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第23話



 文章を書き推敲するように、幾通りも計画を考え、ミスはないか入念に確認する。1つのミスが命取りになる。決して負けることの許されない、トーナメント戦のようなものだ。その理想を実現させる為には、勝ち続けなければならない。大枠の計画を考え、スカムズ対策室の出方を見て、臨機応変に対応する。こちらには、スカムズ対策室の内情を知る荘子がいる。それは、大き過ぎるほどの強みとなった。



「しかし荘子すげぇな。ずっと前からスカムズに居たみたいだ」


「計画の立て方が、みぃ達にそっくりにゃ」


「うむ、まるで、目の前に余がもう1人いるようだ」


「それは……」



 荘子は、スカムズを追っていた時の記憶を思い出した。華麗に犯罪者を処分する、憧れの存在。



「ずっと見ていましたから」


「と……突然の告白!? きゃー!」



 マキナと志庵は荘子に抱きついた。荘子は戯れてくる2匹の大型犬に囲まれるような格好となった。



「そういう意味じゃありませんよ」


「恥ずかしがるなってー!」



 マキナと志庵は荘子に頬ずりをした。なづきはゆっくりとどくだみ茶をすすると、ほぅと一息ついた。


 陽は落ち、外は暗くなっていた。





 マキナ達は、電気街の途中まで送ってくれた。その時、荘子は赤いドレスの女性を思い出した。



「いつも、電気街ですれ違う赤いドレスの女性がいるんですが」


「あぁ、あれは幽霊だべ」



 マキナは手を垂らして幽霊のマネをした。



「本当の事を教えてください」



 荘子は冷たく言い放つ。合理主義の荘子は、幽霊や超常現象を全く信じてはいなかった。マキナはちょっとしょぼんとした。



「あの人は封羅(ふうら)さんにゃ。ここの住人だけど、多分やり手の殺し屋」


「謎が多い。まぁ、むやみに関わらない方がいいな」



 あの独特な雰囲気は、殺し屋のそれだったのか。思い出すと、少し寒気がした。



「彼女の殺しの対象は、犯罪者なのですか?」


「そうだよ、ここの住人は基本的に一般人には手を出さねぇから。そーいう掟になってるんだ」



 驚きだった。完全に隔離された世界、404地区でそのような事が行われていたとは。



「それと、きさらぎ街には他にも未成年がいるんですか?」


「未成年?」


「はい、銀色の瞳を持った、私たちと歳が近そうな少年なのですが」


「あぁ、縷々(るる)だべ。あいつもよくわかんねーからなぁ」


「根暗で無愛想な男にゃ」


「彼も殺し屋なのですか?」


「それは分からない。だが、ここに住んでいるという事は、何かしら裏の仕事をしているのだろう



 底の知れない世界だな、と思った。しかし、荘子ももう既にそちら側の住人なのだ。











 大都会羅刹区栄の中心に位置するオアシス69。


 空を見上げると、様々な色で光る、定まった色を持たない大きな楕円形の物体が上空に浮かび、その楕円形の飛行物体の底から、そのはるか真下の地上にまで光の柱が6本伸びている。楕円形の飛行物体の真下に位置する地上はクレーターのように窪んでおり、その半円形に窪んだ壁面全体にLEDが埋め込まれ、アーティストのMVや企業の広告が派手な音楽と共に映し出されている。


 そのすぐそばのベンチに、志庵は1人で座っていた。しかし、普段と様子が全く違っていた。ストレートの黒髪に、見慣れない学校の制服を着ている。スカートは普段よりも更に短く、もう少しでワカメちゃん状態だ。メイクも普段と違い、大人しい感じに仕上げてある。その為、誰がみても志庵だとは気がつかない。 志庵はスマホの画面に視線を落とす。『もうすぐ着くよ。真っ赤なフェラーリで』というメッセージが表示されている。



「キモ」



 汚いものを払うように、メッセージアプリを閉じた。すると、大きな排気音と共に、目の前の道路に赤いフェラーリが停車した。左ハンドルの運転席から、スーツを着た30代後半くらいの男が顔を出し、手を振った。


 来た。


 志庵はすぐさま笑顔を作り、フェラーリに駆け寄った。





「すごぉい、やっぱお医者さんってお金持ちなんですね!」



 フェラーリの助手席に座って車内を物珍しそうに見回しながら、清楚系JKに化けている志庵が言った。



「まぁ、特に僕は若くして医長になったからね。まぁでも、こんなのはたいしたことじゃないよ。欲しいものがあったらなんでも言ってごらん」


「やったぁ!」



 志庵は両手を組んで目を輝かせた。男は、背が高く、頬がシュッとしている男前だ。オマケに、職業はドクター。モテない訳がない。


 なのになぜ——



「どこか、行きたい所はあるかい?」


「うーん、ちょっと学校で疲れちゃったから、ゆっくり休めるところがいいなぁ」



 それを聞くと、男前医師は白い歯を見せた。



「ちょうどいい。僕の部屋に行こう」


「いいの? 嬉しい!」



 ——こんな小娘に引っかかるのだろうか。



 男って、馬鹿にゃ。












 医師は高層マンションの地下駐車場に車を駐めた。


 駐車場には、レクサス、メルセデスという高級車からランボルギーニのようなスーパーカーまで、非常に高価な車ばかりが並んでる。建物自体もそうだが、サービスも、セキュリティも、最上級のものが用意されている。所謂、成功を納めた者だけが手に入れる事が出来る空間。志庵は目を輝かせているふりをして、辺りを些細に観察しながら、医師の後についていく。エレベーターに乗り、上方の階に向かう。



「ここは、僕の部屋の1つだよ」



 どうやら、いくつもマンションを持っているようだ。医師が部屋のドアの前に立つと、自動的にドアが開いた。



「入って」



 一歩足を踏み入れると、真っ暗だった正面の壁が、宝石のように輝き出した。それは、大都会奈護屋の夜景だった。



「わぁ、綺麗……」



 医師が照明をつけると、広いリビングに、大きな白いソファー。壁にかけてある、大型テレビ。バーカウンターが姿を表した。志庵は、バーカウンターの後ろに並ぶ、コンビニの飲料コーナーのような大きなワインセラーに注目した。



「すごぉい、ワインがいっぱい!」


「まぁ、ワインを集めるのは趣味でね。たいしたことではないよ」



 志庵はワインセラーに手をついて、医師の方を振り向いた。



「飲んでみたいなぁ……」


「おいおい、未成年だろ? まったく、ちょっとだけだぞ」



 そう言って、医師はワインセラーからシャンパンを取り出した。そして、コルクを開けようとしたところで、志庵がワインを抱きかかえるようにして奪い取った。



「あたしがやっておくから、先生はシャワー浴びてきて」



 医師はまた白い歯を見せて微笑んだ。しかし、今回は完全に鼻の下が伸びている。



「わかったよ。ちょっと待ってて」



 医師の姿が消え、シャワーの音が聞こえ始めると、素早くコルクを抜き、制服のポケットから白い薬を取り出すと、それをボトルの中に入れた。

グラスハンガーから、逆さまに吊るされているワイングラスを取り出し、テーブルの上に2つ並べた。


 志庵は、外に広がる夜景を眺めた。


 こんな所に住んでいる人間もいるんだにゃ。ま、みぃはきさらぎ街の方が良いけど。そういえば、他にも部屋を持ってるって言ってたにゃ。


 事前に調べた限りでは、奴はマンションを4つ持っている。一人暮らしの自宅と、他の3つは女を連れ込む為のヤリ部屋か。


 しかし、ヤリ部屋にしては、金がかかっているな。いくら医師と言えどもここまでの部屋を複数維持するのはなかなか……


 志庵は部屋を見回した。リビングの奥にあるマントルピースの上に、ゴールドに輝く心愛命の集いのシンボルマークを象ったオブジェが置かれてあるのを発見した。あの医師が務めているのは心愛命の集い直系の病院で、おそらく医師は心愛命の集いの会員。心愛命は、今や国政にも力を及ぼす程の力を持った集団だ。その心愛命が厳重体制で隔離している郡上燻という人物。その郡上燻の担当医である、この部屋のオーナーの医師。そして高級マンションをいくつも維持できる多額の報酬。


 最早、怪しいニオイしかしないにゃ。


 一体、心愛命は何を隠しているのだろう。そして、何を企んでいるのか。




 暫くして、医師が浴室から出て着た。白いガウンを着ている。それを確認すると、志庵はシャンパンを注いだ。それを医師のもとまで持って行った。



「ありがとう」



 医師は、美味そうにシャンパンを喉に流し込んだ。それを見て、志庵は自分のグラスを傾け、少し舐めるような仕草をした。



「にがいよぉ」


「ははは、君にはまだ早いようだね」



 そう言って、医師は志庵のグラスを手に取り、それも飲み干した。



「すごぉい!」


「ははは、他に何か飲むかい?」


「うん、じゃあオレンジジュース!」


「わかったよ」



 医師は無駄に巨大な冷蔵庫から果汁100%のオレンジジュースを取り出し、グラスに注いだ。それを、志庵に手渡した。



「乾杯」



 シャンパンとオレンジジュースで乾杯すると、医師はこっちにおいで、と個室の方に案内した。



 ベッドルームか……。




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