第二十一話 なんかちがくね……? ガールズトーーク!
前半はまだシリアス、後半からはいつも通り(?)の主人公が帰ってきます。
*
カルルス=ベリー……。
本名は“カルルス=ブアイン=ベルリオーズ”っていうだけどね。
アイツは幼い頃から『兵器』として育てられた。
父親がね、狂っていたのよ――己の権力の為に実の息子すら兵器として利用しようとするクズ野郎でね。
生物兵器って言葉が相応しいわ。感情なく、思考するのはより効率の良い対象の殲滅方法のみ…………。
そんな親の元で育てられたアイツは、一言でいえば『機械』だったわ。
命令が下れば、その通りに殺戮していく漆黒の鎧を纏った兵器……それがアイツ、『黒き牙獣のベルリオーズ』。
そんな存在があると、世界が危ない。アタシ達はベリーを――いいえ、『ベルリオーズ』を粛清するためにこの世界にやってきた。
そこで、まだ兵器として動いていた頃のベリーに出会ったの。
アタシは難儀な生物もいるもんだ、なんて思いながら一思いに粛清してやろうと思った。
でも……………、
いったい、誰の姿を見たんだが……アイツはベリーを殺さず、半ば拉致する形で弟子にしたわ、そして、自分の仕事に付き合わせた。
アタシは反対したわ。そんなモノを連れていてはロクなことが起こらないってね。
でも、その時のアイツは見たことないぐらい必死になってベリーを教育していた。贖罪をしてるようにも見えたけどね……。
流石のアタシも折れたわよぉ〜、あんなに必死なアイツの姿を見てたらね……。
そうして、世界を跳び回るうちにベリーは多くの物に触れ、多くの人に出会い――そして、別れ……アイツは少しづつ“人”の情を理解し、身につけていったわ。
その後、ベリーは自分の生き方を見つけたいって言って、元の世界に戻って父親から離れて祖父が開いた村の跡取りになったの――。
今じゃ、生意気は言うし、無茶は言うし、師匠には逆らう問題児になったけど、アイツもアタシもそれで良いと思ってる。
人間って、あぁじゃなきゃダメだってね♪ まぁ、人ってのは少しくらい手に余るほうが愛着が湧くのよ。
これが、私がフレアちゃんから聞いた、ベリー村長の過去である。
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・・・・・・
・・・
「――さ、話も服の乾燥が終わったわよ。もう、いつでも出てきて大丈夫よ」
「あ、はい」
お、ちょうどいいタイミングで終わったな。
私は浴槽のドアを開ける。
「ふぇーい〜、さっぱりしたぁ〜!」
フレアちゃんから聞いたベリー村長の過去――それを聞いたことを私は彼に黙っておこうと思う。
だって、それを話したところで私とベリー村長の関係が良くなるなんて思えない。彼に余計な気を遣わせるだけだ。
それに、村長の過去『カルルス=ブアイン=ベルリオーズ』の話を聞いたが「なるほど、大変だったね」なんてくらいの薄情な感想しか持てない。
同情も憐憫もしない――だって、今の村長がいい感じなんだから、別にいいじゃん? って思う。
所詮は私の好奇心からきた些細な話だ。村長の過去を知ったからといって、これからの対応を変えていこうとか、少しは気を遣おうとか、そんなことは思わない。
私は今の彼と、彼は今の私とそれぞれの向き合っていけばいいのだから…………。
「お風呂上がりはビールが飲みたい〜♪ ららら〜♪」
欲望むき出しの歌を歌いながら脱衣所にでるも、きれいに畳まれた衣服とバスタオルがなんと、宙に浮いていた。
おぉ! すげぇ! でも、ビールが浮いていたらもっとすげぇって言えたのに……。
「なにこれ?」
「なにボケっとしてるのよ。さっさと身体拭きなさい。風邪ひくでしょ」
「あっ、おかあさ――フレアちゃん。ありがとうございます」
服とバスタオルが浮いていたのは、フレアちゃんがそれらを持ちながらホバリングしていたからであった。
そして、間違えてフレアちゃんのことを「お母さん」と言いかける。
いや、だって、本当にお母さんみたいなんだもん。仕方ない仕方ない!
「アンタ、今アタシのこと“お母さん”って言おうとしたでしょ。まったく、せめて“お姉さん”にしなさい」
フレアちゃんもまんざらでもないって顔をしている。
なら、遠慮なく――、
「はい、フレアお姉ちゃん!」
「〜ッ/// わ、悪くないわね……! ――じゃなくて! さっさと、服を着なさい! 年頃の女の子が下着一枚でうろつかないの!!」
「は〜い♪」
フレアちゃんは顔を赤くしながら私に怒鳴る。
いや〜、ナイスTU☆N☆DE☆RE!
なにこの生物? 可愛い過ぎかよ〜ッ! あぁ! もう、抱きしめてぇ! 撫で回してぇ!! クンカクンカして――ッ!!!
「邪気退散ッ!!」
「Oh♡ ありがとうございますぅ!」
フレアちゃんが私に思いっきりバスタオルを投げつてくる。
思っていたのより十倍くらい強い衝撃が身体を襲う。
が、それでも――――、
ありがとうございます! 我々の業界ではご褒美ですぅ!!
その後、フレアちゃんにドン引きされながら着替えが終わり、脱衣所から出て店内に戻る。
カウンター席にはベリー村長と師匠さんが新しいグラスを手に何やら話し合っていた。
粗相をした手前、どうにも気恥ずかしく、声を掛け損ねていると、師匠さんがこちらに気づいて、無邪気でどこか凶暴な笑顔を向ける。
「よう、愛知 乃香。ションベンはちゃんと洗い流したか?」
「えぇ……はい。ありがとうございました」
「そいつは、上々。――で、範囲についてだが……」
師匠さんはイジワルだけ言うと、ベリー村長と再び話し込む。
ベリー村長もこちらに一瞥くれるとまた、すぐに師匠さんの方を向いてしまう。
……なんか複雑な気分。
確かに村長から声を掛けられるのは恥ずかしくて死にそうだなぁ~って思っていたけど、チラ見だけってのも、それはそれで傷付くなぁ。
うん、我ながら女心は面倒くさい!
「――ほら、こっちにいらっしゃい。髪がまだ濡れているわ」
「は、はい……」
私はフレアちゃんにテーブル席に座らされると、いつの間にか手にしていたヘアブラシで髪を梳かしてもらった。
しかも、ドライヤー代わりに温風の魔法を使ってもらうという贅沢仕様。
この人(?)はよほど、人の世話を焼くのが好きなのだろう。どこまで、おかんなんだ……!
「まったく、あのバカ共は仕事の話になると他人のことなんかお構いないなんだから」
「そ、そうですね」
「――――ねぇねぇ、アンタ。ベリーのこと好きなの?」
「へ? はッ――!? えっ!? な、なにを聞いてるんですか!?」
暴力的ともいえるドストレートな言葉を耳元で囁かれ、私は動揺する。
もちろん、ここで聞かれているのはベリー村長に対して相棒としての好意的か? なんてつまらないことを聞いてるんじゃない、男女の関係――つまりは異性として好意的か? と問われているのだ。
いわゆる『恋バナ』というやつである。
ガールズトークでは定番中の定番といえるが、私、愛知 乃香、人生初の恋バナである。
「どうなのよ? ほら、言っちゃいなさい……! この距離なら聞こえないから」
「……えっと、そのぉ~…………」
耳元で囁くフレアちゃんの声が急に小悪魔のような妖艶さを纏う。
「髪を梳かしてあげるんだから……動いちゃダメよ♡」とフレアちゃんがふわっとした吐息を私の耳元に当ててくる。
瞬間、手足は自由だし、口も全然開ける――なのに、彼女のその一言でまるで見えない縄に全身を拘束されたかのような感覚に陥る。
逃げられない……! 恐怖はないものの、心の中でそう確信した。
「このままアンタに自白の魔術をかけて白状させることはできるけどぉ……やっぱり、ガールズトークは自由にやらなくちゃね。ほら、女同士、腹を割って話しましょ」
「ふ、フレアちゃんはどうなんですか? ほら、その昔の相棒と恋に落ちたりとか――」
「はい、話を逸らそうたってそうはいかないわ。今は、アタシのことはどーでもいいのよ。大事なのはアンタのキ・モ・チ、なんだから」
耳元で蕩けるような声をフレアちゃんが漏らす。
先ほどまでのおかんキャラはどこへやら、今はすっかり魔性の妖精とかしている。
「と、というか! なんで急にそんなことを聞くんですか!?」
「だってぇ、アンタってばベリーの話をしてるとき相づちも忘れるくらい真剣に聞いてたじゃない? それって、そんだけアイツのことを想ってるって証拠でしょ?」
「いや、その……そりゃ、興味深い話だから聞き入っちゃっただけで、別に――」
「じゃあ、ベリーのこと嫌いなの?」
小悪魔チックに問いかけるフレアの声はスゴく、スゴ〜く愉しそうだった。
というか、だんだん頭がぼんやりしてくる…………。
うん……まぁ、別に――話したって……いいんじゃ、
「そ、その聞き方はズルいです……よ」
「いいじゃない、素直になりなさいよ。さ、言っちゃいなさい……ほら、ほぉら♡」
「わ、私は……ベリー村長の、こ、ことが――」
「うんうん、ベリーのことが――?」
「――テメェ、何してやがる……?」
突然、私の背後からドスの効いた声が降り注いだと思ったら、髪を梳いていたフレアちゃんの手が急に止まる。
同時に、とろんと蕩けていた意識がパッと元に戻り、思考力が回復する。
あ、あぶねー!? 危うく、喋っちゃうところだった!
よく分かんないけど、助かったぁ〜……!!
私を救ってくれた恩人の姿をひと目見ようと振り返る。
すると、師匠さんがフレアちゃんの服を摘んで持ち上げていた。
白い服で胴体から吊られているフレアちゃんはてるてる坊主のようだった。
「わっ!? ちょっと! 何すんのよ!? 服をつまむなッ!!」
「そりゃ、こっちの台詞だ。人が目を離した隙に乃香に魅了なんざ使いやがって。油断も隙もあったもんじゃねぇ」
「あはは……ばれてたかぁ~。ノカが可愛くてね、からかいたくなっちゃって、テヘ♡」
「乃香、こいつは姿こそファンシーなアホ妖精だが、中身は正真正銘、本物の悪魔だからな。気を付けろよ」
悪魔、たぶんそれはフレアちゃんの性格的な意味ではなく、種族的な意味での『悪魔』なのだろう。
しかし、悪魔っていたんだ……本当に。
でも、私の知ってる悪魔って角が生えて、尻尾があって、蝙蝠の翼が生えたおどろおどろしいしい姿ばかり想像してたけど……。
こんなに可愛らしいなら、悪魔も――うん、アリだね♪
「ま、どっちにしろ今回のことは報告もんだな」
「ま、待って! それだけは止めて!! 止めてちょうだい!!」
「並行世界保安条例第二十四条『特例、緊急時を除き、いかなる理由があろうと一般人に魔術、魔法を行使することを禁ずる』。条例違反だ、諦めろ」
「お願い! 止めて! いえ、止めてください!! でないとまた、アイツに『お前は一緒に冒険していた時から何にも変わってないな、よし役職の期間を延長する』なんて言われて、またアンタと仕事しないといけなくなるぅ~!!」
フレアちゃんはてるてる坊主状態で手を合わせて懇願するが、師匠さんはニヤニヤしたまま首を横に振る。
師匠さんも、スゴく、スゴ~く愉しそうです。
「残念だったな、オレは秩序と法の奴隷だ。ルールは守らないと、なぁ〜」
「何が秩序よ! 都合のいい時だけ職権濫用すんじゃないわよ!! 鬼! 悪魔!! 人でなし!!! どんな神経してるのよ!?」
「悪魔はお前だろう? フレア?」
「あぁ、もう! 最悪!! また、コイツに振り回される毎日よ!! おおおおおうううう!! おうおうおおうう〜!」
そう叫んでフレアちゃんは顔を覆って慟哭する。
フレアちゃんには悪いが、それは自業自得なのでフォローはなし。
しかし、この二人、めちゃめちゃ仲良いな……。私と村長もこれくらい仲良くなれたら――と少し羨ましく思う私であった。
〜乃香の一言レポート〜
『ツンデレ』っていいですよね。ツンデレロリにツンデレ妹――――ロリや妹に“ツンデレ”という言葉を付けるだけで、そのキャラに“ツン”と”デレ”で二段階の強化がかかるわけですよ。
しかし! この世界には“萌え要素”はあれど”萌え文化”が存在しない!! こんな悲しいことがあっていいのか!? ダメに決まってんだろうーッ!!!
そこで、宣誓! 私、愛知 乃香はこの世界にジャパニーズ『TUNDERE』を広めるツンデレ伝道師に(勝手に)就任することをここに宣言します!!
次回の更新は4月27日(金)22:30です!
どうぞ、お楽しみに!!




