表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/40

第39話



 マキナ達は、地下2階のコメダの隅の席に座り、3人でなづきのゲーム機を眺めていた。液晶画面には、地下街の監視カメラの映像が流れている。



「やっぱ検索に引っかからねぇな」


「そりゃ3年も隠れてたんでしょ? そんな簡単に見つかるわけないにゃ」


「やはり破棄された廃墟区間に潜んでいるか」



 マキナは目を擦って、長靴の形をしたグラスに注がれているクリームソーダを飲んだ。



「しっかし、なんで抜刀菜はきさらぎの人間を殺したんだろうな」


「わっかんにゃい。そんなヒトじゃなかったと思うけどにゃ。ただのシャイな小さいおっさんだにゃ」


「何か、理由があるのかも知れぬ。他に2人、下界の人間を殺しているが、繋がりを調べてみると何か出てくるかもな」


「まぁ、それが分かったところで、きさらぎの掟を破ったんだから殺される事には変わりないんだけれども」


「優しい故に厳しいところだにゃ、きさらぎ街は」



 そう言って、志庵はココアを飲んだ。上に盛られたバニラアイスが、溶けて容器からこぼれ落ちそうになっている。



「おい、お前ら、サボってんじゃないだろうな」



 マキナ達の席に、スーツに下駄という異様な出で立ちの男性が近づいてきた。年齢は50代前半くらいで、角刈りのカタログがあったらお手本として掲載されるようなきっちりした角刈りヘアーをしている。



「あ、おやっさん」


「お前ら本気で宿題(殺し)やんねぇと、奴と同罪だぞ」


「はいはいはーい」



 マキナ達は、残ってるジュースを一気に喉に流し込んだ。



「あいててて、頭がいてぇ!」



 マキナは必死に後頭部を叩いている。



「そんなもん頼むからいけないんだろ! 代金は俺が払っといてやるから、早くいけよ!」


「お、サンキューおやっさん」


「ゴチにゃ」


「かたじけない」



 マキナ達は追われるようにコメダを出た。その時、マキナのスマホにメッセージが入った。



「あ、縷々からだべ」



 抜刀菜を見つけた。と書いてあり、位置情報が記されている。



「まさか、縷々のやつマキナに惚れてるにゃ!?」


「も〜まったく、いくらマキナが美人だからって困るべ。マキナはあんなしょんべん臭いガキは眼中にないべ。ぎゃはは」


「これをネタに奴を揺すってやろう。1ヶ月間ラーメンを奢らせるというのはどうだ」


「それいいにゃ! ついでに餃子も頼んでやるにゃ」


「お前ら、いい加減に——」


「はっ!?」



 後ろを振り向くと、拳をポキポキと鳴らすおやっさんが立っていた。



「すぐいきまーす!」



 マキナ達は、全力ダッシュで地下街を走って行った。









「あれ、くーちゃんの勘違い? 直接会うのは初めてだっけ?」



 とぼけているのか、それとも本当に勘違いをしているのか、荘子には判断出来なかった。


 しかし、どちらにしろこいつは犯罪者だ。ここで消しておいた方が安全だろう。


 荘子は郡上燻を殺す決意をした。



 しかし、ここでは人目がつくし、監視カメラもある。放棄されている廃墟区間に誘い出し、そこで殺そう。生憎エボルヴァーは持っていないが、いくらでも方法はある。



「えぇ、わたしはあなたを写真で見ただけ。あの時は、病室の監視カメラの映像でさえ、あなたの姿を見ることは許されなかった」


「まぁ、心命愛の連中はくーちゃんのことむっちゃビビってたからね、あはは」



 郡上燻は少し顔を傾けて微笑んだ。



「あなたを逮捕します」


「嫌だよーん。出来るものならしてみなよぉ、JK刑事」



 そう言うと、燻は微笑みながら走り出した。まるで、同級生とふざけて鬼ごっこをする女子生徒みたいに。


 よし、かかった——


 このまま廃墟区間に追い詰めてやる。



「待ちなさい!」



 荘子は燻の跡を追って走り出した。


 必ず、殺す。









 抜刀菜は、普段よりも更に背中を丸めて歩いていた。納屋橋からくらった一撃が、かなりのダメージを与えていた。おそらく、肋骨も何本か折れている。



「抜刀菜!」



 抜刀菜は、その声で顔を上げた。そこには、マキナが立ちはだかっていた。背後には、志庵となづきが構えている。



「きさらぎの掟により、お前を殺す」


「お嬢ちゃん達か。なぁ、もう短い命だ。見逃してくれや」


「そうはいかない」



 マキナはハインを出現させた。志庵はアサルターを構え、なづきはリリパットを床に打ち付けた。



殺し合う(やる)のかい?」


「仕方ないべ」



 抜刀菜は垂直に飛んだ。そして、天井の壊れた電灯にぶら下がった。すかさず志庵がアサルターを撃つが、抜刀菜は横に飛んで避ける。八宝菜の代わりに電灯が弾け飛ぶ。



「ったく、ジジイの動きじゃないにゃ」



 床に着地しようとしたところで、マキナとなづきが同時に攻撃する。マキナのハインを片手に持ったカタナで受け、上半身を逸らしてなづきのリリパットをかわす。すると脚を蹴り上げ、くるっと回転すると、マキナの背中の上をするりと乗り越えた。



「くそっ!」


「まだまだ青いな、お嬢ちゃん。もう少し大人のボデェにならんと食えんよ」


「うるせぇエロジジイ! くたばれ!」



 マキナは連続で斬りつけるが、抜刀菜は全てカタナで弾き返した。マキナは、一旦後ろに下がった。



「本気で殺る」



 抜刀菜は、細い目をうっすらと開けて、笑った。



「来いよ。お前らじゃ、俺に勝てんよ」



 3人同時に飛んだ。










 荘子は、燻を上手く誘導し、廃墟区間に導いた。しかし、罠かもしれないとも、荘子は考えていた。燻は、立ち入り禁止の柵を越え、錆びれた扉を開けて廃地下道に入った。荘子も、その跡を追う。


 廃道は、真っ暗だった。かろうじて、緊急避難通路の表示板の薄暗いグリーンの灯りだけが転々と闇に浮かんでいる。通路の先に、幽霊のように燻の姿が浮かんでいる。



「荘子ちゃん、なぁぜくーちゃんを捕まえようとするの」



 燻はカーディガンの袖を伸ばして手を引っ込め、袖をぶらぶらと左右に揺らしている。



「確かに、あなたは一度無罪判決を受けているから、それはもう覆らない。しかし、心命愛の病棟を破壊し逃亡した。器物破損が適用されるわ」


「あれ壊したのはくーちゃんじゃないし!」


「それなら誰なの?」



 本当は知っている。ミミックという人物だ。



「言えなぁい。言ったらくーちゃんが殺されるちゃう」



 燻は、くるりとその場でバレエのように一回転した。



「荘子ちゃん、忠告しとくけどぉ、これ以上首突っ込むと悲惨な事になるよ? 今ならまだ普通のJKに戻れるからさ、そうしなよ。あの真面目そうな子と癒し系の子と思いっきり青春しなよ」



 やはり、あの時点で気づかれていたか。



「大丈夫、スカムズはほかっておいてもすぐに潰れるから。今から全て忘れて、警察なんかやめちゃって、普通のJKに戻るの。いい? くーちゃんはちゃんと忠告したからね?」


「わたしは、捜査をやめません。スカムズも、あなたも、かならず捕まえる」


「もぉ〜、この分からずや! 真面目か! クソ真面目JKめ! 奈落に落ちろ! やーい、お前の父ちゃん刑事部長〜!!!」



 そう叫ぶと、まるで闇の中に溶けるように姿を消した。



「待ちなさい!」



 荘子は力の限り走ったが、燻の姿はどこにもなかった。










 使われなくなり、朽ちていた廃道だったが、マキナ達の戦闘でさらに荒廃していた。天井にぶら下がっていた電灯は全て落ち、ケーブルが垂れ下がり、壁には銃弾の穴が無数に開いていた。


 マキナ達の体力は消耗していた。本気で打ち込んでも、抜刀菜のガードを崩せなかった。抜刀菜は、一瞬の隙を狙っていた。1人でも眠らせられれば、ここを切り抜けられる。そしてついに、その隙が見えた。


 その究極の隙間を狙おうとしたところで、八宝菜の胸に痛みが走った。その痛みは神経を伝い、腕の動きをほんの少し鈍らせた。納屋橋に打たれた傷が傷んだのだ。抜刀菜は一瞬、揺らいだ。


 マキナは、その一瞬の隙を見逃さなかった。マキナのハインが、抜刀菜の腹を割いた。



「ぐっ……」



 抜刀菜は、その場で片膝をついた。3人は、エボルヴァーを構えて抜刀菜を囲んだ。



「終わりだべ」


「へへ……」



 抜刀菜の腹から、血が滴り落ちる。



「どうか、見逃してくれねぇか」


「往生際が悪いにゃ、おっちゃん」


「俺には、やらんといかんことがある」


「そこまでして成し遂げたい事とは、一体何なのだ」



 抜刀菜は、息を吐いて呼吸を整える。



「ミミックという男が今、この地下街に潜んでいる」


「え……」



 不意に出た名前に、3人の表情が変わった。



「俺は、そいつを殺さなければならない」



 マキナは、抜刀菜の胸ぐらを掴んだ。



「おい、抜刀菜! ミミックを知っているのか?」


「あぁ。まぁ、知っていると言っても、その存在しか知らない。奴は、様々なものに擬態する。そして何食わぬ顔でそっと近づき、殺す。奴の本当の姿は、誰も知らない」


「何故ミミックを狙っている!?」


「それは、奴があ——」



 次の瞬間、赤く鋭いものが飛んできて、抜刀菜の喉を貫いた。それは、真っ赤な傘だった。抜刀菜は、絶命した。



「ワタシの勝ちね」



 後ろで、封羅が腕を組んで立っていた。



「おい、封羅てめぇ!」


「あらなに? 早く殺さなかったあなた達がいけないのよ? ククク」



 封羅は抜刀菜に突き刺さっている赤い傘を引き抜くと、開いて小間についた血液を振り払った。



「じゃあ、今度荘子ちゃんとふたりっきりになれるようにセッティングしといてね。まぁ、見られながらするのもドキドキして興奮するけど」



 マキナ達は、何も言わなかった。何も、言う余裕がなかった。封羅は真っ赤な唇から少しだけ白い歯を見せ、笑った。そして、去った。









 マキナ達は、その場に立ち尽くした。頭によぎるのは、月の夜、暗闇の中で、血に塗れたミミックのシルエットだけだった。



「みんな、どうしたの?」



 どれくらい、そうしていただろう。気がつくと、廃道の奥にポツンと荘子の姿があった。荘子は、ゆっくりと力なくマキナ達の方に近づいて行った。



「荘子……おめぇさんこそ、どうしたんだよ。この世の終わりって顔してんぞ」



 そう言うマキナの言葉には、全く覇気がなかった。



「郡上燻がいた」



 荘子の口から発せられた郡上燻の名前を聞いて、マキナ達は驚き、そしてまた塞ぎ込んだ。


 暫く沈黙した後、マキナの瞳から一筋の涙が溢れた。



「くそぉ……」


「マキナ? みんな、一体どうしたのよ」



 志庵、なづき、マキナの3人は、ゆっくりと荘子のそばに近づき、寄り添って、言った。



「荘子さ、理想の世界を創るっての、みぃ達が全力で協力して絶対叶えるからさ」


「その代わり、荘子の力を、我々に貸して欲しい」



 荘子は3人の顔をそれぞれ見て言った。



「あなた達の願いは、何なのですか?」



 マキナはまっすぐ荘子の瞳を見つめて、言った。



「ミミックを見つけ出して、殺す」



 荘子は、ゆっくりと頷いて、言った。



「わかりました。わたしも、この命を懸けて、その願い、叶えます」



 そして、3人を包み込むように抱きしめた。






 あなた達がどうしても叶えたいという願いがあるのなら、わたしはどんなことをしてでも、それを叶えようとするだろう。



 わたしたちはもう、家族みたいなものなのだから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ