逆行転生
崖から身を投げた時の、風の音と胸を締め付けた絶望。
忘れられないその記憶。
私は所謂悪役令嬢というものだった。
公爵家の長女として生まれながら、両親に疎まれて…愛を一身に受ける妹を激しく虐げた。
いけないことだとは、わかっていた。
それでも許せなかったのだ。
その結果、それを知った私の婚約者であった侯爵家の次男の男から私は見放された。
ある日、理由は私には知らされなかったが妹が「妹の婚約者」から婚約を解消された。
すると私の婚約者は待ってましたとばかりに妹に走った。
両親も私と婚約者の婚約解消、妹とその人の新たな婚約をすんなり認めた。
全てを失って狂った私は崖から身を投げて…けれど、次に目を覚ました時。
「…あれ?なんで私生きてるの…」
見覚えのある、幼少期を過ごした公爵家の自室。
鏡に映る私は、まだ妹への嫉妬に狂う前…いじめをする前の小さな頃の姿。
婚約者すら決まっていない頃の、ただ理不尽な姉妹間格差に泣いていた頃の、私。
「逆行転生」そんな単語が思い浮かんだ。
そして、頭に濁流のように流れてくる記憶。
逆行転生前の、妹を虐めていた前世。
そしてその前の、「現代日本」とやらの前前世。
物語の向こうの、推しを愛していたオタクの記憶。
(あ…ああ!そっか、私…!)
「姉妹間格差の物語」…愛されない姉から虐げられる、姉以外の誰からも愛される妹がヒロインの悪役令嬢ざまぁモノ。
なるほど、私はその世界にざまぁされる悪役令嬢役として抜擢されたらしい。
なんだか、気が抜けてしまった。
「最初からそういう役割、だったのね」
そしてもう一つ、大切なこと。
その物語の、私の推しだった人。
妹の、元婚約者。
貴族の生まれで、家を継ぐ身でありながら生涯を医学に捧げると誓った男。
コンスタン・ブノワ・ユニヴェール。
愛されたがりの妹に「冷たい」と言われて、お互いのためにと円満な婚約解消を選んだその人。
前世で妹と破局した人は、前前世で私が愛した人だったのだ。
「ああ、もうどうでもいいわ。姉妹間格差も、妹も、元婚約者も、どうでもいい。ティノ…コンスタン様への愛がこの胸に戻ってきただけで、もう十分」
この逆行転生は、この愛のためのものだったのだ。
前世も、前前世も。
そう思うことに決めた。
復讐も報復もいらない。
そもそもざまぁされて仕方ない悪どい女だったのだから。
ただ今世は誰にも迷惑をかけず、ティノに愛を捧ぐ人生になればそれでいい。
私は私を嫌う両親に、ある直談判をしに部屋を出た。
胸にあるのは、絶望ではなく希望。
我ながら、身勝手なモノだと思う。




