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【第四話】勇者の究極奥義『???』と、突然の逃亡劇

「こんな感じか?」


俺は少女に言われるがまま、背中に負った白き剣を抜き放ち、右手で構えて戦闘のポーズをとった。


「ええ。次にやるべきことは分かるわね? 自身の『スキル』を念じるのよ」


やっぱり、そういうことか。

俺は目を閉じ、瞑想状態に入った。


スキル――それは、絶え間ない反復練習によって習得し、自然と脳裏に刻み込まれるもの。魔力や体力の許す限り、使用者の意思一つで発動できる技のことだ。

だが、中には「自動的に付与されるスキル」もあると聞いたことがある。例えば、勇者が持つ唯一無二のユニークスキルのように。


まさか、彼女が言いたいのはそういうことなのか? 

いや、しかし……。


ともかく俺は精神を集中させ、脳裏に浮かび上がる自身のスキルを思い描いた。

杖を持たない今の状態では『火球ファイヤーボール』は使えないため、認識すらされない。他に自慢できるようなスキルなんて一つも持っていないはずなのだが……あれ?


諦めかけたその時、俺の脳内に、一つのスキルがはっきりと浮かび上がった。


嘘だろ……。

俺は慌ててそのスキルの名前を確認した。


……。

『???』


「な、なんだこれ!?」


俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。

スキルの名前が、なんと三つのクエスチョンマークだったのだ。


「ようやく気づいたみたいね」


少女――シヅキはハンモックから降り立ち、相変わらず氷のように冷たい無表情のまま言った。


「そのスキルこそが、勇者の『究極奥義』。あなたがずっと魔法の杖ばかり使っていたせいで、剣を持たないと発動できないそのスキルに今まで気づけなかったのよ」


俺は驚きのあまり、言葉を失った。


そんな馬鹿な話があるか?

剣など振ったこともなく、最弱のスライム相手にすら命がけで苦戦するこの俺が、神に選ばれた『代勇者』? あの絶対的な力を持つ勇者に挑む存在だと?


「待てよ……じゃあ、なんでスキルの名前が『???』になってるんだ?」


「その三つの文字は、十七年前に行方不明になった『かつての勇者の仲間たち』三人が、それぞれ一文字ずつしか知らないからよ」


「……はい?」


確かに、勇者の究極奥義の名前を知っているとすれば、当時のパーティーメンバーだろう。

だが、なんで一人一文字ずつなんだよ! 面倒くさいな!


「あなたが何を言いたいかは分かるわ」

シヅキは微かに微笑みを浮かべて言った。


「でも、かつての勇者も、旅の中で仲間を集め、彼らからヒントを得て自分の必殺技を完成させ、最後に魔王を打ち倒したのよ。だから、私たちの今回の使命もそれと同じというわけ」


そんな話、今まで誰からも聞いたことがない。

もちろん、国が公式に発表している「勇者様の英雄譚」にもそんな裏話は一切出てこない。(まあ、暴君となった今の勇者が、そんな都合の悪い話を残しておくわけがないが)

目の前にいる、素性も知れないこの少女の言葉を、手放しで信じることは到底できない。


俺の半信半疑な顔を見て、シヅキはさらに畳みかけた。


「じゃあ、他にこの現象を説明できる? あなたは、名前も知らない剣のスキルを密かに猛特訓したとでも言うの?」

「……」


ぐうの音も出ない。

俺が剣のスキルを練習したことなど、天地がひっくり返ってもあり得ない。となれば、突然この身に宿ったとしか考えられないが、そんな事例は『勇者』以外に存在しない。

百歩譲って何かの偶然だったとしても、この少女はどうやって俺を見つけ出したというんだ?


彼女の言う「代勇者」というトンデモ設定以外に、この状況を説明できる理由が一つも見つからなかった。


「どう? 自分が『代勇者』だと認めて、私と一緒に勇者を倒しに行く気になった?」


シヅキはそう言いながら、俺に向かってスッと右手を差し出した。

その堂々たる佇まいと、有無を言わさぬ迫力。


……まあいいか。

どうせ、彼女には命を救われた身だ。騙されていたとしても、失うものなんて最初から何もない。


俺は大きく深呼吸をし、シヅキの深い海のような瞳を見つめ返した。


「わかったよ。お前と一緒に、勇者を倒しに行ってやる」


これが、俺の初めての「YES」だった。


「――おい! 上に誰かいるのか!」


その瞬間、床下からドンドンと板を乱暴に叩く声が響き渡った。


「誰だ……」


この一年間、誰一人として訪ねてこなかった俺の部屋にやってきた珍客(?)に、俺が声をかけようとした瞬間。

シヅキが素早く俺の口を両手で塞いだ。


「しっ……!」


「俺たちは『捜索隊そうさくたい』の者だ! 我々の密偵が、『反勇者同盟』の女がお前と一緒にこの建物に入っていくのを確認している! 大人しくその女を引き渡せば、お前に危害は加えない!」


捜索隊!?

こいつ、あんなヤバい連中に喧嘩を売ってたのか!?


『捜索隊』――それは、暴君たる勇者への絶対的な忠誠を誓い、反逆者を容赦なく狩り立てる超エリート集団だ。勇者は自身の支配を脅かす者を最も警戒しているため、この部隊は現在、世界で最も精鋭揃いの恐ろしい組織となっている。


一方の『反勇者同盟』は、現在勇者に反発する者たちの中で最大規模を誇るレジスタンス組織だ。事実上の「反逆者のトップ」と呼んでも過言ではない。


俺が驚いてシヅキを見ると、彼女は酷く悔しそうな顔をしていた。


「くっ……一杯食わされたわ。まさか尾行されていたなんて……」


え、もしかして自分が追われてる自覚あったの? 

ていうか、本当にお前、反勇者同盟のメンバーなのか!?


もしこれが赤の他人なら、俺は一秒で窓から突き落として売り飛ばしていただろう。

だが、シヅキは俺の命の恩人だ。それに、ついさっき「一緒に勇者を倒す」と約束してしまった以上、俺も立派な(?)反勇者同盟の仲間入りを果たしてしまっている。


「どうする?」


俺が小声で尋ねると、シヅキは俺が彼女を裏切ろうとしなかったことにひどく驚いたようだった。

一瞬きょとんとした後、彼女は小さな声で答えた。


「……てっきり、すぐに私を突き出すものだとばかり思っていたわ。……こうなった以上、もうこれしかないわね」


シヅキはそう言いながら、部屋に一つしかない窓へと音もなく忍び寄った。

俺も足音を殺して彼女に続く。だが、階下から聞こえてくるドアを叩く音は、秒を追うごとに激しさを増していき、俺の心拍数を爆上がりさせた。


「返事がないな! 上に突入するぞ!」


ヒィッ!?

階下から聞こえてきた、日常茶飯事のようにドアをぶち破ろうとする物騒な宣言に、俺の心臓は縮み上がった。


「おい、シヅキ……!」

俺が声を押し殺して叫ぶ中、シヅキは無言で窓をサッと開け放った。


「ここから出るわよ」


そう信じられない台詞を口にしたシヅキは、片手を窓枠にかけ、ほんの少し足に力を入れたかと思うと、その小柄な身体を軽々と宙に浮かせ、あっという間に外の屋根の上へと降り立ってしまった。


「マジかよ……」


呆然とする暇はない。

背後からは、捜索隊がハシゴを登り、屋根裏の扉を「ドゴォォォン!」と強行突破しようとする死神のノックが響き始めている。


俺は半泣きになりながら窓から飛び出し、シヅキの背中を追って屋根の上を走り出した。


(――俺、極度の高所恐怖症なんだけどぉぉぉぉっ!!)

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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