第三十二話 力ある者との再会
チグサ 16歳 この世界に転移して来た普通の女子高生。
転移特典で得た「反射」の呪文を使う。
マイラ 16歳 ダルーガ教と対立する、フーラ教徒が住むヤルケノ村の少女。
ボルク 23歳 マイラの兄 ヤルケノ村・防備隊長
ズバルト 56歳 聖都ゴンゴザ大教会の特別矯正官。最高指導者。
ガルビエス 37歳 ズバルト直属の矯正官補佐。呪術を使う。
『冷徹な死刑執行人』の異名を持つ。
バシュラム 41歳 東方辺境部連隊長。ズバルトを恐れる野心家。
ガルビエスには対抗心を持つ。
ところで、私にはひとつ心に引っかかていることがあった。
ガルビエスの記憶の中にあった、生気を抜かれて記憶まで失った女たちで、とりわけベティカというシーフの娘とモブリンの女講談師が気になった。
そこで知り合いになったフーラの義勇軍を指揮する人に頼んで探してもらうと、彼女たちはまだ生きていて、ベティカはホテルの雑用係として、講談師はダルーガの金持ち爺さんの家で嫁さん兼メイドとして、働かされていることが分った。
私は、記憶を無くし、自分が誰だかすら分からなくなっている彼女たちを救い出してもらって、新しく村に作った病院で、ゆっくり回復をはかってもらうことにした。
彼女たちの記憶は、私がガルビエスから受け継いで持っているのだけれど、それを返す方法がないので、時々病院に行っては記憶の回復の手助けをしている。
その他の犠牲となった女性たちも、見つかり次第、ここに連れて来てもらうつもり。
そんなふうに考えていた計画を色々実現するために頑張っていたある時、私は夢の中で久しぶりに【力ある者】と会った。
この世界と前世のはざまに在って、いくつもの文明の生殺与奪ができる。そんな恐ろしい存在でありながら、相変わらず言動は軽かった。
「やあ、元気にしてたかい? ずいぶんがんばってくれたね。安心したよ」
「これでよかったんでしょうか? 私はずいぶん他の人の命を奪いました。もし罰を御与えになるなら……」
「ああいや、そんなことは気にしないでいいさ。生きるための戦いは全ての生物に与えられたルールなんだから」
と、おっしゃる。ちょっと安心した私は、前から不満に思っていたことを聞いてみた。
「どうして私を異世界に転移させたんですか?」と、
だって私を事故から救うだけなら元の世界のどこかに……、極端に言ったらトラックから1メートルずらしてくれただけでも良かったはずだ。
「だってさ、君が二人になったら困るじゃん。助かった君と、事故にあった君。これを分かりやすく言えば、昔あったファクシミリみたいなもんだね。元の紙はそのままで、別の場所で印刷されるやつ。知らない?」
つまりドッペルゲンガーを避けたと言いたいのだ。
これほどの力がありながら、どこか間が抜けている。
私はおずおずと尋ねてみた。
「あなたはいったい誰なんですか?」
「我は我であって君でもある、マイラであって、ボルクでもあり、村長でもあって、そしてガルビエスでもある。つまりこの世界の存在そのもの。という感じだ」
(そうかあ、この人、退屈で仕方なかったのね……)
私がそう思うと【力ある者】は大笑いした。
(ゲッ、心が読めるんじゃ?)
「ハア~ッ、ハッハッハ、ヒィ~ッ、ヒッヒッヒ。面白いな君は。じゃあ、これからもがんばってこの世界をより良い世界に変えていっておくれ」
そう言いながら消えて行った。
【力ある者】が消えたあと、私はしばらく夢の中に立ち尽くしていた。
その言葉が胸の奥に、じんわりと温かく残っていた。
(より良い世界に、か……)
目を開けると、朝の光が差し込んでいた。
外からは、子どもたちの笑い声が聞こえる。
学校へ向かう女の子たちが、手をつないで走っていく。
誰もオークの衣なんて被ってはいない。
他の町でも変わっただろうか?
村の広場から、甘いホットケーキの匂いが漂っている。
今日もやって来る観光客を目当てに、ホヤ焼きの次の名物を焼いているのだ。
ボンボラに引かれた乗り合い馬車が、ナラヤまでお客さんを迎えに出発した。
大浴場からは湯気が立ちのぼり、老人たちが「今日も入るぞ」と、お湯が張られるのを待っている。
世界は、少しずつ変わっている。
私はベランダに出て、深呼吸をした。
途端に歓声が沸く。
(そうだった。村長がホテルを作ったので、泊りの観光客が朝から私の登場を待っていたのか)
私は作り笑顔で手を振った。
(よし……次は何を作ろうかな)
「そうだ絵具を作って綺麗な絵も描いてみたい」
誰に聞かせるでもなく、私は小さくつぶやいた。
まだまだやりたいことがある。
この世界を、もっと便利に。
もっと優しく。
もっと楽しく。
私は階段を降り、今日の仕事に向かった。
こうして、私の第二の人生は、ようやく本当の意味で始まったのだ。
おしまい
本編はこの回で終わりましたが、次回より外伝が始まります。




