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第19話


「ふん!」



 ボスが拳を振り下ろす。荘子は避けるが、凄まじい風圧でよろめいた。ボスはその隙を見逃さなかった。すぐに反対の左手で拳を繰り出す。荘子はバランスを保つ事が出来ず、背中から倒れかかったが、黒い翼を起動させ、ギリギリのところで地面をすり抜け、ボスの拳を逃れた。



「どうした。逃げてばかりだぞ」



 荘子は距離を保ち、三条を構えた。


 今のわたしでは、真っ向勝負しても勝ち目はない。


 時間稼ぎをしてマキナ達を待つつもりが……、それにしても遅い。何かあったのかもしれない。作戦の時間が延びる事は、良い事ではない。ここは、わたしだけでもボスを倒さなくては。何か、策を講じよう。



 荘子は、腰の後ろに装備している粘着ガンをそっと確認した。


 これで視界を塞げば、一瞬でも隙が出来るだろう。そこを、刺す。この黒い翼で蜂のように飛び、撹乱する。幸い、こちらの方がリーチは長い。焦らなければ、いける。


 荘子は後ろに飛び、距離を取った。



「逃げようたって無駄だぜ。ロケット拳!」



 ボスがそう叫ぶと、黒い拳がロケット砲のように飛んで来た。


 なにっ——



 荘子は横に飛んで黒い拳をかわす。黒い拳は壁に当たり、大きな衝撃とともに壁が崩れる。瓦礫と共に、赤い花が、鮮やかに舞う。


 まさか、拳の形をしたオーラの塊を飛ばす事が出来るとは……戸愚呂兄と弟が一緒になったような奴だ。これでは、近づく事すら出来ない。



「じゃあ、そろそろ終わりにするか。こっちも忙しいもんでねぇ」



 ボスは、両手を荘子に向かって掲げた。



「これは避けられんだろう」



 2発の弾丸のような拳……完全には避けられないかもしれないが、致命傷は避けられる。荘子はゴールキーパーのように、素早く動けるように体制を整えた。



「くっ、お前」 



 その時、ボスの動きが止まった。



「おい、スカムズ!」



 磨瀬木が、ボスを羽交い締めにしていた。



「スカムズ! 俺も殺す予定なんだろう? ちょうどいい、このままやれ!」


「くそっ、離せ!」



 荘子は、飛んだ。三条の刃を真っ直ぐボスの胸に向けて。迷っている時間はない。





 

 どうにか、ボスだけを刺すことはできないか——




 さっと光が射すように、荘子の頭に迷いが生じた。その結果、ボスの手前で、荘子のスピードが、一瞬減速し、緩んだ。そして、三条の刃がボスの心臓に届こうとした瞬間、何かが荘子の頭上に降って来た。それは、磨瀬木の身体だった。


 な——


 突然の事で、避けられなかった。荘子は、磨瀬木と共に床に倒れた。身体は地面に打ち付けられ、手に持っていた三条は吹っ飛び、目の前には、荘子を見下ろすボスがいた。



「終わりだ」



 ボスは左手で荘子の首を抑え、右手の拳を強く握って大きく後ろに構えた。



「顔だけは傷つけずに取っておかないとな。潰すのは、心臓だけだ」



 ボスの黒い拳が降り注ぐ。荘子は目を閉じることなく真っ直ぐ見据え、ボスの左手を掴んでいた。ここで死ぬわけにはいかない。



 わたしは、犯罪のない理想の世界を創るのだ。



 こんなところで、終わってたまるか。



 その瞬間、緑色の閃光がボスの額を掠めた。閃光を避ける為、ボスは身体を逸らし、荘子を捕まえていた手を離した。荘子は素早くボスの手から逃れた。



「お前、エボルヴァーの遠隔操作が出来るのか」



 荘子自身はその目で確認する事が出来なかったが、緑色の閃光は床に転がる荘子の三条から放たれたものだった。



「クク、流石。切り札は取っておくもんだ。だが、しくじったら意味ねぇなぁ」



 ボスは、ロケット拳で更に三条を遠くに弾き飛ばした。


 先ほどの三条から放たれた遠距離攻撃は、わたしの知らない特殊な機能だろうか。あるいは、エボルヴァーの故障?


 しかし、それを考えている余裕はなかった。


 とりあえず、距離を取ろう。


 荘子が後ろに飛ぼうとしたところ、ボスはその巨体からはおよそ想像出来ないほどの速さで荘子に追いついた。


 そして先ほどと同じように荘子の首を掴み、その手にエネルギーを集中させると、荘子の首を掴む手に力を入れた。


 何かが千切れるような音。


 荘子の頬に飛び散る、赤い血液。



 目の前が真っ暗になる。



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