ダンス
「ああ‥‥‥。王位簒奪ですか?」
「いえ、彼ならば陛下のお眼鏡にかなうのではないかと」
確かに、小説の中に出てくるスウェン王子は好きだった。でもそれは、小説の中の話だ。
「冗談を‥‥‥。スザンヌを傷つけた人間を良いと思う訳ないでしょう?!」
「まあ、そう仰らずに1曲お相手してあげてください。そうすれば、少しは大人しくなるでしょうから」
私は渋々頷くと、後に続く招待客の挨拶に答えていた。列が途切れたところで、音楽が流れ始めた。今日は、ステージで生演奏をしてくれるらしい。
「陛下、1曲お相手願えませんか?」
気づくとスウェン・サクフォン伯爵が、目の前に来て跪いていた。手を取られ、下から懇願するような視線で見つめられる。
私が彼のダンスを受けるには、首を少し傾げるだけで良かった。それが、一緒にダンスを踊る上での了承の合図だった。
私は、何故あなたと踊らなければならないの? という意味で首を傾げ、微笑みながら目で貴方とは踊りたくないと訴えてみた。
私の態度を好意的に受け取った彼は、私の手を取ると、ダンスホールへ連れ出した。他の招待客も踊っていたため、ゆったりとした踊りではあったが、彼のペースに巻き込まれる様にステップについていった。
「お上手ですね」
「ご冗談を」
「そんなに見つめられると穴が開いてしまいますよ」
「穴が開いたら見てみたいわ」
「何か、怒ってらっしゃいますか?」
「‥‥‥」
「私は陛下を存じ上げません。今、初めてお会いしました。私は何か陛下のご不興を買うような事をしたでしょうか? 思うところがあるのなら、正直に仰ってください。場合によっては、お見合いを辞退させていただくことも、やぶさかではございません」
小説の中でのスウェン王子を知っていたのは、私の方だ。イメージと噂だけで、決めつけるのは、相手に対して流石に失礼だと思い始めていた。
「‥‥‥私はスザンヌを傷つけた様な人物と、仲良くしたくありません」
「なんだ、そんなこと」
「そんなこと?!」
「失礼。今日は、陛下が友達思いだという事が知れて良かったです。今すぐでなくて構いません。また、お会いしましょう」
「‥‥‥は?」
(まずい‥‥‥。頷きそうになったわ。これがストーリー補正なのかしら)
私が考え事をしていると、サクフォン伯爵は跪き、私の手を取ると指先にキスを落としていた。
「?&@#△」
混乱している私を余所に、彼は颯爽と会場を去って行ったのだった。




