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Fランクの少年、伝説のドラゴンを手に入れる  作者: キミマロ
第一章 ドラゴンとの出会い
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第八話 極秘クエスト

「き、金貨が三十枚も……ッ!」


 カウンターに用意された金貨の山。

 ランプの灯りに照らされ、まばゆいばかりに輝くそれに思わず息を飲む。

 こんな大金を見たのは、一体何年ぶりだろう。

 気まぐれに、爺さんがS級依頼の報酬を見せてくれた時以来だろうか。

 流石は森の主と言われるプラチナウルフ、素材の買い取り額も半端じゃない!


「あれだけ状態の良い毛皮はめったに出ないですからね。需要はいくらでもあるんですよ!」

「そうなのか。へえ……」


 買取を担当した受付嬢が、これまでにないほど愛想よく語りかけてくる。

 昨日まで俺が何をしてもムスッとしていたのに、えらい変わりようだ。

 でも今はお金のことで頭がいっぱいで、せっかくの言葉も全く耳に入ってこない。

 金貨が三十枚!

 これだけで、二人で宿屋に一年も泊まれる額だ!

 それだけじゃない、今まで憧れるだけだった高級装備の数々も買える。

 ああ、あれこれ妄想しただけで表情が……。


「シルフィ、お前はホントに凄い奴だな! まさか一日でこれだけ稼ぐなんて!」

「別に大したことはしておりません! たまたま、運が良かっただけでしょう」

「そんなことないって!」


 照れて紅くなるシルフィの肩を、ポンポンと叩く。

 あの時、フェアリーマッシュを使ってホントに良かった!

 まさに情けは人の為ならずって奴だな。


「しかし、なんでまたプラチナウルフを狩ろうなどと? 倒せたから良かったものの、お二人とも適正ランクからはかけ離れているのですよ! それに、深部はまだ立ち入り禁止ってしてありましたよね?」

「それがね……ウルフ討伐をしてたら、混じって出て来てたんだよ。な、シルフィ?」

「その通り。だから、私がシルバーウルフと間違って討伐してしまいましてな」

「ま、間違えたって……。強さの桁が一つか二つ違うでしょう!? ありえませんって! 絶対にありえませんってばッ!」


 そう早口で捲し立てると、ダンッとカウンターを叩いて身を乗り出す受付嬢。

 感情的になりやすいタイプなのだろう、額に青筋まで立てている。

 しかし、スライムに釘とはシルフィのこと。

 受付嬢から露骨に怒りをぶつけられたにもかかわらず、のほほんとした顔をしている。


「そう言われても。それほど違うようには思いませんでしたぞ?」

「いや、子犬と狼ぐらい違いがあるはずなんですけど!」

「……もう気にするだけ負けだと思うよ、シルフィに関しては」


 そうやって、ゆるーい口調で言う俺。

 彼女の規格外さ加減については、たった二日で半分ぐらい諦めてしまっていた。

 まあ、ドラゴンだし。

 人間の尺度では、そもそも推し量ってはいけない存在なんだろう。


「まだいろいろツッコミを入れたいところですが……。今はそれよりも、プラチナウルフが森の浅いところまで出て来ていた事実の方が大事ですね。どのあたりでした、見つけたのは?」


 そう言いながら、受付嬢はカウンターの下から森の地図を取り出した。

 えっと、どのあたりだったかな。

 双子岩が西に見える場所だったから、地図で言うとここぐらいか。

 俺は地図の右下、森の南東部にペンで印を打つ。

 こうやって見ると、町からもかなり近い場所だった。


「このあたりだな」

「ほうほう、ずいぶん浅い場所ですね……!」


 プラチナウルフの縄張りは、街から見て最も森の奥に位置する。

 そこから出ることは滅多になく、まして街の近くにまでやってくるなど普通はありえない。

 森で何かが起きたとしか思えなかった。


「もしかして、飛行船事故があったから逃げてきたんじゃないか? 街からでも聞こえるほど、凄い音がしたんだろ?」

「うーん……プラチナウルフは森の主ですからね。そう簡単に逃げるとは思えないですよ。それこそ、『アガリ』でも現れない限りは」


 そう言われて、俺はシルフィの方を見やる。

 『アガリ』と言うのは、ごく稀にアンダーフィールドから上がってくる強力な魔獣のことだ。

 確かシルフィの出身もアンダーフィールドだって話だったけど……。

 もしかしてあのプラチナウルフ、森に現れた彼女の気配にビビって逃げ出したんだろうか?

 俺はすかさずシルフィと距離を詰めると、受付嬢に聞こえないように話をする。


「なあシルフィ。もしかしてあのプラチナウルフ、お前にビビって移動してたんじゃないのか?」

「ううむ、それはないと思いますぞ。治療される前の私は弱り切っておりましたし、治療された後はすぐにこの島を出ましたから」

「うーん、だとすると何が原因なんだろ。さっぱり分からないな……」


 顎に手を当て、唸る俺。

 そうしていると、カウンターの向こうに人影が現れた。

 影の主はこちらに気づくと、すぐさま近づいてくる。

 やがてカウンターの灯りに照らされたその姿は、誰あろうギルマスであった。

 彼は壁にかけられた時計を見ると、ひげを撫でながら怪訝な表情をする。

 時刻は間もなく午後十一時。

 普段なら、ギルドにお客なんていない時間帯だ。

 なにぶん高価な素材を持ち込むので、俺とシルフィは目立たないようにわざわざ人の居なくなる頃合いにやってきたのである。


「ほう、ずいぶんと遅いお客さんじゃのう」

「これは! お仕事、お疲れ様です!」

「ははは、わしなんぞ大したことはしとらんよ。ところでその様子だと、シルフィちゃんがとんでもない素材でも持ち込んだんじゃな?」

「な、何でそれが分かるんですか!?」


 あまりの千里眼ぶりに、素っ頓狂な声を上げる受付嬢。

 彼女だけでなく、俺たちまで驚いて顔を見合わせる。

 するとギルマスは、悪戯が成功した子どものように楽しげに笑った。


「かかかッ! 実はな、深部にしかいない魔物が見つかったとすでに何件か報告があっての。シルフィちゃんの強さを考えれば、こんな時間にわざわざ来る理由などおのずと分かるわい」

「なるほど、そういうことでしたか。でも、他にも報告があったなんて。森で、一体何が起きてるんでしょうか……」

「そのことなんじゃがの。わしはやはり、昨日の事故が怪しいと思っておる」


 そう言うと、ギルマスは今までの人懐っこい様子から一変して渋い顔つきをした。

 彼はもともと皺に埋もれていた目を更に細め、言う。


「あの事故には不審な点が多くてのう。あとで憲兵隊から渡された報告書を見たのじゃが、それもどうにも怪しい。そもそも、あれだけの事故じゃったというのに一日で報告書が出されたこと自体が異常じゃ」

「そうですね、普通はもっと時間がかかるはずです」

「じゃろう? あくまでわしの勘じゃが、あの事故の裏には間違いなく何かがある。そこでじゃ、シルフィちゃんよ。そなたの実力を見込んで話がある。わしが出す調査パーティーに、ぜひとも加わってくれんかのう? 報酬はたっぷりと出すから」

「私がか?」


 いきなり話を振られ、戸惑うシルフィ。

 だがすぐに彼女は、ちょっと怒ったような口調で言う。


「待ってほしい。私はあくまで、主様の従者だ。私がどのように動くかは、主様が決めること。主様と話をしてくれないだろうか?」

「ほう、そなたには主が居るのか! 羨ましいのう、こんなに美人で有能な女の子を従者としておるなんて! して、その者はどこにおる?」

「さっきからここに居ますけど……」

「なぬ!? そなたが主じゃと!?」


 俺の顔を見て、目と飛び出さんばかりに見開くギルマス。

 彼は身を乗り出すと、俺の身体を上から下までズイズイッと遠慮なしに見渡す。


「この、何とも覇気のない男が?」

「ええ、まあ」

「失礼ですぞ! 主様への無礼は、たとえギルドマスターであろうが許しませぬ!」

「す、すまんのう! あまりにもオーラが無くて平凡な感じだったのでつい」

「わざと言っているのですかな……? 事と次第によっては、斬りますぞ!」

「まあまあ落ち着いて!!」


 殺気立ち始めたシルフィを、慌てて落ち着かせる。

 彼女の威圧をまともに受けたギルマスは、既に顔が真っ青になっていた。

 いつお迎えが来てもおかしくない。

 そんな雰囲気に見えてしまう。


「だ、大丈夫ですか?」

「な、何とかの。まさか、軽い威圧だけでここまでやられるとは……。自信が無くなるのう」

「シルフィは特別ですから」

「う、うむ。わしの威厳のためにもそういうことにしておこう。して、依頼の方は引き受けてくれるかな?」


 ズイッと身を寄せてくるギルドマスター。

 う、距離が近いな。

 爺さんが近づいてきたって、別にうれしくもなんともないぞ!


「……えっと、それって強制ではないんですよね?」

「うむ、あくまでもわしが私的に調査をしたいだけじゃからの」

「なら、断らせてください」

「そうか! 街の安全のために頑張って――なぬ?」


 頼みを断られるとは思っていなかったのだろう、ギルマスは思いっ切り顔をひきつらせた。

 彼はひげをしきりと撫でながら、こちらを不満げな目で見てくる。


「どうしてじゃ?」

「そりゃあ、危ないからですよ。そんな怪しい案件に、関わりたくないです」

「そこを何とか! 金なら弾むぞ、金貨五枚でどうかの?」

「あいにく、お金ならシルフィが稼いでくれるので」


 そう言うと、カウンターの上に積まれた金貨を指さす。

 ギルマスの顔が一気に曇った。

 その雰囲気に、思わず報酬を用意した受付嬢が苦笑いをした。


「……なるほどのう。じゃがこちらとしても、シルフィちゃんにはぜひ参加してほしいんじゃよ。場所はゲルドの森だが、何が出るかわからんからの。戦力が必要じゃ」

「それなら、ギルド最強のラングバルトさんに出てもらえばいいんじゃないですか?」

「ダメじゃ、ちょうど出かけてしまっておる。他もAランクは全滅じゃの。絶対数が少ないうえにタイミングが悪かった」


 ふうっとため息をつくギルマス。

 なるほど、それで登録したてのシルフィにまで声をかけてきたのか。

 でもだからと言って、シルフィを参加させるつもりはない。

 めんどくさそうなクエストには、極力関わらないのが俺のやり方だ。


「そう言われましてもね。強制力があるならともかくとして」

「ううむ、分かった! 仕方あるまい、調査はレミオットとアイスの二人に任せるしかないかの」

「え? その二人が参加するんですか!?」


 思っても見ない名前が出てきたことに、声が半オクターブほどずれた。

 ギルマスは驚きすぎな俺に怪訝な顔をしつつも、問いかけに頷く。


「そうじゃ。すぐ動ける開拓者の中では、あの二人が一番能力的に優れておったからの」

「そういうことですか。だったらその依頼、引き受けさせてもらいましょう」

「おお! やってくれるか!」

「ただし……一つだけ、条件があります。いいですね?」


 俺がそう言って条件を耳打ちをすると、ギルマスは表情をみるみるこわばらせるのだった――。


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