オレンジクッキー
「全く‥‥‥。何なのよ、もう!!」
私はパーティーから私室へ戻ると、ソファーまで駆けて行き、ソファーの上に置いてあったクッションを殴り続けていた。
「陛下、落ち着いてください」
「これが、落ち着いてられないのよ!!」
クッションを殴り続ける私の目の前に、水の入ったコップが差し出された。
「あれ‥‥‥。レベッカ? いたのね」
「こちらを、どうぞ」
「‥‥‥ありがとう」
私は手渡された水を受け取ると、一気に飲み干した。ソファーに座り直し、深呼吸すると少し落ち着いてくる。
「落ち着かれましたか?」
「ええ‥‥‥。大丈夫よ」
「お腹は空いてませんか? あちらに紅茶クッキーとハーブティーをご用意しましたので、良ければお召し上がりください」
「ありがとう。お腹空いてたのよ」
国王としてパーティーに出る際は、基本的に部下が手渡す飲み物以外は口にしない。
国王でなくとも、自身が主宰者であるパーティーが行われている間は、ひっきりなしに挨拶をこなさなければならず、何かを食べたり飲んだりしている暇が無いのだ‥‥‥。途中でお腹を鳴らすわけにもいかず、かといってパーティーがお開きになって、すぐに食べる物にありつける訳でもなく‥‥‥。食べ盛りの私にパーティーの主宰者はキツかった。
「んまっ‥‥‥。何これ? オレンジピールが入ってるの? レベッカ、あなたも食べなさいよ」
「いえ、私は‥‥‥」
「じゃあ、ハンカチか何かに包んであげるわ。後で部屋で食べてね」
「ありがとうございます」
私は何個かクッキーを布に包むと、レベッカに手渡した。
「今日は、もう下がっていいわ」
「承知致しました。失礼致します」
私はレベッカが帰った後、置いてあったクッキーを摘まむと、いつの間にか全て平らげていたのだった。




