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第29話 涙と約束

「おおぉっ!!」


「しっかりしろ魔王!自分を見失うな!」


魔王の攻撃を回避しながら呼び掛けるも、聞き入れる様子もなく手当たり次第、破壊を続ける。


「無駄だ、既に自我は失われている。そいつは破壊の限りを尽くす化け物だ!」


「くっ!?あんた、魔王の兄なんだろ!?何とも思わないのかよ!」


「ふ、たかが小娘1人失った程度で壊れてしまうならば、そんな者に用は無い。貴様もろとも此処で滅してくれるわ!」


そう叫び、バフォメットは無差別に魔法を放つ。くそっ…隙がない


「がぁぁっ!!」


「…っ!?」


魔法も諸ともせず、俺からバフォメットへと標的を変えて、突撃してゆく


「愚かな…!」


「ぐぎゃっ!?」


易々と魔王の一撃を避けてそのまま地面へと叩き付け、押さえ付ける。くそ…なんて奴だ


「ぐっ…ぬぅぅっ!!」


「ふ…無様だなメリア。人間、貴様は魔王を倒しに来たのだろう?今が絶好の機会では無いか」


暴れる魔王の頭を掴み、持ち上げる。抜け出そうと足掻くもビクともせず、哀れそうな視線を向けながら、バフォメットは言った。確かにそうだ…それがこの世界にとっては正しい選択なのだろう…でも俺は…!


「そうだな、それが勇者の役目なんだろうな…だが俺はそんな事知ったこっちゃない!俺は優花の大切な人を守ると決めたんだ、それが魔王だとしても!」


「…救ったところであの小娘はもう既に死んでいる。貴様のやろうとしていることは無意味「はあぁっ!!」ぐぅっ…!?」


掛け声と共に何かが隣を駆け抜ける。気が付くと獣人のような姿をした少女がバフォメットに一撃を入れていた


「おあいにく様、私はしぶといのがウリでね。メリアさんを救うまで死ぬわけにはいかないの」


「その声…ユーカなのか…?」


「うん、ごめんね勇輝。心配ばっかりかけて…」


「気にするな…俺だってお前の危機に駆け付けてやれなかったんだ。おあいこだよ」


項垂れて呟く幼馴染の頭を撫でて、諭す。あぁ…懐かしいな、こいつが落ち込んだり、泣いてるときこうやって宥めていたなぁ…


「…ありがと。えへへ…やっぱり優しいね勇輝は」


顔を上げ、ニコリと笑う優花。変わらない陽だまりのような笑顔で…あぁやっぱり俺は優花が好きなんだな


「おう、俺は優しいのが取り柄だからな…というか、その姿は一体」


「シルバ達と融合した。人獣一体っていう魔獣使いの力なんだって」


「そうなのか…じゃあその力でさっさと魔王を救ってやろうぜ」


そう言うと、一瞬だけ驚いた顔をするが直ぐに笑顔で頷いた


「…人間ごときが俺を無視するとはな、舐めるなぁ!!」


怒号が響き、バフォメットが刃を振り下ろす。早い…だがっ!


“ガキィンッ!!”


「ちぃっ…!」


師匠の太刀筋よりは遅い…って言ってもギリギリだけど。捌けない訳じゃない


「優花、コイツの相手は俺がする。だから…さっさと魔王を止めろ!」


「でも…っ」


「早く行け!お前がやらなきゃ誰がやる!愛してるんだろ、あの人を!」


「ごめん…勇輝!死なないでね!」


そう言い、優花は魔王の元へと飛んで行く。やれやれ…俺の恋は叶いそうもないな、分かってはいたけど


「さぁて…第2ラウンドといきますか!バフォメットさんよ!」












「メリアさん…」


「グガァァッ…!」


最愛の人の名前を呼ぶも、彼女は殺意と破壊を宿した瞳を此方に向け唸る。いつもの優しくて暖かいあの人の面影はどこにもなかった…でも


「これもメリアさんの一部…なんだよね」


“主、来ます!”


「ウガァァッ!」


「くぅ…っ!」


ノワの警告と同時に、メリアさんが眼前に現れ、拳を振るう。間一髪で受け止めるも、大きく後退する


「なんて力…っ!」


“気を付けてください、我が主。直撃を貰えば致命傷は免れませぬ”


「みたいだね…でも避けてばかりじゃ…きゃあっ!?」


会話もする間もなく次々と拳が襲い掛かる。何とかかわせているがこのままじゃ埒があかない!


「メリアさん、ごめんなさい!」


「グウゥッ!?」


前に突き出された拳をしゃがんで回避、鳩尾目掛けて突きを放つ。直撃し、呻き声を上げるも、即座に体勢を立て直し此方を睨み付ける


「はは…流石メリアさん、頑丈だなぁ」


“我が主、力の制御は我々がやります。貴女はありったけの想いを…貴女の言葉を魔王にぶつけて下さい”


“さぁ主、魔王を救いましょう”


「うん。…メリアさん、私の所為で苦しんでるんですよね…待っていてください、今助けます!」


大地を強く蹴り上げ、駆け出す。まずはどうにかして動きを止めなきゃ


「オオォォッ!!」


咆哮を上げ、禍々しい闘気を纏う。いつか街の不良に放ったものとは比べ物にならないくらいの殺気、でも私は恐れない…!貴女を受け入れると決めたから…!


「はぁぁっ!」


「オォォッ!!」


拳の弾幕を掻い潜りながら、一瞬の隙を突き、距離を詰めて暴れるメリアさんを抱き締める。引き剥がそうと背中に爪を立てられた痛みに顔を歪めるが、こんなことで怯んじゃいられない。メリアさんに与えてしまった心の痛みに比べれば…っ!


「グウゥッ…ウガァァッ…!!」


「メリアさん…私は貴女を悲しませてしまった、ごめんなさい。でももう間違わない…貴女を1人になんて絶対にしない…っ!」


「ムゥッ…!?…ッ!?…ッ!」


力強く叫び、メリアさんを抱き寄せ、キスを交わす。暴れていたが、段々と収まっていき、それに伴って邪気が消えていく


「はぁ…っ。メリアさん」


「…ユー…カ…?ユーカなのか…?」


そう問いかけるメリアさんの瞳からは殺気が消えていた


「はい…良かった、正気に戻った“パシィィン!”…ふぇ…?」


鋭い痛みが右頬に走る。一瞬何が起きたのか分からず立ち尽くしてしまった。段々と熱を伴っていく頬に、叩かれたのだと理解した


「この馬鹿者…何故あんな無茶をした!下手をしたら死んでいたのだぞ!!」


「ごめん…なさい…っ」



「…愛する者に置いていかれるのは…もう嫌なのじゃ…っ!」


流れる涙を拭うこともせず、私の胸倉を掴み彼女は畳み掛けるように叫ぶ。あぁ…私が与えた傷は思っていたよりもずっと深かったんだな……


「だが…良かった。生きていてくれて…もう会えないのかと…うぅ…ぐすっ…」


消え入りそうな声で呟き、私の胸に顔を埋めてすすり泣く


「ごめんなさい、本当に…ごめんなさい…」


そんな彼女を謝罪の言葉を述べながら、ただ抱き締めていた








「落ち着きましたか?」


「うむ…すまないなユーカ」


落ち着きを取り戻したメリアさんは、苦笑し私の頭を撫でる。あぁ…私の大好きなメリアさんだ…


「いえ、私の方こそごめんなさい…貴女を悲しませるような事をしてしまって」


「その事はもう良い。だがあのような真似は2度としないでくれ。約束だぞ?」


「はい…約束します」


「よろしい…ところでユーカよ。状況はどうなっておる?兄様と勇者はどこに」


「え…あの人、お兄さんなんですか!?どうして争っているんですか?」


「妾は人間との共存を望むが、兄様は人間を滅ぼすことこそ平和に繋がると考えているからの、争うことは必然なのだよ」


そう言い、寂しそうに微笑むメリアさん。たった一人の肉親と戦うなんて辛いに決まってる

メリアさんは…どうしたいですか?」


「妾はこの戦いを終わらせたい…魔族の未来のために「そうじゃなくて…“魔王メリア“ではなく貴女自身に聞いてるんです」


「妾自身…?」


「はい、もう一度聞きますよ?貴女はどうしたいですか?」


「妾は…この不毛な争いを終わらせて…兄様と一緒に居たい。昔のように…泣いて笑って、喧嘩して…何でもない平穏な日々を過ごしたい」


ポツリポツリと自分の思いを紡いでいく。なら私のやることも決まっている


「大好きなんですね?お兄さんの事」


「あぁ…半端な妾を家族として迎え入れてくれたからな……あ、もちろん一番はお主だからな!」


ハッとなり、慌てて弁解するメリアさん。あぁ…可愛いなぁ


「ふふ、そんなに必死にならなくても大丈夫ですよ。貴女の愛情はきちんと私に届いてますから」


「う、うむ…なら良かった」


「さぁ行きましょう、メリアさん。貴女が望む未来を掴みに!」


「あぁ!」


力強く頷き、勇輝達の元へと駆け出した




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