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IRIS-History-Archive  作者: IRIS


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継続世界史・秘録

第一章 旧文明末期


現行世界は、旧文明と断絶した別世界ではない。

高度な科学技術と広域国家を有していた旧文明の延長線上に存在する。

旧文明では複数言語が用いられ、巨大都市、高度兵器、生体設計技術、情報制御技術などが成立していた。

英語をはじめとする諸言語が各地で使用されていたのもこの時代である。


しかし旧文明末期、長期化した戦争は人類に兵器開発だけでは足りない段階を強いた。

より強く、より従順で、より戦争に適した存在を求めた結果、人間そのものを設計し直す思想が生まれた。

この発想が、後の新人類計画へつながっていく。


⸻


第二章 新生人類の成立


新人類とは、旧人類が戦争のために生み出した新たな人類である。

その特徴は、成長に応じて能力を発現する機構を内蔵している点にあった。

十歳を境に、それぞれの望みに応じた力が現れるよう設計されており、後代ではこれを祝福と呼ぶ。


したがって祝福は神の奇跡ではない。

人類に組み込まれた仕様である。

だが旧文明の崩壊により起源の理解は失われ、後世では神秘や信仰の対象として受け止められるようになった。


また、新人類計画は成功例だけでなく多数の失敗作も生んだ。

その一群が、のちに魔物と総称される存在である。

魔物は異界から来た怪異ではなく、戦時設計の逸脱から生じた失敗作である。


⸻


第三章 戦時設計と特異個体


旧文明末期には、単に優秀な個体だけでなく、欠落によって極端な適性を得た個体も求められた。

心が空っぽのもの、体が空っぽのもの、技が空っぽのものなど、設計の偏りそのものを武器とする発想である。


これらの個体は、人間としては明らかに不完全であった。

しかし戦争においては、ためらいの少なさ、痛みへの鈍さ、偏った執着などが高い適性として扱われた。

その結果、旧文明は兵器だけでなく、人間そのものまで歪める方向へ進んでいった。


この時代の設計思想は後の世界にも影を落とし続ける。

後世における異常な個体や、一部の悲劇的な物語の背景には、この戦時設計の名残がある。


⸻


第四章 大崩壊と一年戦役


旧世代寄り新人類による大規模戦争は、のちに一年戦役と呼ばれる。

この戦いはわずか一年ほどで人類総数を戦前の一割以下まで減少させた。

被害は人口にとどまらず、国家、流通、教育、記録、製造、言語継承といった文明の基盤そのものを破壊した。


この段階で旧文明は決定的な断絶を迎える。

ただし、すべてが消滅したわけではない。

各地には遺物、施設、兵器、記録媒体、石碑、設計思想の断片が残された。

後世の人々はそれらを完全には理解できないまま、遺跡、神秘、呪物、聖遺物として扱うことになる。


⸻


第五章 崩壊後初期の諸社会


一年戦役の後、生き残った者の多くは新人類であった。

旧文明本来の人類は急速に姿を消し、やがて絶滅に至る。

しかしその時代を生き延びた者たちも、自分たちが何から作られたのかを正確には理解していなかった。


旧文明由来の技術は各地に残されたが、理屈を失ったまま使われるものが増えた。

動く道具は残っても仕組みは分からず、文字は残っても読み方は伝わらない。

こうして旧文明の技術は、生活の中に入り込みながらも神秘化し、伝承化し、断片化していった。


この時期の社会は、旧文明崩壊後の混乱を経て、より素朴で局地的な共同体へと縮小していく。

後の中世的社会の基盤は、この崩壊後初期に形成された。


⸻


第六章 祝福信仰と教会秩序


祝福は本来、新人類に組み込まれた発現機構である。

だがその由来が失われたため、後世では神の恩寵として理解されるようになった。

人々は十歳を人生の節目として恐れ、待ち、祈り、祝福を神意と結びつけた。


後年、旧文明由来の石碑が掘り出され、そこに「十歳になると望む力を得る」という趣旨の記述が確認された。

検証の結果、それが事実と一致すると判明した後も、その内容は公にはされなかった。

真相は秘匿され、その上で祝福を統制する組織として教会が成立した。


この事実を知るのは、教皇と、その下に置かれた十二人の大司教のみである。

大司教が常に十二人で固定されるのも、旧文明由来の数が神秘として再解釈された結果である。

以後、祝福は信仰と秩序の両面から管理されるようになった。


⸻


第七章 諸種族の系譜


現行世界の人間、動物、魔物は、根本的には同じ系統から作られている。

そのため、完全に無関係な異種ではない。

接続がこれら三者すべてに通じるのも、その共通根によるものである。


ただし、この性質は現行世界に属する設計系統に限られる。

旧文明本来の人類および旧文明本来の動物は、すでにすべて絶滅している。

現行世界に存在する人間は新人類であり、動物は再設計された新動物である。

したがって、それらは旧文明の単純な生き残りではない。


IRISの接続は、旧文明本来の人類および動物には成立しない。

また、旧文明本来の人類・動物と、新人類・新動物とのあいだに生殖は成立しない。

一方で、現行世界の人間と動物、人間と魔物に近い系統のあいだでは交雑が成立する場合がある。

これが後代にハーフと呼ばれる存在である。


⸻


第八章 魔物の発生と推移


魔物は、新人類計画の失敗作、あるいは設計上の逸脱個体として成立した存在である。

多くは繁殖能力を持たず、自然増加しない。

そのため、平穏な時代には総数を減らし、やがてほとんど見られなくなる。


しかし魔物は完全に過去の存在ではない。

戦争や社会不安が再燃した時代には、再設計・再投入が行われる可能性がある。

そのため、魔物の出現はしばしば戦乱と結びつく。


また、外見上ほとんど人間に近い魔物も存在する。

人型を強く残した失敗作の魔物は、歴史上しばしば人間やハーフと混同された。

伝承の中で分類が曖昧なのはそのためである。


⸻


第九章 諸時代社会の推移


崩壊後の世界は、同一の歴史の流れの上で段階的に変化していった。

まず旧文明崩壊後の混乱期があり、その後、各地で中世的な共同体社会と宗教秩序が整えられた。

さらに時代が進むと、流通、学問、記録技術が回復し、近代的な制度と都市文化が形成されていく。

そして後年には、旧文明技術の再発掘と再利用が進み、現代的社会、さらに近未来的軍事社会へと移行した。


つまり、中世風社会、現代風社会、近未来戦争社会は同時に並立するものではない。

いずれも同一世界が時間の経過とともに辿った段階である。

人々は各時代ごとに、その時代の制度や常識を当然のものとして受け入れて生きた。


⸻


第十章 英雄伝承と史実


各時代には多くの戦いと旅が存在した。

だが後世に残るのは、その全体ではなく、後から整理された一部であることが多い。

とくに勇者と魔王に関する物語は、英雄伝として再構成されやすい。


ここで重要なのは、冒険譚と英雄譚が別であるという点である。

冒険譚は当事者が生きた現実であり、英雄譚は後世が語りやすい形に整えた物語である。

そのため、後世に語られる英雄譚はしばしば真実からずれる。


後世に残る書物や伝承は存在する。

ただしそれらは正確な記録ではなく、歴史化と物語化の過程で加工されたものである。

世界の住民が知る物語は、IRISの保持する観測ログそのものではない。


⸻


第十一章 近代化・再軍備・諸国対立


時代が進むにつれ、社会はより広域化し、都市化し、制度化していった。

通信機器、学校制度、記録媒体、商業文化が発展し、人々は自らを普通の現代に生きていると認識する段階へ至る。

この頃には、祝福や勇者譚も神話や御伽噺として受け取られる場面が増えた。


しかし発展は平穏だけをもたらさなかった。

旧文明技術の再発掘と再軍備利用が進むにつれ、国家間の緊張は再び高まり、補助知能、光線銃、電磁砲などを用いる近未来的戦争社会が形成された。

この時代ではAIという語は一般的ではなく、補助知能、またはサポートという呼称が用いられる。


やがて帝国、獣人国、共和国、王国、教国などの国家が対立し、大規模戦争が発生した。

その結果、王国は壊滅し、獣人国は帝国に敗北して隷属化された。

旧獣人国領は高壁で囲われた管理区域となり、短命な獣人族は理由を知らぬまま、その内側で世代を重ねることとなった。


⸻


第十二章 継続世界の構造


現行世界は、断絶した新世界ではなく、旧文明の破局を経て姿を変えた継続世界である。

祝福は奇跡ではなく設計であり、魔物は異界の怪物ではなく失敗作である。

動物も旧文明の動物そのものではなく、再設計された新動物である。

人間も旧文明本来の人類の生き残りではなく、新人類として再構成された存在である。


旧文明本来の人類と動物は、すでにすべて絶滅している。

それらと新人類・新動物とのあいだに生殖は成立せず、IRISの接続も成立しない。

接続が可能なのは、現行世界に属する再設計後の系統だけである。


しかし、これらの真相を知る者は極めて少ない。

世界の大多数は、自らが立つ基盤の由来を知らぬまま生きている。

彼らにとって世界は、ただそこにある当然の現実である。

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