きれいな瞳の持ち主はそう簡単にみつからない。二人の時よ。
再び、サイレン音の中に私はいた。体、頭がアツい。一郎君と藤原のおじちゃんも救急車の中へ。頭がくらくら。注射をされ、血圧も計られる。少しずつ、意識が戻っていく。
「私、どうしてたの」
答える大柄な白衣の救急隊員さん。
「姉ちゃん、てんかんや。ストレスがたまってた時に、よう、起こるんや。大丈夫。念のため、車には乗らんときや」
「え、てんかん。ストレス」
「そうや。念のために脳波、撮るか」
「いいよ。いいよ。大袈裟な」
「大袈裟ちゃうがな。姉ちゃん、死にたいんかい」
「そ、それは」
一郎君も言う。藤原のおじちゃんも。
「葉月さん、運転なら僕がしますから。無免許でも僕、出来ます」
「葉月ちゃん。一郎の言うとおりにしいや。俺も一郎も、念には念を押すタイプや。脳は撮って、休んだほうがええで」
私は、思った。このまま、一郎君とこの街で最期まで住みたいと。ミケ。ひとりにさせちゃってごめんね。あ、そうか。シティホテルの松本社長や皆がついているのか。ミケ。留守番、頼むよ。
帰ったら、贅沢しようね。
一郎君と同じ病院に運ばれる。
「田中さん。田中葉月さん。で間違えないですね」
「はい」
足の長いお医者さんに言われる。
「こういうことって初めてですか」
「はい。そうです」
「念のために脳波、撮っておきます。少し、待合室でお待ちください」
一郎君がとぼとぼと歩いてきた。自販機で買った、カフェオレを飲む。二人で。
「僕達って運命共同体なんでしょうかね」
「笑えないよ。でも、笑うよ」
「葉月さん。僕は、もうすぐ、消えてしまいます。一緒にいます。消えてからも。だから、怖いモノなんてヒトツもないですよ」
「ありがとう。一郎君」
「こちらこそ、ありがとうございます。葉月さん。葉月さん、病院を抜け出しませんか。僕、運転しますよ」
「いいの。ほんとにいいの」
「はい。松本社長には内緒ですよ。砂丘へ行きましょう」
「うん。一郎君」
「ちょっ、ちょっと待ってぇな。葉月ちゃん。一郎も急に気が変わるなんて、あかんで。きちんと脳波。。」
「おじちゃん、ごめんなさい。私達、時間がないんだ」
藤原のおじちゃんの店まで車をとりに再びタクシーにのる。タクシーの後部座席で甘いキスを交わした。肌と肌がくっついて、私に触って一郎君。もっと。触って。私のことを愛して。愛してるよ、一郎君。
「お客さん、藤原ラーメンやで。いちゃいちゃできてええの。おっちゃん、40過ぎて、独り身やさかい。はい、3540円」
「ありがとう、おじちゃん。タクシードライバー、カッコいいよ」
「おおきに。また、指名してや。これ、名刺。湖山砂丘タクシーの岡崎。兄ちゃん、メンクイやな。姉ちゃん、まじ、きれいで。お疲れ様でした」
「はい。葉月さんはきれいです。とても。僕は幸せ者ですよ」
「ほんまやで、おおきに。ほななぁ」
藤原のおじちゃんの店の駐車場。このレンタカー、私達、だけのもの。今度は、運転手は一郎。車掌は葉月。時が止まってくれたらいいな。でも、時計は元には戻らない。一郎君が消えてしまう事実。私はキーで車のドアを開けた。ピッ。
「一郎君。車だよ」
「はい。待ってました。お巡りさんに見つからなければいいですね」
「そ、それはそうだよね。イケー一郎号」
「了解しました。葉月車掌」
一郎君にキーを手渡す。笑顔の一郎君。エンジンがかかった。正直、少し、怖い。車が動き出す。一郎君が恐る恐る、アクセルを踏んだ。
「行きますよ。葉月さん」
「は、はい」
一郎君はすんなりと坂道を発信した。上手いな、運転。砂丘にレッツゴー。これぞ、二人の時間。でも、時間がないんだね。私に最期に出来ることはなんだろうか。そう、不思議に思う、助手席の私。もう、夕方五時半か。
「一郎君」
「はい」
「やっぱり、出雲大社へ行こうか。こっから遠くはないよ。縁結び縁結び」
「了解しました。ナビ。いいいい出雲大社。あっ出ました。行きますよ」
「はい。あなた」
国道を西へ西へ向かう二人。私、死んでもいいよ。幸福だ。眠気がきた。こんな時に限って私は。運転席の一郎君を見つめて、私は助手席で眠りに就いた。




