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≪第七部≫ウンディーネは深更に満ちる ーカラマーゾフ編ー  作者: 咲佐きさ


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エピローグ

「ところでさ、君ってマルセルと関係があったの?」

 満腹になるくらいたっぷり愛してもらって、…久しぶりだからって、ちょっぴり性急で、余裕のない感じのセデュが新鮮で、うれしくて…ベッドの中でセデュの胸に頬をぺったり引っ付けてひと眠りして、微睡から醒めて――開口一番、僕はそう口にしていた。

 僕と同じく、ぼんやりしたセデュは何を言おうか迷っている様子だ。これ、聞いちゃいけない類の話だったのかな? でも気になる。知りたくないけど、こわいけど、気になる。あの喧嘩の最中にマルセルが口走ったことを信じると、セデュはマルセルと寝たことがあるってことに、なるんだけど…。

「酔っていたので、詳しくは覚えていないのだが…」

「え、酒の勢いで盛り上がって、寝ちゃってたってこと…?」

 そっかー。セデュがお酒を毛嫌いするわけだなー。お酒に弱すぎるせいでいろいろ大変だったんだなー。わかってよかったー。あのふたりだと、どっちが突っ込まれる方なんだろー。…。……。あ、なんか気持ちが落ち込んできた。ワンナイトなんて僕自身は何回も経験してるのに。セデュにばっかり貞操を求めるのは、違うだろ、…。

「口淫されたので、やつを殴って、逃げ出したはずだ…たしか」

 記憶を辿るように眉間に皺を寄せたままのセデュが言う。あ、そうか、じゃあ最後まではしてないのか、よかった…。というか、それじゃあセデュは、マルセルを殴るの、2回目ってこと? とことん相性が悪いというか、虫が好かないというか、そういうのってあるんだな…。

「マルセルは僕には親切にしてくれてたから、そんなことするひとだと思わなかったな…。ずっと優しかったよ、彼は」

「……」

 セデュは黙り込み、眉間の皺を深くしたまま僕を見つめる。あ、マルセルがセデュを襲ったのが合意じゃなかったら、マルセルはセデュをレイプしかけてたってことになるのか。セデュはワンナイト上等ってタイプじゃないし、合意があったとは考えにくい。これじゃあ、被害者を責めてるみたいになっちゃってないか? デリカシーなさすぎ。最悪だ。もっとセデュのことを労わってあげないと。セデュはなんにも悪くないんだって、伝えないと――

「お前はマルセルに惹かれていたろう。…やつもおそらく、本気でお前のことを…」

「え、待って待って、なんでそうなるの?」

「見ていれば分かる。マルセルのあんな穏やかな顔は、私は初めて見たよ」

「……。そうだとしても、きちんと断ったよ。迷っていたのは、ほんとうだけど…」

「まだ迷いがあるんじゃないか? あいつといるときのお前は、苦しみから解放されているように見えていたよ。軽快で、自由で、明るくて…雁字搦めに縛り付けられたこの地上から、飛び立てそうなほどに」

「なんでそんなこと言うの。ぼくはきみがいいんだ、他の誰でもない、きみだけがいいんだ。苦しくても、つらくてもいい。ぼくはきみに恋してるんだから」

 間近で見上げたセデュの瞳はいつもみたいに溶けそうに潤んで、僕だけを映して揺らめく。その飴色を見つめていて、ふと思い当った僕は、おそるおそる、彼に尋ねる。

「もしかしてきみ、…嫉妬してるの?」

 ミーチャみたいに。恋敵に思い人を奪われちゃうんじゃないかって、四六時中、ソワソワイライラしていた彼みたいに。

 これは、役が君に乗り移っているせいかな? こんなふうにあからさまに露にするのは、いつだろう、ハリウッドの時以来じゃないか? あれ以来、君はあんまりそういうそぶりは、してこなかったのに…。

「きみってもっと、潔いと言うか、なんか、そういうタイプだと思ってた…」

「私はかなり嫉妬深いぞ。失望したか?」

「…ううん、ぼくも、おんなじだから」

 君はロレンツォ君が好きなんだって思って、ずっと嫉妬してた。壊れちゃえばいいって思ってた。苦しくて苦しくてたまらなかった。君がずっと恋しかった。君もそうだったのかな。君もずっと苦しかったの? それなのにその思いを僕にぶつけたりもせずに、じっと我慢していたの? それってなんて、けなげで、一途で、可愛いんだろう。

「うれしい、きみが嫉妬してくれてうれしい。だって、きみがちゃんとぼくに、恋してくれてるってことだもん。ぼくを独占したいって、思ってくれてるってことでしょう?」

「…ああ、そうだよ」

「ふふ、うれしいなあ。一緒にいようね、ぼくはきみしか要らないんだ。きみだけがいればいいんだよ…」

 抱き着いて、胸元に懐くと、きみの掌が頭を撫でてくれる。甘い匂いと優しい指遣いに酔わされて、僕は目を閉じる。

「傍にいよう、愛しているよ、ルー、お前だけを愛している…」

 幾度も囁く君の掠れた声にまた目が潤んで、泣き虫な僕は零れる涙を君の胸に吸わせる。

 夜明けはまだ遠いから、もっともっとひっついていられる。僕はそれが嬉しい。

 オレンジの灯りに照らされて、僕たちは揺れる。身体を添わせると凸凹がぴったりと嵌ったみたいにしっくりきて、どきどきして、君が欲しくてたまらなくなる。

「ぼくを溶かして、もっと愛して、もっともっと」

 脚を絡ませ促すと君は応えてくれる。僕は君を受け入れて、歓喜の声を上げながら君と一緒に何度も高みを目指す。ぐちゃぐちゃに混ざり合って、もとはひとつのものだったみたいに溶けあうんだ。

 握りしめた掌が汗で滑っても、君は僕の手を離さなかった。


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