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神化論 after  作者: ユズリ
古代竜狩り
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古代竜狩り 63

 わかったと、やはり声には出さずにハルファスに返事をする。

 マナの影響を受けて成長した古代竜……それは相当な強敵なんじゃないかとも思ったが、しかしローズは怯むこと無く真っ直ぐ狩るべき対象へ向かっていた。

 

 ローズにだって、強敵に対する恐怖心が無いわけではない。しかしそれを上回るほどに、自身が知っているジュラードの真摯な願いが行動と原動力になっていた。

 

 ジュラードを襲撃後、その攻撃からジュラードが逃れたと知ったドラゴンの背後から、大剣を振りかぶったローズが接近する。間合いを詰め、巨木の幹のようなドラゴンの後ろ足へ横薙ぎの一閃を走らせた。

 刃と、ドラゴンの表面を守る強靭な鱗が接触すると、その一瞬に激しい火花が青白く咲く。ドラゴンの肉体を守る鎧と言っても過言ではない鱗に覆われたその表面は想像以上に硬く、弾かれそうになった刃をローズは無理矢理に押し込んだ。

 

「ぁぁぁあああああっ!」

 

 僅かな手ごたえ。

 だがそれを感じたと同時に、ローズは本能的に身を引いてその場を離れる。その回避行動のまさに直後、ドラゴンは大きく開けた口から死の吐息を吐き出した。それは灼熱に燃える、紅蓮色のブレス。

 間一髪でブレスを回避したローズは、肌に焼けるような熱波を感じながらも背筋に冷たい汗を掻く。まだだいぶ加減をしているような威力のブレスだったが、しかしそれでもマヤの得意な火の魔法のように簡単に灼熱の炎が生み出され、それが自身へと襲い掛かってくるのは恐怖だ。

 青白い空間を真紅に染める炎を瞳に映しながら、ローズは「火のブレスか……」と小さく呟いた。

 

(毒ガス系でなかったのは幸いだな)

 

 ローズの呟きに反応するように、彼女の中でハルファスがそう言葉を漏らす。確かにハルファスの言うとおりだった。

 こんな閉鎖的な場所で毒ガスのブレスなんてものを吐かれては、正直こちらは打つ手が無くなる。だが炎や凍て付く寒さを吐き出すようなブレスならば、まだ多少はこちらにも対処のしようがあるだろう。

 ローズは自身の足元にまで伸びたブレスの炎を、大剣を横薙ぎに払って消失させる。そうして彼女は不敵な笑みと共に、巨竜を見上げた。

 

 ドラゴンのブレス攻撃を見て、ジュラードも目の前にいるヴォ・ルシェが炎を吐くタイプであると理解する。炎は比較的多い種類のそれだが、しかしドラゴンと戦った経験が少ないジュラードには、どんなブレスも共通して厄介な攻撃方に思えた。

 ドラゴンを挟んで反対側にいたジュラードのところにも凄まじい熱波が流れて肌の表面にまとわり付いてきたので、おそらくあの炎に直接焼かれれば一溜まりもないだろう。

 

(と言うか、うさこ大丈夫なのか?)

 

 ふとジュラードは『安全な場所にいろ!』と命令しといたうさこの事が気になる。

 まぁもともと危険なとこには近寄らないどころか震えながら逃げる生き物なので大丈夫だと思うが、しかしこの場所がブレスによって温度が上がりすぎると、最悪熱に弱いうさこが溶けてしまうんじゃないかと彼は心配した。

 

(……そうなる前に決着をつける、か)

 

 どちらにしろあまりに戦いが長引いて消耗戦になってしまっては、自分たちがいっそう不利になってしまうだろう。

 ブレスによる炎が消えるのを確認し、ローズが動いたのを見てジュラードの体も自然と攻撃の態勢へ移る。

 

 ドラゴンのような一撃が致命傷になりうる強敵相手の戦いの基本は、相手の攻撃の隙を突いて、こちらの攻撃を当てていくことだ。攻撃を急ぐあまり、逆にこちらが隙を見せてしまえば一撃でやられる場合もある。

 戦いを長引かせてはいけないという考えと矛盾するかもしればいが、しかし焦りすぎるのも禁物だ。そのさじ加減が正直今のジュラードにはよくわからないのだが、しかしそこはローズがフォローしてくれるだろう。

 自然と共に戦う仲間を頼れるようになった自分の思考に少し不思議なものを感じながら、ジュラードもドラゴンへと接近して間合いを詰める。ブレス攻撃の直後は体勢を整える為に、まさに相手側に隙が生まれるチャンスの一つだった。

 

 先に走ったローズが、再び足を狙う。先ほどの一撃では傷を負わせはしたが、しかし致命傷には程遠いものだった。

 ハルファスのサポートを受けているローズの力は決して弱いものではなく、それどころか普通の成人男性の筋力を大きく上回る力を発揮しているのだが、そんな彼女でさえその程度の一撃しか与えられないのだから相当に相手の防御力は高い。なのでローズは同じ場所を繰り返し狙う事で、ダメージを蓄積させて相手の防御を看破しようと考えているのだろう。

 ならば自分はローズが攻めやすいようドラゴンの隙を増やす為に、危険ではあるが囮になるのがいいとジュラードは考える。彼はドラゴンへ向けて飛翔し、わざと派手に攻撃を仕掛けた。

 

「はあああぁあぁぁぁああぁっ!」

 

 相手の気を引きつける為に、雄叫びと共に切りかかる。途中ドラゴンの後ろ足を足場にして飛翔の距離を伸ばし、上方からドラゴンの翼目掛けて黒い巨大な刃を振り下ろした。

 ジュラードの振り下ろした刃は、空の覇者であることも示すドラゴンの左翼に傷を付ける。肉体ほど強固では無いだろうと考えていたドラゴンの翼だが、しかし巨体を空で支える部分なだけあって、見た目以上にこちらも硬い手ごたえだった。しかし、やはりドラゴンの弱点の一つなのだろう。

 

『グルオオォォォオオォォォォオオォオォッ!』

 

 翼を傷つけられ、ヴォ・ルシェの怒りを帯びた雄叫びが辺りに響き渡る。傷つけられた両翼を広げ、偉大なる古代竜は地面へと着地したジュラードへ烈火の如く怒る眼差しを向けた。

 

「っ……」

 

 古代竜に怒りの矛先を向けられて、再び金縛りのように恐怖がジュラードを襲う。だが今度はローズの呼びかけが無くとも、幸いにも直ぐに硬直は解けた。

 ドラゴンが頭を持ち上げ、大きく口を開く。それがブレス攻撃を行う時の動作だという事はジュラードにもわかっている。しかし当然発射されるブレスが”炎”だと思っていたジュラードたちは、次の瞬間その予想を裏切られて驚愕した。

 いや、少なくともローズはドラゴンがブレス準備の動作をした時点で『おかしい』ということを感じていた。ローズがそれを感じられたのは、おそらく彼女がマナの変化を感じる事が出来たからだろう。

 

「なっ……!」

 

 驚愕に見開かれるローズの目の前で、ドラゴンが予想通りに遥か高い頭上からブレスを吐き出す。だがそれは先ほど見た紅蓮の炎では無く、その正反対といってもいい凍て付く白い吹雪だった。

 そして吐き出された吹雪の範囲は先ほどの炎のブレスよりも広く、ブレスの動作を確認して十分な距離をとって離れたと思われたジュラードに、白い死神の吐息が降り注ぐ。

 

「ジュラードっ!」

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