デートのお誘い
「ひどいな‥‥‥」
それから3日後。朝食の席で私の顔を見ていたステファン様は、独り言のように呟いた。
「何が仰りたいのです?」
「いや、今日は休め。これは命令だ」
「‥‥‥分かりました」
私はステファン様に言われた通り、部屋へ戻ってもう一度寝ることにした。自分でも、こんな状態で働きに行って、まともに仕事が出来るとも思わなかった。
この3日間、私は魔王城にある書物を、暇を見つけては片っ端から読み漁っていた。自分の気持ちに答えが導き出せないなら、本を読めば解決の糸口が見えるような気がしていたのだ。
だが、そんな本は見つからなかった。中には古代語で書かれたものもあり、魔族語に慣れていない私は、読めない本も多かった。
「何をそんなに悩んでいるんだ?」
出掛けたと思っていたステファン様が入口にもたれ掛かりながら、こちらを見ていた。
まさか、ステファン様に対する思いを友情か愛情か恩人か‥‥‥。分からないから、本を読み漁っているとは言えなかった。
「いい機会だから、この機会に魔族語を学んでみようかと思いまして‥‥‥」
「それで、夜更かしを?」
「‥‥‥はい。でも、本職に影響が出てしまうなんて本末転倒ですね」
「そうだな‥‥‥。なぁ、スザンヌ?」
「何ですか?」
「明日、天気が良かったら一緒に買い物へ行かないか?」
「買い物?」
「ああ。前に好きなモノを買ってやるって言ってただろう?」
「ああ‥‥‥お仕置きですね?」
「そうだ、お仕置きだ」
私が笑うと、ステファン様も自然に微笑み返してくれた。
「「‥‥‥」」
「約束だからな」
「はい」
ドアの閉まる音が聞こえると、ベッドへ戻り、布団を頭の上まで被ると身悶えていた。
(これって、これって、これって‥‥‥。デートじゃないの?)
布団を撥ねのけたあと我に返った私は、また布団に包まり直し、一人で身悶えていたのだった。




