第49話 会議
聖国ケイロン。国を興した初代聖王ケイロンの名を冠した国。
国教である主神オペラを信仰するオペラ教によって治世を行われている宗教国家。
最高権力者は大司教で、もちろん教会関係者が絶大な力を持っている。
他宗教に対して目立った弾圧などはしないが、やや冷遇されることは黙認されている。
不浄な存在に対して非常に排他的で、アンデッドや死霊は不倶戴天の敵だ。
死霊スライムは隠して置かなければ……
魔物使いもあまり良くは見られない……
代表者はパトラさんという女性。
冒険者ギルドは治外法権に近いけど、やっぱりオペラ教の信者らしく。
会見前にスライムは出さないで欲しいって言われた……
ガリンダーム帝国。皇帝ガリンダーム8世による専制政治国家だ。
非常に排他的で、人間至上主義。
少数民族であるエルフやドワーフなどはひどい場合は奴隷として扱う。
帝国兵は精強で非常に強い軍事力を持つ。
冒険者ギルドも非常に強い監視下にあるために、他国からBクラス以下の冒険者は入国を避けるように言われている。
現在停戦中で、今回の話がどう帝国の動きを刺激するかわからない。
代表者はものすごい気難しそうなおじさん。
ただ、元Sクラス冒険者で万策秘計のカロストという有名人だった。
ものすごい切れ者だから、余計な発言はするなとのこと。
ってのは全てケイジからのコメント。
この会議に参加させてもらえたのは俺とローザだけなので、コウメイを使ってケイジとコソコソと会話できるようにしてある。
正直、政治なんてわからない。
少なくとも、この場所からさっさと帰りたいくらいには場違いだと自覚している。
ローザも固まっている。
そして、我が国のギルド長は、現職のSクラス冒険者、背の丈を超える巨大な長剣の使い手でドラゴンバスター マリンソルトさん。名前は爽やかだけど、本人は筋肉だるまという表現がぴったりだ。力こそパワーとか言いそうなごついおじいちゃん。
「さて、今王国内で頻発している死霊による対策についての話を始めよう」
「死霊……穢らわしい……王国内で早急の解決を求めます」
「まぁまぁパトラさん、そう結論を急がなくても、王国にもなかなか対応できない理由があるのでしょうから」
「現在のところ、彼、カゲテル氏のおかげで王国内の敵への対応は出来ている。
今回は、同時に彼と隣のローザ氏のSクラス昇格の許可も話し合いたいと思っている」
「ふむ、随分と若いように見えるが……」
「王国はそこまで人が居ないのかしら?」
「Sクラス推薦状である」
二人に渡された推薦状を見ると、明らかに二人の空気が変わる。
「正式な、推薦状なんですよね?」
「もちろん。流石にオリヴァーを騙るバカはおらんじゃろ」
「……異議など挟めるはずもない。認めます」
なにかの書類に判子をして隣の人に渡す。
「私も、認めます」
「もちろん認める。これでカゲテル、ローザはSクラス冒険者となった。
改めて、カゲテル、現在の王国の状態を話してくれ」
この流れは、すでにマリンソルトさんと打ち合わせ済みだ。
王都の消失・悪魔の存在を隠して、王国に起きている現状を説明する。
死霊が各地に出現しているが、自分のスライムや冒険者で対応できており、近いうちに大本への反攻作戦を行う。万全を期すために各国の冒険者の力を借りたい。
そして、平和裏にこの作戦を実行したいので、国としての動きを起こさないように働きかけて欲しい。
って内容を旨いことコウメイとケイジで作った文章で説明した。
「ふむ、Sクラス冒険者の言葉であれば重みが違うな。
よく考えられている」
なんか、すでにバレてそうなんですけど……!
顔には出さない。
「不浄なものがこちらに影響を与えなければそれでいいですが、上手く行かなければオペラ様の正義の鉄槌が下ります」
「帝国も事態の長期化は望みません、こちらに影響が出るなら、国として動くことは止められないだろう」
『簡単に言えば、ごく短期間で終わらせろ、さもなければ侵略するってことですね』
うん、俺にもわかった。
「では、それぞれの国の冒険者、こちらのリストの人物を派遣して欲しい。
ところで、パトラ氏ユキムラ殿はまだそちらに?」
「いえ、残念ながらすでに東の列島諸国へ旅立たれましたわ」
「そうか、残念だ」
「帝国としては、帝国内部に影響を与えない範囲でこのリストを考慮する」
「聖国も同様ですわ」
「感謝する」
「来月にはいい報告が聴けることを祈っております」
「そうですわね」
「……善処する」
こうして会議は終わった。
「あー……こういうのは性に合わん!
最後には言質取られるし……、あの女狐に古狸、示し合わせておったな!」
「期限は、あと2週間ですか……」
「ん? そんなこと言ってました?」
「最後に言ってましたね、来月には終わらせておけよって……」
「もう少し時間をもらいたかったが……冒険者を渡してくるのに1週間なんだかんだ遅らせてくるだろうから……結局は王国内の冒険者だけでなんとかせねばいかんな」
「マリンソルトさん、残念ながらもっと時間がないかもです……」
「なに?」
「失礼します!! 火急の知らせです!」
「どうした。いいぞ、話せ」
「はっ! 敵影に騎士級悪魔の存在が確認されたと報告がありました!」
「こっちは、男爵級と思われる悪魔を確認しています。
皆さんが予想したとおりですね」
「ああ、間違いないな、王都に悪魔の大穴が開いた」