生きる者達のやんわりとした強さ。
「葉月ちゃん、一旦、ラーメン、食おう。な。そしたら。。。」
藤原のおじちゃんに言ってみた。素直に。
「私、私のせいだよね。一郎君がこうなったのも。。。」
藤原のおじちゃんは、私の頭をなでてくれて、言葉を足した。
「大丈夫や。一郎はそんな、あほじゃない。絶対、大丈夫や」
「絶対って何よ。絶対なんてこの世に存在しないよ」
私は、病室を出て、ペットボトルのカルピスを二つ、買った。頭の整理が出来ない。私。一郎君。死。
松本社長が、自販機の横に来て、私に言う。
「田中様。私が言う事ではございませんが、冷静に落ち着かれてみてはどうですか。ミケも大山様も田中様を愛しておられます」
「言う事じゃなかったら言わないでよ」
下を向く松本社長。
「ごめん。私、。。」
「一服いたしますか」
「うん」
「ありがとう。松本社長。カルピス、あげる」
「いえ、とんでもございません。これは大山様のカルピスでございます。さて、大山様のお部屋へと帰りましょうか」
「うん。そうだね」
歩く。歩く。廊下を一郎君のもとへと。カルピスを二つ持って。笑顔でいることは難しい。今の私には。怖いぐらいだ。でも、一郎君には、笑顔で接しよう。そう、決めたんだ。
「では、お二人のお時間を」
「ありがとうね。松本社長」
二人の時間。私は、宇宙の中の一つの。一郎君も。病室へ帰る。一郎君が笑っていた。呼吸器も点滴もない一郎君が。
「葉月さん。外出許可がでました。どこかへ、連れて行ってもらえませんか」
「いいよ。これ、カルピス」
「あ、わざわざ、いいのに。でも、ありがとうございます」
「行こうか。ラーメン。藤原のおじちゃんとこ」
「はい。勿論です」
「さっき、おじちゃんと喧嘩しちゃったから、謝らないと」
「そ、そうなんですか」
レンタカー。助手席に一郎。車掌は葉月。国道を行く。確かに一郎君は泣いている。生命。生命が終わること。奪われていい命などない。そんな一郎君にキスをした。私も泣けてきた。だけど。だけど。生きるってどういうこと。神様。教えて。
「おお、葉月ちゃん。さっきは、言い過ぎたわ。ごめんな。おっ、一郎。なんや、病気、治ったんか」
「いえ、一時的なものです。僕はもうすぐ、消えます。でも、ラーメン。藤原ラーメンが食べたくなって、葉月さんとここへ来ました」
「そうか。葉月ちゃん、チャーシュー麺、大盛り、二つでええか。一郎、どうや」
「はい。それでお願いします。葉月さん、葉月さん」
「え、おじちゃん、救急車。救急車を」
何故、私。脳がふらふら。え、サイレン。救急車。私がなんで、こんなときに。




