われた』などと言ったものだから、大勢の人から石で打たれて死んだの」


「でもさ、どうしてその人が伝説になっちゃったのかな?」


「それは彼を英雄視する人がいたってことね。ある時、飢饉があったんだけど、フーラの教会は貧しい人にまで手を差し伸べなかった。でもバッカスを支持する一派は貧民に食料を配った。そんなこともあって支持されたみたい」


 話はまた二百年ほど経ってから……、


「バッカスの死後、タウリンや西部の大都市ゴンゴザに住む、経済的に恵まれない人たちの間で、バッカスが神格化されていったのよ」


「足し算ができない子が、そんなものを覚えるのは魔女を目指すようなものだっていうような?」

 マイラが変な例えをした。


(でもそれは言えるかも)そこで……、


「そうね。そういうものかもしれないわ」


(ガルビエスも発展に取り残された人が新たな宗教にすがる……。みたいなことを心の中で思っていたようだし)


「それでね。バッカスの考え方をまとめて法体系にした人まで現れたのよ」


「それって……ダルーガ教の偉い人?」


「ダルーガと言えばこの名前が出てくるから、たぶんマイラも聞けば納得するわよ」


「もしかしてボホーラって言う人?」


「正解! マイラすごいね。彼は過激な言動が問題視されて追放された教師。その人が今も人々を苦しめるボホーラ法を作ったらしいのよ」


「いつの時代にもヒマな人がいるのね」


 マイラはそう言ってホットケーキの最後の一枚を食べた。



次回は聖都・ゴンゴザからズバルトの憂鬱をお送りする予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ