第51話 大戦争
「前方3キロ、子爵級悪魔指揮官、兵数500、弾込めよーし、風力影響なーし。
撃ち方よーし、発射!!」
超遠距離攻撃型スライムバリスタとローザの弓が火を吹く。
光の雨が空に放たれ、敵陣を観測するスライムの目にもうつる。
空から光の線が、見事に敵兵のいる範囲に集中して降り注ぐ。
これも視界共有によるスライムの測量の結果だ。
突然上空から降り注ぐその光の粒子一つ一つに膨大な魔力が込められた一撃となっており。
完全に油断していた悪魔の魔力障壁を容易く打ち破った。
周囲のスライム達は残った傷つき抵抗もできない敵兵を打倒し、魔素とともに吸収していく。
「長距離射撃は素晴らしい精度になったね」
「このゴーグルで視界を見ながら打てるから、楽ね」
うーん、視界を共有するだけで3キロ先の敵の指揮官を曲射でヘッドショットは出来ないと思うんだけどね……
「東と西の部隊も……問題ないね」
ジンゲンとケイジもそれぞれ一個中隊を引き連れて敵軍を殲滅していた。
男爵級悪魔が指揮していたけど、全く問題がない。
あの二人もこの戦いを終えればSクラス冒険者になれるだけの実績を積めそうだ。
スライムとの特訓よりは、悪魔の相手の方が楽だろうからね……
「さて、俺も頑張らないとね!」
大型の悪魔と小型の悪魔が3体。
子爵級悪魔が自らの騎士を引き連れている大規模な集団を発見し、現在視界に捉えている。
「放て!!」
弓と魔法を打ち込み、俺達は突撃する。
敵方もこちらの攻撃に気が付き魔法障壁を展開する。
降り注ぐ矢や魔法はわざとバラけさせ、周囲に大量の土埃を起こし、視界を奪う。
その隙に機動力のある部隊は左右に展開、俺はわざと正面に立って敵を挑発する。
「かかってこいよ!!」
【人間如きが調子に乗りおって!!】
「水平射撃3連!! 突撃する!!」
先程の曲射を水平方向に打ち込む、そして、歩兵による突撃。
敵軍は三連斉射によって出鼻をくじかれ、こちらの突撃を受ける形になる。
もちろん敵も反撃をしてくるが、こちらの盾兵の防御を抜くことは出来ない、その隙間からやり部隊による牽制を行い、完全に敵の動きを止め、包み込むように敵の動きを封じて密集させる。
そして、回り込んだ2部隊が、敵の背側面に喰らいつく。
前後からの完璧な挟撃、死霊兵たち下級兵士は味方のせいで身動きが取れずに一方的に刈られる。
「隔離!」
敵軍に深く入り込んで悪魔とその部下と、雑魚達を分離させる。
気がつけば、悪魔たちは俺の前に引きずり出されることになる。
周囲は大盾を持った俺のスライム達が囲んでいる。
【わ、わずか一度のぶつかり合いで……!!】
「勝負有り。だけど、このままわけも分からず滅びたくないでしょ?
俺がこの軍の頭だ。
悪魔と騎士たちにこちらの将との決戦を所望する」
【フハハハハハ!! 愚かな!
人間やスライム如きが!!
身の程を知れ!!】
「ああ、そんなこと言って逃げようとするなら、喰うよ?」
転移魔法を発動しようとしてたけど、その術式と魔力をクイーンがぺろりと平らげた。
卑怯だなぁ悪魔は……
【お、おのれぇ!! と、突撃しろ!!】
騎士の姿の悪魔が疾風のような疾さで突っ込んでくる。
その速度、力強さ、普通の魔物とは一線を画す。
キング、プリンス、プリンセス、クイーンがしっかりと敵の悪魔に立ちふさがり、戦闘が始まる。
俺は、再びくだらない事をしようとしている悪魔の元へと短距離転送する。
「もっと軍を率いているものらしく正々堂々戦えよ」
魔力を込めた一撃で再び魔法を破壊する。
【調子に乗るなぁ!!】
虚空から鎌を抜いて奮ってくる。
凄まじい威力の一撃、疾さも申し分ない。
「普通に戦えばいいのに」
ギィンと甲高い音を立てて鎌を弾く。
【死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!】
斬撃は嵐のごとく、触れるものを全て切り刻む。
Sクラス冒険者に劣らないその攻撃の嵐、やはり、悪魔は決して弱くない……
以前の自分なら何をされているのかもわからないままに殺されていたことは間違いない。
しかし、今では……
【なぜだ!? なぜ人間如きが俺の攻撃を!!】
見える。
風を切り、音を置いていく一撃一撃が完全に見える。
見えるだけで鎌の恐ろしさは変わらない、少しのミスで触れてしまえば四肢をとばし命を狩る。
そんな恐ろしいものを避けているという興奮で集中力が増していく。
力の流れを意識する。
振り下ろす、逆袈裟で振り上げる、横に薙ぐ、撚る、刈り取る。
気がつけば、手が出ていた。
ピタ
指先で鎌な刃先をつまむ。
加えられていた力と同等の力を完全な逆の方向で加える。
【なっ……!?】
引こうとすればこちらも引き、押そうとすればこちらも押す。
ひねろうとすれば逆回転にひねり、振ろうとすれば逆の力を与える。
まるでその場で鎌が時間が停止したかのように止まっている。
達人たちの世界の一端を感じたような気がする。
何が起こったのかわからず混乱している悪魔の首をそっと死角から刎ねた……
【ば、馬鹿な……】
しばらく自分が狩られたことにも気が付かなかった悪魔がその生命を終えていく。
悪魔はどうやら死という概念が薄く、再び魔界で復活するらしい。
ただ……
「スライムに喰われるとどうなるのかね?」
悪魔スライムはその問いには答えてくれない。
爵位持ちの悪魔を喰らって、また強大な力を手に入れたことを喜ぶように、震えているだけだ。