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第一話 正義の日常は人々に理解してもらえない

 オレの名前は田仲たなか七朗。巨大変形マンションロボット、マンシオンのパイロットだ。山本山町の正義と平和を守るため、今日も闘い続けて居る。


 相手はモチロン山本山町の平穏を乱す自称「正義」を口にする連中だ。

 具体的に言うのもアレかなぁと思うので明言は避けるが、例えば隣町の某鈴木町とか、同じ区の某佐藤町とか、向こう三軒両隣的なイマジナリー地点に位置する某佐々木町とか、色々だ。


 連中は常に「我こそが正義」と口にする。正義の名のもと、などと宣いながら自分の住む町の境界線を勝手に拡張したり、区内予算の分配比率を一方的に変更しようとする。


 だがそれは自分達の都合を優先し、他者をないがしろにする実に傲慢ごうまんな考え方だ。

 正義というものは公平で人々の安寧あんねいを最優先とし、友愛と創造をもって皆を安んじる崇高すうこうな理念。決して、些少さしょうな自己の利益の為にとなえてはならないのである。


 そしてそういった利己的な者たちには、物理的に天誅を下してやらねばならない。口で言っても分からない連中なのだ。対話による和解の意味を棚上げしている者たちなのだ。


 コレは正義の真意を知る者の義務なのである。平穏と安寧で世界を満たすための天意、その代弁者としての慈悲なのである。




「ねえねえ、オジチャンはなんで仕事もせずに毎日ぶらぶらしてるの?」


 巡回の最中、可愛らしい声に振り向いて見れば幼女がオレを見上げていた。不思議そうに小首を傾げている。年の頃は四、五歳といったところだろうか。


「仕事ならしているぞ。ぶらぶらしているのではなくて、こうして町内をくまなく見て回り、怪しいヤツが居ないか悪さをして居る者が居ないか、皆の為にパトロールしているんだよ」


 そしてオレはまだ二十代だからオジチャンと呼ぶのは止めようね、と付け加えたのだが「ふーん」と気のない返事が在るだけだった。


「でもお巡りさんもよく町を見て回っているよ。オジチャンは警察のひと?」


「警察じゃあない。だが、町の平和を守る者だ」


 見たまえ、と焦げ茶色のマンションを指差した。


「あれこそはマンシオン。この町の平和を守るロボットだ。お兄さんはあのロボットのパイロットなんだよ」


「アパートだよ」


「うん、一見そう見えるな」


 オレはそこで満面の笑みを浮かべて見せた。極めてフレンドリーな笑顔のはずなのに、幼子は顔を曇らせてジワリと後退あとずさった。


 何故なぜに?


 マンシオンは宇宙人の技術で作られたロボットだ。普段はマンションの姿をしているが、ひとたび変事があれば巨大ロボットに変身する。

 そして同様に周囲の町にある巨大ロボットを相手に町の命運を賭けて日々闘っている。平和のために。みんなが安心して暮らせる町を守る為に。


「オレは、いやお兄さんは愛と正義とみんなの為に闘っているんだよ」


「ふう~ん」


 反応薄いな。子供には話が難しかったか。


「オジチャンはアイとセイギの為にたたかってるんだね」


「!おう、そうだとも。分かってくれたか。だがお兄さんと呼んでくれないかな」


「たたかってお給料をもらっているんだね?」


「いや、もらっていない。お金の為に闘っている訳ではないんだ」


「じゃあどうやって生活くらしているの?」


 痛いところを突いてくる。


「実家だからな。住む所と食べるコトには苦労していない」


「お父さんとお母さんに食べさせてもらっているんだ」


「……家族だからな」


「仕事はしないの?わたしのお父さんとお母さんは毎朝お仕事にいくよ?わたしに食べ物やお洋服を買ってくれるよ?

 ちょっと前にテレビでおじいちゃんが『仕事をしないヤツはタダのゴクツブシだぁ~』って怒鳴っていたよ。お母さんに意味をいたら、困った顔で笑って教えてくれなかったけれど」


「……」


「オジチャンは知ってる?」


「さ、さあ。どういう意味だろうな」


「オジチャンはゴクツブシ?」


「いや、違うぞ。愛と平和と正義の為に闘っているんだ。それが仕事なんだよ。いわばボランティアだな」


「ふう~ん。でも違うって言えるんなら、ゴクツブシの意味は知ってるんだ」


 ぐ、侮れんお子様だ。これ以上会話を続けるのはちょっとマズい、色々と。


 なので「お嬢ちゃんにはお嬢ちゃんにしか分からない世界が在るだろう。同じ様に大人には大人の世界がある。大きく為ったときの楽しみとして取って置くといい」そう言って誤魔化した。


「あと、オレはお兄さんだからね」


 そう念を押した。


「そぉかぁ。大人って大変なんだねぇ」


 素直に感心している様にも見えるが、眼差しと口調に微妙なふくみが感じられる。それはまるでコチラの全てを見透かしたかのようで。


 オレの勘ぐり過ぎだろうか。それともその通りなのか。

 ちょっとダケ冷や汗が出た。


 いや、大丈夫、大丈夫。オレは大丈夫。


 お子様が立ち去ると「田仲くん」と声を掛けられた。


「あ、これは区長さん。足の調子はよろしいので?」


「もう寒さもずいぶん弱まったからね。それよりも仕事は見つかったのかい?日中子供の目の前でブラブラするのは感心出来ないね。教育に良いとは思えないよ。今も幼児にやり込められていなかったかい?」


「人聞き悪いコト言わないで下さいよ。オレはこうして町の安全のため、不審な者が居ないか巡回しているダケで」


「うろうろそわそわキョロキョロ、キミの方が余程に挙動きょどう不審ふしんだよ」


「コレは手厳しい」


「アルバイトも長続きしないみたいじゃないか。そろそろ定職に就いて、お父さんとお母さんを安心させてあげなさい」


「御言葉ですが、臨時就業者としてのフットワークの軽さが必要なのです。長時間拘束される定時業務などに就いてしまえば、いざという時の対応に支障が出てしまいます」


「その言い訳も聞き飽きたよ」


 区長さんも大人しい物言いに反して内容は辛辣しんらつだ。


「それにいざという時なんて来ない。町内会の行事を積極的に手伝ってくれるのはありがたいが、年間行事の期日は端から決まってるんだ。それ以外は時間も空いてる。というか、月に一度有るか無いか、それも土日にもよおされる程度だろう」


 ぬう、滑らかな口上。まさに立て板に水。


 キミに任せている臨時業務だってスケジュールは前もって伝えているじゃないか。日程調整ですら相談に乗って居る。突発なんて有り得ないんだ。一年の九割くらいが暇なんじゃないのかい?


「仕事に就く余裕は充分に在ると思うけどね」


「油断は禁物です。災厄というのはいつ何時襲って来るか分かりません」


「地震や台風は確かにそうだが、そもそも、そんな天災が来てもキミの手には負えないだろう。防災訓練や防災グッズの点検をしている方が余程に有意義だよ。巡回なんて警察でやる。散歩なら早朝で充分。それ以外はハローワークにでも行ってきなさい」


 そしてトドメに「町内会の仕事がキミの支障になっているのなら、別のヒトに変わってもらうよ」そう釘を刺された。


 ぐう、と思わず呻いた。

 冗談ではない。そんなコトになったら、周囲から認められる地域社会への貢献(正義)、というオレの信条がただの独り善がりになってしまうではないか。暫しの苦悶と悶絶。しかし良い代替案いいわけを思いつけなくて「これからハロワに行ってきます」と頭を垂れた。


 やはり正義の日常というモノは人々に理解してもらえない。地道、つ忍耐の要る生き方であるのだなと再認識することになった。

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