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無縁人間  作者: 片桐洋右
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最終章 無縁人間 1

 青葉署の黒田康司が澤田病院の玄関口に姿を現したのは、午前十時を過ぎたところであった。マスコミと患者の人波の中を、頭一つ分飛び出した黒い影が進む。

 黒田は受付の前を通り、階段を昇り、早足で進んでいる。すれ違う人は黒田の発する只ならぬ雰囲気に次々と道を譲っていく。

 ナースセンターの前を右に曲がって、さらに進み、整形外科病棟の個室棟の廊下で立ち止まった。雨音が廊下に響いている。つい七、八時間前に殺人未遂事件が発生した現場とは思えない静けさだ。

 黒田はしばらくの間、背中を向けて廊下に立っていた。正面には、特別室への薄暗い廊下が続いている。

 やにわに振り向き、廊下に設置された防犯カメラに目を向けた。誰に対してなのか、何の意味があるのか、カメラに笑いかける。

 再び歩みを進める。最後の角を曲がってすぐのところに特別室の扉がある。黒田はポケットから鍵を取り出して鍵穴に差しこんだ。シリンダーの外れる音がして鍵が開く。

 建てつけが悪いのだろう、子猫が鳴くような音を立てて扉が開いた。黒田は特別室の中に入ると、真っ直ぐ正面に進み、カーテンを開く。部屋の中に薄明かりが差しこんできた。

 やがて黒田は奇妙な行動を始めた。壁にかかった額縁をずらして裏側を確認し、ベットやソファの位置をずらす、壁を叩いたり、耳を当てている。何かを探しているようだ。

 黒田は再び入り口のところまで戻ると、目だけを動かして部屋の中をゆっくりと眺め回した。

「おい、ボタンがあるはずだろう」

 突然、黒田が言葉を発した。視線はいつの間にか、正面に向けて留まっているが、先には誰もいない。ただ窓が鈍色にびいろの空を切り取っているだけだ。

「自由に出たり入ったりできるってことは、この部屋の何処かに入り口を開けるボタンがあるんだろう?」

 黒田はいったい何を言っているのか、そして黒田はゆっくりと斜め上に顔を上げた。そう、院長の澤田を始めごく一部の人間しか存在を知らないはずのカメラに目をむけて――

「なあ、いまからそちらへ行きたいんだよ。入り口を開けてくれねえか」

 と“わたし”に語りかけた。


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