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第二十九話 記憶

チグサ 16歳 この世界に転移して来た普通の女子高生。

       転移特典で得た「反射」の呪文を使う。

マイラ 16歳 ダルーガ教と対立する、フーラ教徒が住むヤルケノ村の少女。

ボルク 23歳 マイラの兄 ヤルケノ村・防備隊長


ズバルト  56歳 聖都ゴンゴザ大教会の特別矯正官。最高指導者。

ガルビエス 37歳 ズバルト直属の矯正官補佐。呪術を使う。

         『冷徹な死刑執行人』の異名を持つ。

バシュラム 41歳 東方辺境部連隊長。ズバルトを恐れる野心家。

         ガルビエスには対抗心を持つ。

 とめどもなく様々な記憶が私の中に飛び込んできた。


 恋人との楽しいひと時。


 幼かった頃の両親の記憶。


 これは何?


 初めて出産して我が子の顔を見た時の喜び。


 いったい誰の記憶何だろう?


 そしてダルーガの理不尽な要求で自由を奪われた悲しさ。


 そうか……。


 これらは皆、ガルビエスによって生気と共に吸い取られた女性たちの記憶だ。


 どの記憶が誰の物かは詳しくは分からないけど。


 新しい記憶……、最近の犠牲者のそれはよく分った。


 ベティカというシーフの娘とモブリンの女講談師……。


 一つ一つの記憶が、私の胸を直接えぐるように痛かった。


 他には温泉旅行中、婆さん仲間でケンカになったという記憶(?)もあったが、


 これは何なのか分からない。


 そして――、


 彼女たちが自我を持っていられた最後の瞬間も流れ込んできた。


 その絶望と恐怖が胸を締めつける。


 さらに、ガルビエス自身の歪んだ記憶もあった。


 幼い頃に父親から受けた厳しい武芸訓練。


 神学校で叩きこまれたボホーラ法。


 日夜問わず狂ったようにゴロゴロ転がる、あのバカバカしいダルーガ・スネッペン。


 ダルーガもフーラも同じ宗教だったのに指導者の対立で分かれただと?


 自分たちの威厳を守る為にどれだけの人間が死んだのか。


 俺は神など信じていない。


 宗教など、力のない者たちが自尊心を保つための方便に過ぎぬ。


 よかろう。俺はそれを巧みに利用し、己の欲望を満たしてやる。


 彼が所属する組織への忠誠も、人間に対する愛情の欠片もない。


 そんな冷たく乾いた思考が、私の胸に重くのしかかった。




「チグサ、チグサ!」


 私の肩を揺さぶる者がいた。


「マイラ……」


 私は意識を取り戻した。


(ガルビエスは? ガルビエスはどうなったのだろう)


 見ればボルクが抑え込み、地べたにねじ伏せていた。

 ガルビエスの抜け殻を……。


 あれほどの勇猛さを誇ったダルーガの精鋭・鏡砕隊も、「閣下が魔女に敗れた!」という知らせに、総崩れを起こしていた。


 中にはまだ抵抗を続ける者もいたが、多くはナラヤへの逃走を試み、拿捕されて二人一組、背中合わせで縛られていた。


「私たちは勝ったのね」

 マイラが抱き着いて泣いた。


 私はただ、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。


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