護衛の仕事には危機感を持て 伍
10話目です! なんか嬉しいです!
読者の皆様も楽しんでいただけると幸いです!
とっさに渋沢が胴を守るように両腕を体の正面へと持ってくる。
刀が肉と骨を断ち、両腕を切断する……─────
─────ガキン!!!
───かと思いきや、
「あぶ、ないなあ、高杉君……。目的は私かい?」
「ちっ」
スーツが斬られ、その中から腕が覗く。
その腕の肌は健康的な、一般の肌の色とは違う。
硬そうに、赤金色に、鈍く輝いている。
────渋沢栄一
異能力『また雨ざらしにされるのはごめんだね』
自身の体を銅へと変える能力だ。
高杉が思わず舌打ちしてしまう程に硬い。
後ろからの気配。高杉は地を蹴り、宙へと飛ぶ。僅かに白いシャツを掠った。中岡と目が交じる。
───第二擊
高杉は空中を蹴り、方向を転換してその追撃を避けた。
そして、渋沢の目の前に居る中岡へと笑いかけた。
「危ねぇなぁ」
────高杉晋作
異能力『翼あらば』
宙を蹴り、駆けることが可能になる能力。つまり、空中戦は彼の独壇場になる。
「渋沢殿、さあ行って下さい」
「…………」
渋沢は少し顔をしかめて高杉を見る。中岡の腕を疑っている訳ではない、しかし他の3人を逃がしている時間があるのか、とおかしな話だが敵へと目で問いかけた。
その視線に高杉はニッコリと笑って、どうぞ?とでも言うように手を動かす。その姿と仕草は中岡にしか用など無い、という意思が表れている。
「……悪いね。中岡君と二人きりにしてあげる方に協力しよう」
「そりゃありがてぇ。心置きなく殺れるぜ?中岡」
「貴様の相手なんぞ願い下げだが、話を聞かせろ。答えれば僅かな間だが……
全力で御相手しよう」
そう告げ、中岡の鋭い殺気が高杉を定め貫く。
中岡の申し出とその殺気を全身で受けてなお、彼は引かない。むしろ待ってました、と言わんばかりに頬を吊り上げた。
……が、何を聞かれるのかと首を僅かに傾ける。
「……内容次第だ」
中岡の冷たい殺気と高杉の禍々しい殺気が混じり合っている。
「まさか1人で乗り込んで来たわけでは無いよな?
貴様のことだ、経験の浅い奴等も混じった大人数ではなく、1人で多大な戦力を持つ少数精鋭……。
貴様も含め……まあ、5人程度かそれ以下だろう」
「それ以上で来ていたらどうするつもりだ?
何度も刀を交えているから分かるだろうが、俺は気まぐれだ。
混乱に応じて大量の部下共が押し寄せてきたら?
その未来は見えてないのか?」
本心なのか、それとも惑わす戯れ言なのか、邪悪に笑ったままの高杉から読み取ることは難しく思えたが、
「ああ、見えていないな」
間髪入れず中岡は答えた。
「……言い方が悪く失礼だが、貴様がわざわざ無能を好き好んで使うとは想像できん。
では問うが、貴様と共に来た奴等は何が目的だ」
刀を体の正面に、足は肩幅よりも遙かに広く、答えた瞬間に戦闘が始まるとでも云うように。
その姿を見て、高杉はふん、と鼻を鳴らして舌なめずりをする。そして答えた。
「2人の目的は俺の目的だ。
───気に入らねぇ、面白くもない政治で出来た此処を壊す。
ただそれだけだ」
同じく高杉も構えを取った。
お互いを睨み合い、その間に相手の行動を予測して定め、対策と攻略を立てる。
思考が終わる、その瞬間に2人は刃を交え、激しく打ち合っていた。
「げほっ…ごほっ…! ……がっは、……うえ、なんか入った……」
周りがさっきの部屋と違う、背中が異様に痛い、壁などがガラガラと音を立てて瓦礫と化していく。
さっき、何があった? なんで俺は……?
何が何だか分からず頭が働いていないことが分かっている。
落ち着け、俺。一度深呼吸しよう……
「ごっほげほっ!!」
「っ……!」
近くから誰かの声……男性かな、多分。
……が聞こえてきて思わず体を守るように両腕を体の前に持ってきた。
でも、心配は要らなかった。
あの黒スーツの護衛の人だったから。
…………ちょっと安心した、かも。
ほっと一息して、彼に手を差し出そうと立ち上がった。
「大丈夫ですか?」
「ん? ……ああ、君か。ありがとう」
手を差し出せば、お礼を言って手を取ってくれた。
丁度良いからこの人から何が起こったのか聞こうと思った。
そうすれば何が起こったか、思い出せるかも知れないから。
───その心配も彼の洩らした独り言で無用になった。
「くっそが、あの金髪銀髪共が……!」
「………あ…………………!」
そうだ、思い出した。
お茶を飲んでいたら突然壁に穴が開いて、
そこから確か……
「ちっ……。ったくよぉ、高杉さんは人使い荒いんだよ。これだから戦闘狂は……」
「「!」」
恐らく俺が飛ばされて作ったであろう、壁のいくつもの穴の向こうから小さな瓦礫を踏み壊し、現れたのは目を引く長い銀髪を持つ女。
白のトップスの上から紺色のカーディガン、少しひらっとしたスーツのズボン。
白く繊細そうな、きめ細かい肌をしたその手には、藍色の帽子を持っている。そしてそれを深くかぶった。
「まあ、これもあの人の為、か……。なら仕事はしねぇとなぁ」
帽子の下から見える目は黄金色に輝いて、細められた。口元は小さな三日月の形になり、何か呟いている。
彼女が俺達にも聞こえるように声を張り上げた。
「お初にお目にかかるな護衛共。
オレは反乱軍 遊撃部隊『山塊』所属の
二葉亭四迷」
女はニタリと妖しげに笑って、首を親指で切るような仕草をした。
「じゃあくたばれよ」
「っ!!」
目を見れば分かった、初めから、今も。
彼女は強い。
少なくとも俺よりも。
俺はすぐに逃げようとした。そして、中岡さんの所に行こうとした。彼ならあの女にも負けないはずだと思ったから。
そう判断して、俺は傍の男の人を連れて逃げようと……
「なめるなよ、青臭ぇ小娘が!!」
「っ!? ちょっと!!」
勝ち気な笑みに苛立ったのかなんなのか、懐から拳銃を取り出し、二葉亭と名乗った女に発砲した。
頭の中で警報が鳴った。すぐに手を伸ばす。
「やめ───」
俺が止める前に、
「オレが女だから何だよ、なあ? 雑魚」
目の前の人の頭に、1本のナイフがめり込んで貫通していった。
彼を受けとめた。
額に縦に長く大きい穴が空いて、赤いものや、頭の中身が漏れ出ている。
女を見た。
彼女にも銃弾が撃たれたはず。
見てみれば、彼女の目の前に1つの銃弾が止まっていて、カランと音を立て、地に落ちた。
その顔は笑っている。嘲るように、貶すように。
「さて次は、」
なんでもっと速く動けなかった、助けてやれなかった。
どうして、どうして俺は………!!!
「お前だな」
「てめぇっ!!!」
人が死んだ悲しみやら、殺した相手への怒りやら、救えなかったもどかしさやら、後悔やら……
俺の心の激情がごちゃごちゃに混ざっている。正直何を考えているのか、自分でもよく分からない。
ただ俺は、目の前の女に駆けた───




