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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第一章 はじまりの春編
26/84

第二十ニ話 おつかれ……。 長い長い一日の終わりに

新章開幕! のくせにタイトルはすっかり最終回……。


 名前のない街――無名都市を見下ろす小高い丘にて。 

 心地よい海風が吹き抜ける春の海は太陽の光をキラキラと反射して穏やかな表情をみせていた。


 こうして見ると、この街だって海のみえる普通の街に見えるんだけどなぁ〜。

 ちょっと疑問に思ったんだけど、ここって、魚釣りとかできるのかなぁ? あ、いやでも、麻薬まみれの水とか流れてそうだしな……。

 それを摂取した小魚が巨大化……そして、モンスターになって海賊街を壊して壊して暴れまくる――なんてことないよね? いや、でも、ここ異世界だしなぁ~、ワンチャンありえそうなんだよな~。


「――木材は予定通り、明日には搬入してやる。ベルリオーズ、テメェはくれぐれも座標を打ち込む位置を間違えるなよ。民家にでも落としたらトラウマを見ることになるぜ」

「分かっています、師匠」

「ま、テメェは大丈夫か……。おい、愛知 乃香」


 いらん妄想をしながらボケーッと海を眺めていると突然、背後から師匠さんに呼びつけられる。

 なんだよ! 今、ちょうど正義の味方(笑)の師匠さんがモンスター化した小魚に戦いを挑むところだったのに!!


「――は、はい!」

「なに、ボケーッとしてんだよ」

「す、すいません……」

「まぁ、いい。乃香、手ぇ出せ」


 私は師匠さんに言われた通り、右手を差し出す。

 すると、彼女は小石より少し大きいくらいの透き通った琥珀色をした綺麗な結晶がはめ込まれた奇妙な『目』の形をしたペンダントが付いたネックレスをそっと手のひらに置いた。


 これは確か……『ホルスの目』だっけ? あと、なんだろう……? 宝石? 水晶かな?


「えっと、これは……?」

「オレからテメェに“親愛の証”ってやつだ。オレはテメェのことが気に入ったからな。気に入った奴にはソレをやることにしてんだよ。綺麗だろ?」

「はい、とっても……。ありがとうございます」

「テメェはそれを使わない、そんな人生を歩んでくれることを祈るよ」


 師匠さんは含みのある言葉を残して、丘を後にする。

 白黒の頭髪に漆黒の外套を身に纏いながら街に向かう彼女の姿はまるで『死神』のようだった。

 

 ――使う……。いったいどういうことだろ? 

 うーん、よく分かんないけど、気に入ったって言ってもらえるのはとっても嬉しいことだ。


「――ノカ。ここにまた来るのは自由だけど、くれぐれも一人でいかないこと。かならず、ベリーを連れて行くのよ、いい? 分かった?」

「分かりました。というか、こんなおっかない街、一人で来るわけないじゃないですか」

「それもそうねぇ〜。それじゃあ、行くわね。ベリー、ノカのことをちゃんと守ってあげるのよ」

「お任せを――」


 ベリー村長は恭しく頭を下げると、フレアちゃんは師匠さんの後を追って、飛んで行った。

 二人を見送り、姿が見えなくなったところで、ベリー村長がそっと声を掛けてくる。


「じゃ、乃香村長。僕達も戻りましょう。我が家に――」

「……はい!」


 私は大きく頷くと、軽トラの方へ歩きだす。

 次いで、ベリー村長も私と並んで歩きだす。


 もう、彼の背中を追うだけの私じゃない。これからは、彼の隣で一緒に歩くんだ。 

 こうして、二人の村長は潮風と共に無名都市を後にした。


・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 その日の夜、私は皆が寝静まった頃合いを見計らって、勝じいの家から焼酎とグラスを失敬して一人、『忘れじの丘』の一本松の根元に座っていた。

 満点の星空の下、今日一日を振り返る。


 『今日』という一日はこの世界に来てから一番長い日だったかもしれない。

 たくさんの出会いをした。そして、私自身の気持ちにも大きな変化があった。

 責任を負うことの覚悟ができないまま走り続けた私の人生の今日、終止符が打たれた。

 『村長』としての私の背中には多くの命と生活が懸かっているんだっていう自覚(おもみ)を知った。

 そして、逃げることを止めて、向き合う勇気をもらった。


 まぁ、その対価がいい歳こいた女子大生の失禁じゃ、割に合わない気もするんだけどね……。


「――――ふぅ……」


 なみなみに注いだ焼酎をぐい吞みしてほっと一息。

 なんだか、今日は良い一日だったけど、すごくすごく疲れた……。

 

 私は松の根元を枕にして、ごろんと仰向けに寝転がる。

 視界に広がるのは松の枝の影と満天の星空だけ――虫の声すら聞こえない静かな夜。


「………………」


 星の瞬きを目で追いながら、私は無言で夜空を仰ぐ。

 こうやって、何も考えずボーっとする時間が人生には必要だとしみじみ思うあたり、私もずいぶんと歳を取った……まだ、二十歳だけど。


 いや、でも、二十歳って意外と自分が「ああ、年取ったな~」って思う時期なんですよ。

 今、中高学時代とか思い出すと、なんであんなに元気だったんだろ~? もう、今、あんなことできないよぉ~ってノスタルジックな気分になるんですよ。

 だんだん、ため息と「きっつ……」が癖になって来た時にはいよいよオバサンの仲間入りも近いって悟りましたね~。

 

「いやぁ~、歳は取りたくないねぇ~」


 なんて、おっさんみたいなことを呟きながらもう一杯焼酎を飲もうと、よっこらせと言いながら身体を起こした時だった――。

 背後で誰かが草を踏みしめる音が耳に入る。音はちょうど私の真後ろ、松の木の影から聞こえてきた。


 こんな時間に誰だろう? げんき村の皆は寝てるだろうし、カルルス村の人? あ、もしかしてベリー村長かな? 私を驚かそうと松の木に隠れてるのかも!?

 その手には引っかかるか! 私から行ってやる! と、私はできるだけ音を立てずに立ち上がると、一気に松の木の後ろ側に回り込んで、大声を出す。


「――――わッ!!!」

「――きゃああああああああああ!?!?」


 へっへっへ……作戦成功! 私を驚かそうなんて百年早い――……んッ? きゃあ……?


 ふと、私は自分が驚かした人物の悲鳴に違和感を覚える。

 その悲鳴は誰がどう聞いても私と同じ年の成人男性のものじゃない。

 甲高くてどこか幼い少女のような声……。


「あっ……」

「えっ……」


 月明かりが声の主の姿を明らかにする。

 そこにいたのは金髪高身長の男性ではなく、赤いモンペ服を異世界風に着こなした黒髪ロングでどこかミステリアスな雰囲気を漂わせたマリアちゃんと同じくらいの少女(ロリ)だった。

 少女は私が驚かした時に尻もちを着いてしまったらしく、一瞬、「しまった!?」という顔した後に少し顔を赤くしてこちらを睨んでいる。

 多分、見られたって思って恥ずかしがってるんだろうな。


 ――うん! 文句なし! 可愛さ120点!!


「あ、ロリだ。こんばんわ~」

「なんだその挨拶は……。普通に挨拶できんのか」

 

 少女は顔の割にはやけに年寄りじみた、というか勲おじいちゃんみたいな喋り方で答えた。

 この際、なぜ突然現れたとか、どうしてモンペなんて履いているんだとか、なんでこんな時間にこんな場所にいるんだとか、んなこたぁどうでもいいんだよ! そこに少女(ロリ)がいる、これが一番重要だ。

 私は少女と更なるコンタクトを試みる。


「お嬢ちゃん、お名前は? こんな時間に何してるの?」

「…………私の名は“サチ”。見ての通り散歩をしている」

「こんな時間に?」

「そうだ、こんな時間だからだ。貴様こそ、このような時間に独りで酒を仰いでいるとは大層な身分だな愛知 乃香」


 少女は自分の名前を“サチ”と名乗った。この世界の住人にしてはずいぶん日本人チックな名前をしている。

 そして、およそ年齢に似つかわしくない喋り方してるし、しかも、どうして私の名前を知ってるの? この子とは初対面のはずなのに……。


「ま、私は今日の反省をね。今日一日、忙しかったから……。えっと、ロリちゃんだっけ?」

「サチ、だ! どうして数秒前に聞いた名前を忘れるんだ!」

「あぁ、そうそう、サチちゃん。サチちゃんはどうして私の名前を知ってるの? 私とあなたは初めましてのはずだよね?」

「貴様は私達の村の村長だろ。村人の私が知らないはずがないだろ」


 サチちゃんは呆れたようにため息を吐く。

 そっか、この子、村の子だったのか……あれ? でも、マリアちゃん達と遊んだ時、この子はいなかったはず……。

 うん、いなかった。あの場にいなかったってことは――。


「分かった! あなた人見知りでしょ? だから、マリアちゃん達とも一緒にいなかったんだ!」

「勝手に決めつけるな! 私は人見知りなどではない! 厭世的なだけだ。煩わしい人の世との触れ合いを嫌っているだけだ。それに、私とあのガキ共を一緒にするな」

「ガキ共って……あなただってマリアちゃんと同じくらいの歳じゃない。仲良くしなきゃ」

「あのな、私は1500年の時を生きているのだぞ? 貴様だって私から見れば赤子同然なのだぞ」


 …………あ~、分かった。この子、あれだ。中二病だ。

 それで、周りにハブられたんだけど、プライドが高いもんだから「別に私が嫌われたわけじゃねーし! 私があいつ等を嫌っただけだし!!」みたいな感じで意地張ってるんだ。

 この時間の『散歩』もちょっと悪ぶってみたけど、実は誰かに見つけて話しかけてほしくてやってるに違いない! そうだ! そうに違いない!!

 ここで、彼女をかまってあげることはロリコンの私ならばいとも簡単にできよう! しかし! ロリちゃんには真っ当な道を歩んでもらいたい!! だからこそ、ここで私は心を鬼にして彼女に箴言しよう!


 それは、師匠さんとに出会いで目覚めた『村長』の自覚と覚悟が『ロリ万歳ぃ! ロリ最高ぅ!!』という本能を抑え込んだ奇跡の瞬間だった――。


「…………サチちゃん」

「な、なんだ……!? 急に神妙な顔をして!?」

「個性は大事だと思う……うん、とっても大事。でもね、その生き方、辛くないかしら? 誰からも認められず、誰も認めず、独りでいるのって本当に辛いと思うの。本当はマリアちゃん達と仲良くしたいのよね? 大丈夫、最初はちょっと勇気がいるけど私も応援するから」

「待て、なんで私が同情されてるんだ? なんで、私が可哀想みたいな雰囲気になってるんだ? 違うからな? 私は本当に――」


 なおも心を開こうとしないサチちゃんを私はギュッと抱きしめる。

 そう、彼女の心は簡単には解けないだろう……。

 だが、この決意を新たにした愛知 乃香! きっと、救ってみせる!! 暗く閉ざされたサチちゃんの心を!!!


「大丈夫、私は味方よ!」

「おーい、話を聞けー。なんでこうなるんだー。というか、離れろッ!!」

「わッ!? ……心配いらないわ! 私はあなたの個性を受け止めるわ!! だって私はそう! ロリコンなのだからッ!!」


 突っぱねられても諦めない! 私は腕も大きく広げて「ハグ……しよ♡」のポーズをとる。

 少し距離を置いたところでサチちゃんがすごく怪訝そうな顔をしてこちらを睨む。

 しばらく、見つめ合った後、ようやくサチちゃんが折れたのか、深いため息を吐いて吊り上げていた眉を下ろす。


「はぁ……貴様と話していると“ヌギル”を思い出して不快になる。もう、帰る。ではな――」

「ヌギルって誰?」


 サチちゃんは私の質問には答えず、踵を返して背を向けて歩き出す。

 なんだよぉ……つれないな~、なんて思ってると、彼女が何かを思い出したのか、ふと歩みを止めて顔だけをこちらに向ける。


 おっ? これは、脈アリか!?


「――愛知 乃香。最後に質問だ」

「はいはい~、何なりと~! ロリちゃんからの質問ならお姉さん何でも答えちゃうわよ♡」

「サチだ! わざと間違えてるだろ貴様!? ――んんっ! いかんな貴様といると呼吸を乱される……」


 サチちゃんはわざとらしく咳ばらいをして、今度はこちらに身体を向けた。

 その表情は悲しんでいるようにも見えるし、怒っているようにも見える。


「――愛知 乃香。貴様は元の世界に帰りたいとは思わんのか?」

「……えっ?」

「貴様とて望んでこの世界に来たわけではあるまい。あちらの世界に残した友や家族、その者達ともう会わなくてもいいのか? 貴様が望むのであれば、今すぐ私の力で送り返してやるが?」

「………………」

  

 サチちゃんはまるで私を試すかのような口調で問いを投げかけた。

 確かに、この世界に来たのは私の意志じゃない。巻き込まれて異世界転移したんだ。

 あちらの世界に残した京子――今頃、血眼で私を探しているだろう。弟だってそうだ、きっと、心配してくれてる。


 ――だけどっ!!


 私はその場にどっかりと胡坐を掻いて、グラスにギリギリまで焼酎を注いで、一気に飲み干して地面にグラスを叩きつけるように置く。


「せっかくのお誘いだけど、お断りさせてもらうわ。ここでカルルス村をほっぽりだして帰る私をあいつらは許さない。なにより、ここで投げ出したら私が私を許せなくなる。だから、帰りません。私は自分の役目から逃げないわ――」


 私はサチちゃんに向かって静かに言い放った。

 せっかくの提案だが、私は元の世界に帰るつもりなんて毛頭ない。

 私の言葉を受けてサチちゃんは一瞬、驚いた顔をしたがすぐに含みのある笑みを浮かべる。


「ふんッ! 面白い……。その威勢と信念、いつまで続くか見物だな。その想いが折られ砕ける時が楽しみだ」

「もう~、サチちゃんったら素直じゃないんだから♪ それって中二病的に『がんばれよ!』ってことでしょ? うん! お姉さん頑張っちゃうから!」

「どういう解釈をしとるんだ!? 頭がめでたいにも程があるぞ!? ――んんっ! 兎角、これで失礼する」


 あぁ……締まらないなぁ、もう! と愚痴りながらサチちゃんは身をひるがえすと夜の闇に溶けるように姿が消えた。 

 それは、まるで魔法のように――いや、魔法を使ったんだ。

 あの子、魔法が使えるんだ……ってことは中二病は中二病でもリアルなやつじゃんッ!! そりゃ、こじれますよぉ~! あっはっはっは!!

 …………ん? なんだが、あたまがふわって――すぅる。


 ――ふと、酒瓶を見る。

 それは、焼酎は焼酎でもアルコール度数が四十五度の焼酎の原酒だった。

 私はそんな酒をこの短時間でグラスに二杯も一気飲みしてしまっていたのだ……。


「あひゃ、そりゃ……酔っぱらう……わ――――っ」


 瞬間、抵抗し難い睡魔に襲われて私はその場に倒れて意識を失った。


~乃香の一言レポート~


 身体と元気は消耗品――二十歳になると、元気が無くなるだけじゃなくて体の節々も痛んでくるんですね。

 精神的に疲れやすくなったのと運動不足が原因と思われていましたが、もしかして違うかもしれません。

 それというのも、勝じいや和子おばあちゃんが私に会うたびに言うんです。


 「乃香ちゃんといると身体の痛みがウソのように消えて元気になるよ!」と……うれしーですね。


 つまり、彼らは知らないうちに軟骨成分と元気を私から奪取(ドレイン)してい可能性があります。

 油断も隙もあったものじゃありません。今度、会ったら返してもらおうと思います。


 次回の更新は5月2日(水)です! 次回もお楽しみに!!

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