表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

本拠地



「さて。軍資金もできたことだし、まずは商会の本拠地を構えようか。」


「そうね。ちゃんとした本拠地があるのとないのじゃ信用度が違うわ。」


ということでやってまいりました商工会で紹介してもらった不動産屋さん。

おもに商売をする人向けの物件を取り扱っているということだ。


「こんにちは。」


「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ。」


店はいわゆる不動産屋さんといった構えで、店員さんは席を勧めてくる。


「本日はどのような物件をお探しで?」


「商会を開きましたので、その本拠地をと思いまして。」


「さようでございますか。

かしこまりました。

それでは物件に対するご要望などございますか?」


店員さんは何やら端末を叩きながら会話を進める。

この光景どこかで見覚えがあると思えば、大学生だった頃に初めてマンションを借りたあの時の不動産屋の光景だ。

母に連れられて、全て母任せで物件を決めたことを思い出す。


「はい。賃貸ではなく購入で考えております。」


ひとみがそういうと、不動産屋の店員さんは少し驚いたような顔をした。


「商会を始めたばかりなのにもう購入されるんですか?」


「はい、資産は持てるうちに持っておかないと損ですから。」


「?かしこまりました。」


しばらくすると、不動産屋さんがいくつかの物件候補を持ってきた。


「先ほどの条件に合う物件ですと、この辺りかと。」


「「どれどれ。」」



「このあたりでご購入となるとだいぶ値が張ってしまうのですが…。」


見せられると、たしかにどれも億単位の高額物件だ。

この街の物価からするとだいぶ高額なことは想像に難くない。

しかし、ほんの少し前まで数千兆単位の金を動かしていた皆2人に言わせれば端金でしかない。


「じゃあこれにする?」


「そうだね、それにしよう。」


「えっ!?!?」

2人が決めたのはその中でも一番な高額物件である、90億円ほどの50階建のビルだ。

魔法により強化された建材を使って建てられたビルで、時代の最先端のビルらしい。

手放された理由を聞くと、前のオーナーは建築家としても変わり者としても有名らしく、新しい工法を思いつくとすぐに試したくなるらしく、方々に多額の借金をしてまで建てるのだそうだ。

しかし、建ててしまうと興味は失せ、所有欲もないので、借金を返すためにすぐ売却してしまう。


新しい物好きの貴族たちは、彼の建物をこぞって欲しがるため、なんとか借金を返せてはいるがまた借金を繰り返し新しい建物を建てるのだとか。


このビルは、彼の最新作にして、これまでのキャリアの集大成なのだそうだ。



「ほ、本当にこのビルでいいのですか…?」


「いいわよね?」


「もちろん。支払いはカードで。」

あきらはウォレットを差し出す。


「し、しかも即金!?!?」


あきらとしてはむしろ利息を払う意味がわからないと思っているタイプである。


「はい。お願いします。」


「か、かしこまりました…。」

店員さんは恐る恐るあきらのカードを受け取り、端末に通す。


もちろん900兆円以上残高があるカードなので、90億円など痛くも痒くもないのだが。


端末は何事もなかったかのように決済し、そのことがまた店員を怯えさせる。


「ど、どちらのお貴族さまか存じ上げませんが、命だけは…。」


「だだの商会長とその妻ですよ。お気になさらず。」


「そうですわ。どうぞかしこまらずに。」


「は、はい…。」


そのあとは店長さんが来たり、社長さんが来たりしててんやわんやあったが、なんとかその日のうちに現状のままで引き渡しをしてもらうことができた。


ちなみにこのビルは新築であり、まだどこのテナントも入っていない。

その点も気に入ったポイントの一つである。



「とりあえず改築から始めるか。

ひとみが図面を起こしてくれ。」


「そうね。わかったわ。」


不動産屋さんが帰った後で、2人はビルの中に入り何やら物騒な話をしている。


「まず商会長室は最上階。この辺は高い建物が何にもないから見晴らしはいいぞ。」


「そうね。あと最上階から下の10フロアは、商会で使いましょう。」


2人は立体ホログラムを共有しながら、共同で立体図面を完成させていく。



そうしてしばらくすると立体図面が完成した。


「あとはこれとこれを組み合わせて…。」

シャトルの修理キットに入っているナノマシンに魔力を与えて改造し、新しい魔法をこともなげに生み出すあきら。


「よし!これで一晩で完成する!はず!」


「はずなのね。」



あきらはなにをしたのかというと、元々あったナノマシンを魔法の力で増殖させなおかつ処理速度も処理能力も魔改造した。

それを使って立体ホログラムに起こした図面を読み込ませ、シャトルの修理をするのと同じように改築してしまおうということだ。

因みにこんな横車を押すような真似は、元の世界でもできない。


「あとは待つだけ!」


「じゃあ帰りましょうか。」


2人は手を繋いで、食べ歩きをしながらホテルへと帰った。




翌日。



ホテルのおいしい朝食を食べ終わると、本社屋に向かってみる。


すると社屋の前がなにやら人だかりができている。


「なんの騒ぎだろ?」


「なにかしらね?」


社屋の前まで行くと、人々が皆驚いている。


それもそのはず。

昨日までは、我々基準で一昔前の普通のビルだった、最新式のビルが、我々基準での最新式のデザインのビルになっているのだ。


魔法で強化されているということから、向こうの世界では難しかったデザインも難なくこなせるということで多少個性が暴走している事は否めない。



屋上にはシャトルの駐機スペースも誂えられており、宇宙に待機させておいたシャトルも既に停泊させてある。もちろん光学迷彩は解除していないが。



「おっ!大成功だな!」


「ほんと!素敵だわ!」


正面の人々にバレないように、ビルの裏手に回り、社員専用の通用口からビルの中に入る。

通用口のロック会社は指紋認証と網膜認証だ。

一昔前のように、わざわざ手のひらをスキャンしたりカメラをじっと見たりする必要はない。

そのままナノマシンで出来た扉に向かって歩くだけで、勝手にドアが開いてくれる。



「お疲れ様でーす。」

「お疲れ様です。」


2人がそう声をかけるのは守衛さん。

守衛さんと言っても人間ではなく、昨日建物を作ってくれたナノマシン群だ。

建物の建造が終了すると、人型になって守衛さんとして建物を守るようにプログラムを組んでおいたのだ。


「お疲れ様です、艦長、副艦長。」

シャトルの修理キットを使用したので、あきらとひとみのことは艦長、副艦長と登録されてあるため、この呼び方になっている。



「侵入者はいませんでしたか?」


「はい、侵入者はありませんでした。」


「よかったわね。」


「そうだな。

守衛さん、今日は商会フロアを使わせてもらうよ。」


商会フロアとは、当面は商会で使う予定の、40階から上のフロアのことだ。


「かしこまりました。

お気をつけていってらっしゃいませ。」


「はい、ありがとうね。」



2人はエレベーターで、まず最上階の商会長室に向かう。

このエレベーターも魔法の力とナノマシンの力で再現したものだ。

電気でなく魔力で動くので魔導エレベーターとでも名付けようか。



エレベーターが開くと、全面ガラスの商会長室に出る。


「わぁ!素敵な景色!」


「ほんとだな。」


この商会長室は、向こうで使っていた部屋に極力近づけている。

一番仕事をしやすいように考えて使っていた部屋なので、ここでの仕事にちょうどいいと考えたのだ。


「なんかしばらくいってないだけなのにすごく懐かしい感じがするわ。」


「そうだな。こちらでの日々は濃密だからか俺もそんな気がする。」


「色々と楽しみね。」


「そうだな。」


2人の異世界生活はまだ始まったばかりである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ