114鱗目:初詣!龍娘!
「ね、ねぇちー姉ちゃん?それにさなちゃん?ほんとに……ほんとにそれ、着なくちゃだめ?」
まだ日が登る気配すらない程朝も早い外が真っ暗な時間、僕は目の前に広げられた煌びやかな「ソレ」を前に、後ろに立っている2人に逃げ腰になりながらそう尋ねる。
「だーめっ、せっかく私とさなかちゃんで見繕って特注したんだから!」
「そうよ鈴、せっかく千紗さんが汗水垂らして稼いだ50万円を無下にする気?」
「ごひゅっ?!」
そんなにっ!?たかがこれ一着で?!
「…………8ヶ月……いや、10ヶ月分の生活費が……これ、一着で……」
「それじゃあ鈴ちゃん、もう嫌なんて……言わないよね?」
「さっ、観念して大人しくしなさい」
「うぅぅぅ……」
50万……そう、これは50万を無駄にしないためだからぁー…………!
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「隆継くんお待たせー!ごめんね待たせちゃって!」
「あぁ、大丈夫です大丈夫です。どうせ鈴香が嫌がってたんでしょう?」
「まぁそんな所よ。ほら鈴、いつまでも隠れてないで出てらっしゃい」
「わっ、わわわっ!」
「ほぉ……似合ってるな…………うん、すっげぇ似合ってるぞ。その振袖」
「そ、そうかな……えへへ」
隆継に心の底からと言った声色でそう褒められ、さなちゃんにリビングへと引っ張り出された僕は、照れながら頬を掻いて笑顔を浮かべる。
そんな僕が着ているのは若葉色の生地の袖や裾に白や薄ピンク、水色でツツジや牡丹、桜の柄が施されたとても華々しい着ているだけで楽しくなる振袖だった。
勿論夏の失敗は繰り返さないと言わんばかりに、ピッタリサイズの尻尾穴と翼の穴は開けてある。
「うんうん!やっぱりそうだよね!」
「鈴は水色とか若葉色みたいな明るめの派手じゃない色が似合うものね」
「あぁ、振袖着せられるのは知ってたけど想像以上に似合っててビビったぜ」
「えへへへへ……ん?」
今隆継着せられるの知ってたって……
「もしかして……隆継、僕が振袖着せられるの知ってた?」
「…………うし!それじゃあ初詣行こうぜ!」
「あっ!こいつ知ってたなぁー!まて隆継ー!」
「こら鈴!せっかく綺麗に気つけたんだから走らない!」
「ふふふっ♪今年も賑やかになりそう」
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「お!きたきた!おーい!こっちやでー!」
「あ!とらちゃーん!」
車で数分、運良く人もまだ少ない近場の神社へ皆と一緒に初詣にやって来た僕はカコカコと下駄を鳴らしながら、待ち合わせしていたとらちゃんの方へと駆け寄る。
ちなみにむーさんは母方の実家に帰省中とのことで、残念ながら居ない。
「すずやんその振袖凄い似合っとるで!翼とか尻尾とも色が合っとって凄く綺麗や!」
「ありがとー!でもそういうとらちゃんだって!その赤色の振袖、すっごい可愛いよ!」
「ふふふっ!ありがとうなー!」
「……鈴香もすっかり女の子だな」
「そうね、嬉しいんだけど……なんだか少し寂しいわね」
「でもさ、それでも鈴ちゃんが「僕は男だっ」て今も言ってるの……なんか良くない?」
「「分かる」」
「三人共どーしたのー?早く行こー!」
キャイキャイと思わずとらちゃんと盛り上がってしまった僕は、なんだか頷きあっていた三人に早く行こうと声をかけ、お賽銭箱の前に向かう。
「うっし!それじゃあいっちょ神様にお願いしますか!」
「皆は何をお願いするの?」
「アタシは今年一年健康に過ごせるようにってお願いするつもりよ。後はそうね……約一名、たで始まってぐで終わる人がもっと落ち着いて過ごす事くらいかしら?」
おぉ、流石さなちゃん、新年から容赦ないなー。
「うるせぇ!そもそも鈴香が居る時点で落ち着いて過ごせねぇよ!」
「風評被害!とらちゃんはー?」
「ウチか?ウチは今年こそりゅーくんと……って内緒や!」
あー、顔赤くしちゃって……可愛いなぁとらちゃんは。
「ウチの事はおいといて!たかくんはどんなお願いするん?」
「俺か?俺はなぁ……ガチャで星6が当たるようにかな?」
うわー……隆継煩悩にまみれてるなぁ……除夜の鐘じゃ打ち消せなかったか。
「あんたって奴は……」
「たかくんらしいけど、絶対に叶わないと思うでー?」
「んなっ!?」
「それに初詣のお参りって確かお願いと言うよりも、今年一年これを頑張るので見ていてください、みたいな感じじゃなかったっけ?」
「ガーン」
隆継の欲望まみれのお願いを聞き、僕達は少しとはいえ思わず引いてしまうのであった。
「口でガーンって言っちゃってるし……それで、そういうちー姉ちゃんは何を?」
「私はねー、もっと鈴ちゃんとイチャイチャ出来ますようにかなー?」
イチャイチャって……でも────
「ぎゅう」
「わわっ!鈴ちゃん!?」
「神様にお願いしなくても、僕がしてあげるもん」
「はぁうぅ……!ん、んんっ!それで、鈴ちゃんはどんなお願いしたの?」
「僕?僕はねー」
ちー姉にお願い事を聞かれ答えそうになった所で、僕はふと「誰かに話すと願いは叶わない」という話を思い出してしまい────
「僕のお願いは……」
「「「「お願いは?」」」」
「お菓子食べ放題!」
「ぶふっ……!ちょっ!お前!」
「すずやんそれっ……!絶対嘘やん!」
「ふふふっ、でも鈴なら……本気でありそうじゃない?」
「確かに、鈴ちゃんお菓子で大喜びするもんね」
「だって僕お菓子大好きだもーん」
そう言って皆と笑い合ったのだった。
胸の内で「いつまでも皆と過ごせるように」そう願いながら。
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「──ゃん、─きて鈴ちゃ──着い──、起き─起きて鈴ちゃん」
「んん……ちー姉、ちゃん?」
ここは……僕は確か…………
「ふふふっ♪年明け前から寝ずにはしゃいでたからかな?鈴ちゃんったら車に乗った途端かくんって寝ちゃったんだよ?」
車……あぁそっか、確か皆と初詣行ったあと家に帰って着替えて、それから新幹線に乗って……
「移動用にちー姉ちゃんが用意してた大型タクシーで……」
「やーっと思い出した?鈴ちゃん後部座席に座った途端かくーって寝ちゃって、翼とか尻尾大変だったんだよ?」
「あはははは……申し訳ない」
ちー姉ちゃんに揺さぶられもぞりと起き上がった僕は、ちー姉ちゃんと話しながら今の状況を改めて思い出し、ガタガタと走っている車の窓から外を見る。
「久しぶりだね、ちー姉ちゃんの実家」
おばあちゃん元気にしてるかなぁ。
「そう、帰ってきたんだよ。私達の実家にね」
「僕達の……うん、そうだね」
山の間から朝焼けの指す中、僕達はそう遠目に見える御屋敷をみて呟いたのだった。
そう、僕達も隆継やさーちゃんが実家に帰るように実家へと戻ってきていたのだった。
にしても……うひゃあー、やっぱり近くで見ると大きいなぁ。
「ただいまー」
「た、ただいまー」
「おかえりなさい。よー帰ってきたね千紗、それに鈴香」
「はい……おばあちゃん」
久しぶりに、今度はちゃんと玄関からきちんとおばあちゃんに迎えてもらい、僕は相変わらずその大きな家に上がらせてもらう。
「ちょーっと見らん間にこぎゃん大きくなってから、前はもう一回り、んにゃ二回りは小さかったとに」
「あはははは……」
流石にそんなに小さくはなかったよね?にしても、相変わらずおばあちゃんの訛り凄いなぁ……
「そんなら、そぎゃん大きくなった鈴香にはお年玉ばやらんとね」
「おとしだま?」
おとしだま?落とし玉?え、玉を落とすの?何に?なんかやばそう危なそう。
「そうだった、私も鈴ちゃんにお年玉用意してたんだった」
ちー姉ちゃんも落とし玉を!?
落とし玉という聞きなれない単語を聞き、なんだそれはと想像をしていた僕は、おばあちゃんとちー姉ちゃんがポケットやバックに手を突っ込んだのを見て身構える。
そして────
「はい、お年玉」
「……袋?」
どう見ても袋……だよね?玉は?落とす玉は?
「もしかして鈴ちゃん、お年玉が何かわかってない?」
「う、うん……てっきりなんか玉を落とすのかなって」
「鈴香はお年玉すら知らんかったとか……千紗」
「な、何?ばあちゃん」
訝しげに2人から僕が袋を貰い、思っていたことをそのままちー姉ちゃん達に伝えるとおばあちゃんは一瞬唖然とした表情を浮かべた後、ちー姉ちゃんに何かを小声で話し始める。
「あーた、ちゃんと鈴香の面倒みとっとね?お年玉ば知らんなんておかしかにも程があるばい」
「そ、そぎゃん事言われても……私だってまさか鈴ちゃんがお年玉を知らないなんて思ってなかったんだから」
「とにかく、まちーっとあん子にも色んな事ば体験させてやりなっせ。それこそあーたやばあちゃんが普通って思っとる事から」
「う、うん」
「えーっと……ちー姉ちゃん?ばあちゃん?」
さっきからなんか割と失礼な事を言われてるような……
「な、なんでもなかよ」
「う、うん!なんでもないよ!ほ、ほらっ、鈴ちゃんそのポチ袋開けてご覧」
「わ、分かった」
こそこそと話していた二人にそう言われ呆気に取られていた僕が、はぐらかそうと慌てた様子のちー姉ちゃんにそう急かされ手に持っていた袋を開けてみる。
「お金?こっちもお金……あ、もしかしてお年玉ってそう言う?」
「そうそう、大切に使いなさいよー?」
「うん!」
「さっ、それじゃあーた達にはまた料理ば手伝って貰おうかねぇ」
「「はーい」」
こうして、僕の三日間の里帰りが幕を開けたのだった。
読者の皆様、今回も「ドラゴンガール」を読んで頂き誠にありがとうございます。
まだまだ投稿再開、という程やる気なんかの回復が出来ていませんが、幸いにも書き溜めや全くやる気がない訳では無いので、安定して更新出来るくらいまで回復するまではこのような形で不定期更新させていただきます。
ただ、月に一度は更新すると思いますのでご安心ください。
そしてもう一つ、来週から新作「昭和TS転生譚」を投稿し始める予定です!
こちらは多分夏休みまでほぼ休日を除く毎日投稿する予定なので、もし良ければそちらも読んで見てください!
それでは皆様、また次回お会いしましょう!




