プロローグ
汗ばんだ身体が倒れ込んでくる。はあはあと肩で息をして、ほんのりと桜色に染まった頬を胸元に擦りつけるようにする。乱れた長い前髪の隙間から、濡れた瞳が見える。甘えるときのルーのしぐさだ。動物の子供のように稚く、無心で愛らしい。
体力のないルーは一度出してしまうと脱力してしまって、されるがままになる。抵抗らしい抵抗もせず喘ぐだけのルーは只管に可愛らしいが、何度も回数を重ねると気を遣ってしまうことが多いので、普段は2、3回で抑えている。
手酷く抱いてほしいと懇願されたのはそう遠い日のことではないが、甚振る代わりに一晩奉仕に徹したところ、そういった類の要望をルーから乞われる機会は減った。
…まったくなくなったわけではないので、今後も、私はルーをひたすら慈しむことで応えるつもりでいるが。
奥深く突き刺したままの半身を抜こうと身じろぐとルーは高い声で鳴き、潤んだ瞳を彷徨わせる。
縋るものを探すように手を伸ばして、私の掌を捕まえると、熱を移そうとするように、そこに頬擦りする。
子供のように柔らかい頬を堪能していると、何を思ったか、ルーは口を開けてぱくりと私の指を咥えた。
「…ルー、離しなさい、下を処理しないと…」
「んや、やらあ、あむ…」
ぼんやりとした声が落ちる。指を咥えたルーはそれを旨そうに舐め、しゃぶり、甘噛みする。まるで口淫するかのようなしぐさに、半身がまた熱を持ち始める。
「…ルー、もうこれ以上は…」
「んん。んむ、おいひいよお、セデュ…」
猫のように身体をくねらせ濡れた様な瞳で私を見つめ、誘うように出した舌を見せつけるように這わせる。
あからさまな誘いに理性を揺さぶられ、それ以上の抵抗は私には不可能だった。
深夜に作曲を終えたばかりの興奮状態でことに及んだルーは結局、夜が明けるまで私を咥えたままでいた。
秘部から剥がしたゴムの口を結わえて屑箱に放ると、ぐしゃりと潰れたような音がする。どこに実を結ぶこともないその精液の重さに頬が熱くなる。今夜も随分と無理をさせてしまった。気絶するように意識をなくしたルーは枕に俯せ、すやすやと寝息を立てている。
湯に浸したタオルで汗や体液に濡れた身体を拭き清める。ぐったりと投げ出された長い腕や、肉付きの薄い脚を持ち上げ、その容を掌で確かめるようにして、情交の痕を拭い去っていく。下腹を拭う際には伏せられた金色の睫毛がぴくりと震え、ため息のような音が愛らしい唇から微かに漏れる。体毛が薄く、産毛のような金色にうっすらと全身を覆われているルーの身体は神々しく、朝焼けに光の輪郭を浮かばせている。
改めてベッドに横たわり、その細い腰を抱き寄せると、ブロンドの隙間から微睡みから醒めた瞳が瞬くのが見えた。
「…ぉはよ、セデュ…」
昨晩喉を酷使したせいで掠れた声で言って、二、三回の咳払いの後、照れたような上目遣いを寄越す。
「…お水、ちょうだい」
「…ああ」
陶器の水差しから水を注ぎ入れたグラスを渡すと、のろのろと身体を起こしたルーは両手でグラスを持って、一息に傾ける。
こくりこくりと上下する喉仏に連想するものがあって、…居た堪れなくなり、目を逸らす。性的なことに意識が向いてしまうのはまだ熱が引いていないせいなのだろうか。…まるで性行為を覚えたばかりの猿のようだ。己の浅ましさにうんざりする。
額を抑えて呻る私にルーは無邪気な瞳を向け、ぺろりと伸ばした舌で口端を舐めた。
「昨晩は、すっごくよかったよ。きもちよすぎて飛んじゃった」
「…そうか」
「きみと寝るのに、よくないとき、ないけどね。やっぱりカラダの相性がいいのかなあ? 女の子につっこむのとか、もう考えられないもん」
「……」
「きみにぐちゃぐちゃに掻き回されるのがすき。身体の中から燃やされてるみたいに、あつくて、苦しくて、きもちいいのがすき。もうほかの人とは寝られないなア」
「…私も、お前しか、抱くつもりはないよ」
「えー? へへ…そっかあ…うん」
シーツの上に膝を立て、そこに頬を懐かせて、ルーは笑う。少しずつでも、笑えるようになってきている。
私はルーを抱き寄せて、朝の光の中で、静かな彼の心音を聴く。
泣き虫なルーが、濡れた瞳を肩に寄せ、蝶の羽搏きのように、幾度も瞬く。
結局のところ、彼を地上に留めるためならば、私は何でも捧げたいのだ。




